ビジネスマンのためのさくっと分かるコーポレートガバナンス ー トヨタ自動車の会長選任議案に議決権行使助言会社が反対の意味
米助言ISS、トヨタ豊田章男会長の再任反対
株主総会の時期も近づき、新聞では株主総会関連の記事が増える時期になりました。株主総会の関連用語は、機関投資家や企業でIRなどを担当される方以外には、結構、理解が難解な言葉も多いと思います。
「ビジネスマンのためのさくっと分かるコーポレートガバナンス」でも今後、日経新聞等での総会関連のネタも分かりやすく解説をしたいと思います。
本日の日経新聞で次の記事がありました。
本日はこの記事についてどう読めばよいか解説をしたいと思います。
議決権行使助言会社とは何者か?
まずそのためには、この議決権行使助言会社とは何者かが重要ですね。この会社が会長の取締役選任議案に反対推奨をしたという意味です。
議決権行使助言会社とは、株主総会の際に機関投資家が投資先企業の総会議案に対して議決権を行使するに当たり、議案への賛否を推奨することを仕事としている「議決権行使の助言をする会社」です。大手ではISS社やグラスルイス社があります。いずれも海外の会社ですが、日本にも拠点があります。
トヨタの株式を持つ株主なの?
この疑問って多いです。私も20年以上前になりますが、ISS社が反対推奨という話を聞いた時、「そうかISS社という株主は総会議案に株主として反対するのか」と思いました。
けどこれは違います。議決権行使助言会社は、トヨタの株式を保有していません。分かりやすく言うと、何らトヨタと関係のない外の会社です。その会社がトヨタの会長の取締役選任議案には反対することをお薦めすると公言するわけです。あくまで賛否の推奨を行うのであり、企業の株式を保有して、自らが議決権行使をするわけではありません。
そして、その企業の株式を保有する機関投資家がAさん、Bさんの取締役選任議案に議決権行使をする際に、議決権権行使助言会社の賛否推奨レポートを購入、その内容を見て議決権行使するのです。
どの機関投資家が見るの?
機関投資家には、海外投資家と国内投資家の2つがありますが、議決権行使助言会社の賛否推奨結果を採用して議決権行使をするのは、海外の機関投資家です。これは何故でしょうか?
海外機関投資家は、日本株に投資しているといっても外国人であるため、日本企業の細かいところまで十分に理解する時間もなく、また日本企業の英文開示が十分でなく情報も足りないため、てっとり早く助言会社のレポートを使用したいことが理由にあります。
また、そもそもとして、議決権行使助言会社の議決権行使ポリシーは日本企業のコーポレートガバナンスの実態を踏まえ、かつ機関投資家の意見なども踏まえて毎年アップデートされており、日本企業を判断するに適した内容と言えるわけです。従い、海外機関投資家がこれを利用しない手はないわけです。
国内の機関投資家は見ないの?
国内機関投資家は、日本企業のことを熟知しているので、各社独自の議決権行使基準を持ち、それに基づき議案への賛否を判断しています。従い、議決権行使助言会社のレポートを使用していないといってよいかと思います。勿論、国内機関投資家も毎年議決権行使基準を改定しますので、改定に当たって議決権行使助言会社の議決権行使ポリシーは参考にしている場合もあるかも知れませんが、基本的に各社とも自社の議決権行使基準を持っているので、ISS社の基準を見て判断するということはないと思います。
結果として
ということですので、外国人株主比率の高い上場企業は、議決権行使助言会社の賛否推奨にかなり敏感になっています。だって、仮に外国人株主比率が40%ある企業が、取締役選任議案で経営トップに対して助言会社が反対推奨した場合、外国人株主の多くが反対行使をする可能性があり、経営トップの選任が否決されるリスクも出てくるということです。大きなリスクですね。
トヨタの外国人株主比率は見ていませんが、多くの外国人株主はISS社が反対推奨をしている以上は、豊田会長の選任議案に反対する可能性が大ということです。まあ、安定株主もいるだろうし、国内機関投資家も相当数いると思いますので、議案が否決されるなんてことはないですが。