企業価値向上を投資先企業に促すためのコーポレートガバナンス・コードの使い方(第4回) ー 政策保有株式に関する議決権行使は適切に実施しているか?
政策保有株式の議決権行使基準の開示が必要
「政策保有株式を持つ合理性はあるか?」について、前回次の記事を書きました。
本日は第4回目として、政策保有株式に対する議決権行使について説明をしてみたいと思います。コーポレートガバナンス・コードの次の太字の箇所です。
ガバナンス・コードが企業に求めているのは、政策保有株式として持つ場合、その議決権行使基準の開示と基準に沿った対応の2つです。では、最初に議決権行使基準の開示はどうなっているでしょうか?
企業各社のコーポレートガバナンス報告書に記載されていますが、いくつか具体的例をあげます。企業名は出しませんが、大型銘柄の開示例です。
他の企業も概ねこのレベルの開示が圧倒的に多いですが、この開示文を見て、個人投資家・個人株主の方は、議決権行使基準の開示がなされていると感じるでしょうか?
多くの方は「基準ってこんな単純なの?」というネガティブな意見かと思います。そりゃそうですね。議決権行使基準というと機関投資家が開示している投資先企業に対する議決権行使基準(ガイドライン)を思い浮かべる方が多いかと思いますが、そこでは、株主総会の各議案に対してどう議決権を行使するか細かく書かれているのが普通であり、失礼ながら上記の内容では「???」かと思います。ちなみに、参考までに機関投資家である野村アセットマネジメントの議決権行使基準は次のような内容です。
https://www.nomura-am.co.jp/special/esg/pdf/vote_policy.pdf?20231101
多くの企業は何故詳細な議決権行使基準を開示していないのか?
各社個別事情はあるかも知れませんが、大きな理由の1つは、そもそも詳細な基準など策定していないのだと思います。
だって、政策保保有株式について、「政策保有株主」(=株式を保有している企業です)が議案1つ1つを真剣に検討して賛否を判断するなどというのは、政策保有株式の本来の目的と真逆だからです。
「政策保有株主」に株式を保有して貰っている企業(保有されている側)からすれば、政策保有株主は100%安定株主と考えています。つまり、総会議案に対しては確実に賛成する株主ということです。これは、株を持つ側、持たれる側の暗黙の了解です。だから、政策保有株主が機関投資家のような細かな議決権行使基準を策定して、「ROEが2期連続5%未満だから社長に反対しようか」「女性取締役が1人もいないので社長に反対しようか」などということは、そもそも微塵も考えていないのです。
だから、詳細な議決権行使基準など多くの企業では策定していなかったし、現時点も同じような状況かと思います。
個人投資家・個人株主は企業に何を確認すればよいか?
まず1つ目は、「どういう議決権行使基準を策定しているのか詳細を教えて下さい」ということが言えるかと思います。
ガバナスコードで開示が求められており、企業はコーポレートガバナンス・コードをコンプライしている状況において、あまりにざっくりとした議決権行使基準の開示では意味不明というところかと思いますので、「詳しく教えて下さい」ということです。これは極めて合理的な質問かと思います。
2つ目は、「議決権行使基準に沿ってきちんと議決権行使をしていますか?」ということです。議決権行使基準があっても、果たしてそれに即した議決権行使をしているかということです。特に、留意すべきは、次のような場合の投資先企業の総会議案に対する賛否です。
・企業不祥事があった投資先企業
・赤字に陥り減配した投資先企業
・ROEの低迷が過去2~3期続く投資先企業
・その企業との取引で当初想定していたメリットが享受できていない など
政策的な必要があり株式を保有しているのですから、基本的に総会議案に対しては賛成スタンスであることは十分に理解しますが、例外的に上記のような場合には、政策保有株主も反対行使があってしかるべきと思います。
以上で政策保有株式関係の話は終わりにしたいと思います。来年の株主総会まではまだ時間もあるので、個人投資家・個人株主の方は、投資先企業の有価証券報告書、コーポレートガバナンス報告書をしっかり読み、理論武装をして、疑問的があれば株主総会で臆せず質問することをお勧めします。