資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応②ー 次に「取組みの検討・開示」~「投資者の視点を踏まえたポイント」より
(おさらい)資本コストや株価を意識した経営の実現の流れ
「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」についての流れは次の3つですが、前回は現状分析についてお話をしました。今回はその次の取組みとして、「計画策定・開示」になります。
◆現状分析
-自社の資本コストや資本収益性を的確に把握
-その内容や市場評価に関して、取締役会で現状を分析・評価
◆計画策定・開示
- 改善に向けた方針や目標・計画期間、具体的な取組みを取締役会で検討
-その内容について、現状評価とあわせて、投資者にわかりやすく開示
◆取組みの実⾏
-計画に基づき、資本コストや株価を意識した経営を推進
-開示をベースとして、投資者との積極的な対話を実施
現状を分析・評価した後に、課題解決に向けて計画を策定し、投資者に分かり易く開示することが求められています。ベースは11/21に東証が公表した「投資者の視点を踏まえたポイント」です。
https://www.jpx.co.jp/news/1020/mklp77000000lw4e-att/mklp77000000lygv.pdf
取組みの検討・開示
「投資者の視点を踏まえたポイント」に次の記載があります。
私なりに整理すると次のようなことかなと思います。
◆株主・投資家の期待を踏まえた中長期的な目標設定を行う
◆目標達成に向けて成長実現に向けた投資や事業ポートフォリオの見直し等の抜本的な取組みを行う。テクニカルな取組みではない
◆ROEの向上だけでなく資本コストの低減の意識も持つ
◆中長期の企業価値向上のインセンティブとなる役員報酬制度の設計
◆取組みについては中長期に目指す姿と紐づける。長期時間軸での成長実現に向けた方針を示し、その中での各取組みを位置づける
◆取組みについては取締役会できちんと議論すること
この中でポイントになるそうな箇所をお話をいたします。
抜本的な取組みが大事
抜本的な取組みという点が肝ですね。ROEを向上させる短期施策としてよく自社株買いがあげられます。株主資本を小さくすることで手っ取り早くROEを向上させることが考えられます。しかし、投資者の視点を踏まえたポイントでは、こういう短期的な施策ではなく、抜本的な取組みを検討せよということです。以下の記載があります。
短期的に資本収益性や株価を向上させるための テクニカルな取組みではなく、抜本的な取組みを進め、経営資源の適切な配分を実現すること
具体的には、資本コストや資本収益性を十分に意識したうえで、 持続的な成⻑の実現に向けた知財・無形資産創出につながる研究開発投資、人的資本への投資や設備投資、 事業ポートフォリオの⾒直し等の取組みを推進することが期待
自社株買いや増配など株主還元の強化は、バランスシートが効果的に価値創造に寄与する内容となっているか等を分析した結果として、状況に応じて実施すべき。自社株買いや増配のみの対応や⼀ 過性の対応(リキャップCBなど)が期待されている訳ではない
取組みは企業が今後も収益を上げて存続しつづけることを前提に策定しよということです。一過性の短絡的な施策は駄目ですということですね。
資本コストの低減の意識も持つ
ROEに目がいきがちですが、ROEは株主資本コストと比較して、株主資本コストを上回ることが求められます。とすれば、ROEの向上を目指すことも大事ですが、一方の株主資本コスト、つまり株主が求めるリターンを低減する努力をすることも大事です。この点、次のような記載があります。
中⻑期的な企業価値向上の実現に向けては、資本コストを上回る資本収益性を達成したうえで、その差を拡大させていくことが必要となります。こうした観点からは、単に資本収益性の向上に取り組むだけではなく、資本コストを低減させる取組みも期待
情報開示が不十分な場合には、経営の不透明性が投資家の不安要素となり、株主資本コストの上昇要因になります。そのような場合、開示情報の拡充や効果的な投資家との対話により、情報の非対称性を解消することが株主資本コスト低減に有効
投資者の経営に対する信頼や、収益の安定性・持続性に対する確信度を⾼める観点から、 コーポレート・ガバナンスの強化等も、株主資本コスト低減に有効な手段
株主資本コスト(=株主が株式投資で期待するリターン)はハイリスク・ハイリターンです。将来の損益やキャッシュフローのブレが激しく見通しが立ちにくい場合には高くなりますので、これを下げる必要があります。その肝となる要因は、企業の収益性、成長性、予見可能性、経営者の経営力と言われています。予見可能性とは先々の見通しです。2年後の見通しが見えないようなオールオアナッシングの企業に投資するのであれば、高いリターンを求めるのは当然かと思います(バクチのようなものです)。
また経営力というのは、経営トップの経営能力です。業績達成に向けての姿勢、態度、能力など経営トップに対する信頼です。経営トップのプレゼン能力が低いと「この会社大丈夫?」「将来どうしたいのか?」と思うことありますよね(私の投資先企業でもあります)。
勿論プレゼン能力が全てということではないのですが、経営トップは会社を市場に売る混む営業マンの役目もあるので、このあたりの能力も実は結構大事かなと思います。経理・人事はじめ管理部門一筋のような内向きの仕事だけをしてきた方は、失礼ながらプレゼン能力が乏しい方が多いと言われていますので、経営トップとしての適格性はどうなの?と思う機関投資家が多いかも知れませんね。勿論、個人によって違いますので全ての人がそうとは言えないですが。
取組みについては中長期に目指す姿と紐づけ
この点は次の記述があります。
中⻑期的に目指す姿の実現に向けて、 どのような意図で各取組みを実施するのか、各取組みがどのように課題解決に繫がるのか、分かりやす く開示することで、株主・投資者の理解が深まり、対話の深化にも繋がる
将来の成⻑性に対する株主・投資者の確信度を⾼めるという観点からは、⻑期的な時間軸での成⻑の実現に向けた方針や道筋(いわゆる「エクイ ティ・ストーリー」)を示し、その中に各取組みを 位置付けて説明することも有効な手段
企業はゴーイングコンサーンであり、中長期投資の株主は10年、15年と長期に亘り株式投資をすることになります。投資のタイムホライズンが長期になるわけです。とすると、今後の3年程度の期間ではなく、その先がどうなるかが気になります。つまり、中計は当該期間だけで見ているのではなく、中長期に目指す姿に向けての途中の経過として中長期投資の株主は見ているのです。だからこそ中長期に目指す姿と絡めての取組みの開示が大事なのです。