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ビジネスマンのためのさくっと分かるコーポレートガバナンス - 「コーポレートガバナンス・コード原案」(2015年)の序文が結構大事です


「コーポレートガバナンス・コード原案」序文

本日は四季報の秋号のオンラインデータが更新されましたね。この3連休は四季報データで気になる銘柄をチェックする予定です。
さて、今回はコーポレートガバナンス・コードの初歩的なことについて紹介させて頂きます。

「コーポレートガバナンス・コード原文」(序文)ですが、これはご存じでしょうか?
https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/nlsgeu000005ltbt.pdf

2015年にコーポレートガバナンス・コードが制定されましたが、コードの思想がこの序文で規定されています。2015年3月に制定されたもので、コードの趣旨というか、「幹」の部分が規定されています。コーポレートガバナンス・コードの経緯・背景についての基礎的かつ重要事項です。

何点か参考になる箇所を説明し、解説を加えたいと思います。

攻めのガバナンス

本コード(原案)は、こうした責務に関する説明責任を果たすことを含め
会社の意思決定の透明性・公正性を担保しつつ、これを前提とした会社の迅速・果断な意思決定を促すことを通じて、いわば「攻めのガバナンス」の実現を目指すものである。本コード(原案)では、会社におけるリスクの回避・抑制や不祥事の防止といった側面を過度に強調するのではなく、むしろ健全な企業家精神の発揮を促し、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図ることに主眼を置いている。

「コーポレートガバナンス・コード原案」序文第7項

「コーポレートガバナンス=法令遵守」を想像する方も意外にまだ多いのではないでしょうか?けど、コーポレートガバナンス・コードで求めているのは「攻めのガバナンス」です。

果断な意思決定云々と言われていますが(「果断」って言葉は難しいですね)、要は、経営トップはリスクテイクを行い、企業の稼ぐ力を高めよと言っております。前例踏襲や現状に甘んじることなく、利益率を高めていけということです。

そもそもコーポレートガバナンス改革が始まったのは、日本企業の低いROEの改善が契機で、特に課題とされているのは利益率の向上です。この課題解決のために経営トップは意識を変革し、リスクテイクをして「稼ぐ力」を高めよというわけです。

会社にとって重要なパートナーは中長期保有の株主

本コード(原案)は、市場における短期主義的な投資行動の強まりを懸念する声が聞かれる中、中長期の投資を促す効果をもたらすことをも期待している。市場においてコーポレートガバナンスの改善を最も強く期待しているのは、通常、ガバナンスの改善が実を結ぶまで待つことができる中長期保有の株主であり、こうした株主は、市場の短期主義化が懸念される昨今においても、会社にとって重要なパートナーとなり得る存在である。

「コーポレートガバナンス・コード原案」序文第8項

中長期保有の株主(=機関投資家が主)が会社にとって重要なパートナーということです。これは非常に大事です。

短期志向の株主が増えると企業は短期の企業業績を意識した行動をすることになります。例えば、多額の研究開発投資は短期では業績にマイナス影響を与えます。となると短期投資の投資家は嫌がり、株を売ります。であれば企業は研究開発投資は控えようというマインドになります。

結果、長期での利益を生む投資は控え、短期的な会計利益を増加させることに注力することになります。けど、これでは企業の持続的成長に良くないですよね。だから、企業が中長期で成長するには、中長期で企業に投資してくれる投資家、つまり単年度の業績の増減で投資の是非を判断しない中長期の投資家をがっちりホールドすることが大事になります。

プリンシプルベース・アプローチ

本コード(原案)は、会社が取るべき行動について詳細に規定する「ルールベース・アプローチ」(細則主義)ではなく、会社が各々の置かれた状況に応じて、実効的なコーポレートガバナンスを実現することができるよう、いわゆる「プリンシプルベース・アプローチ」(原則主義)を採用している。「プリンシプルベース・アプローチ」は、スチュワードシップ・コードにおいて既に採用されているものであるが、その意義は、一見、抽象的で大掴みな原則(プリンシプル)について、関係者がその趣旨・精神を確認し、互いに共有した上で、各自、自らの活動が、形式的な文言・記載ではなく、 その趣旨・精神に照らして真に適切か否かを判断することにある。このため、本コード(原案)で使用されている用語についても、法令のように厳格な定義を置くのではなく、まずは株主等のステークホルダーに対する説明責任等を負うそれぞれの会社が、本コード(原案)の趣旨・精神に照らして、適切に解釈することが想定されている。

「コーポレートガバナンス・コード原案」序文第10項

プリンシプルベース・アプローチです。コーポレートガバナンス・コードの各原則・補充原則は読むと必ずしも一義的に解釈できない内容もあります。これらは、各社が自分たちの考えるところにより解釈せよ、そして、その解釈については社内で関係者が議論をして決めよということです。

だから、他社の開示例を見て、単純に当社も「この文言に揃えよう」という横並び意識は良くないのです。勿論、良く考えた上で他社の開示を参考にするということはあると思いますが。創意工夫が大事です。

差別化を図る開示をするって実はかなり大事です。他社と全く同じような開示をすると投資家はその企業の特性を把握できません。つまり、開示から企業の個性を判断することが出来ないのです。馬鹿の1つ覚えのように他社の開示ばかり気にする経営層の方もいると思いますが、考えを根本から変えた方がよいですね。

企業にいる社内の方は開示を軽視する傾向が強いですが(自分たちは知っているということで)、株主が最初に見るのが開示であり、そこに会社の姿勢が現われるわけですので個性のある開示は重要です。

「コンプライ・オア・エクスプレイン」

こうした「コンプライ・オア・エクスプレイン」の手法も、スチュワードシップ・ コードにおいて既に採用されているものの、我が国では、いまだ馴染みの薄い面が あると考えられる。本コード(原案)の対象とする会社が、全ての原則を一律に実施しなければならない訳ではないことには十分な留意が必要であり、会社側のみなら ず、株主等のステークホルダーの側においても、当該手法の趣旨を理解し、会社の個 別の状況を十分に尊重することが求められる。特に、本コード(原案)の各原則の文 言・記載を表面的に捉え、その一部を実施していないことのみをもって、実効的なコ ーポレートガバナンスが実現されていない、と機械的に評価することは適切ではな い。

「コーポレートガバナンス・コード原案」序文第12項

コードに対してコンプライしている、つまりコーポレートガバナン・コードで企業に求められていることを「全て遵守してしています」ということが大事と考えている会社って多いと思います。

「コンプライ=言い訳」で「恥じ」と考えてしまうのでしょう。けど、何も考えずにコンプライしているようであれば、それは嘘をついていることになります。コンプライする必要がないという項目があれば、それはしっかりとエクスプレインするのが大事です。当社はこういう考えでいるので、コンプライは必ずしも企業価値向上には繋がるものではないという説明です。

いちいち説明するのは面倒という気持ちも良く分かります。けど、やはり自社独自の考えがあるのであれば、それはしっかりと表明することが必要かなと思います。

以上になります。2015年のコーポレートガバナンス・コードの制定以降、2018年と2021年の改訂があり、その後、結構な項目が追加されております。けど、コード制定のベースとなった際の序文は、憲法で言えば前文のようなものですので、コーポレートガバナンス・コードの根本知るという観点から一度目を通されることをお薦めします。