
経営トップの賛成率の低下リスクは今の時期から真剣に考える必要があります - 安定株式について自己株式取得が出来ない場合には特に注意必要です
トヨタ会長が賛成率に危機感?
先日、ブルームバーグの記事にトヨタ自動車の会長のコメントに関する次の記事がありました。
来年の総会では、このままでは取締役に選任されない可能性があるというようなコメントのようです。賛成率が72%はあるので、来年の総会で賛成率が50%を切るなどということはまず想定しにくいので、若干誇張したコメントのように思いますが、要は言いたいことは50%を上回る云々が問題ではなく、そもそもとして70%台の賛成率は全くもって不十分であるという意思の表明なのだと想像します。
また、トヨタの安定株主比率を私は知りませんが、もし、この1年間で安定株式数が大きく減少した場合のリスクシナリオとしての会長のコメントなのかも知れませんね。
安定株式の解消の手法で賛成率に差が出る
トヨタの話とは変わりますが、多くの日本企業で安定株主は今後確実に減少しますが、減少の手段として自己株式取得があります。つまり、安定株主の保有する株式を相対取引で株式を持たれている会社が取得します。この場合、経営トップの賛成率にそれほど大きなマイナスインパクトを与えないで済む場合があります。
株主総会の取締役選任議案は普通決議事項であり、「賛成議決権個数÷議決権行使総数」で算出します。自己株式取得の場合、取得した自己株式は議決権から除外されます。結果、分子の賛成議決権個数は減りますが、それとともに分母の議決権行使総数も減るので、さほど大きく賛成率が低下しないケースがあるのです。
大口の政策保有株主が保有する株式数は大きいので、それを市場で売却すると株価低下の大きな要因になります。そこで、大口の政策保有株主が株式を売却する時には株式を持たれている会社は、相対で自己株式の取得をするケースも多いと思います。
自己株式取得っていつでも気軽に出来るの?
賛成率に大きなマイナス影響がないのであれば、会社はいつでも自己株式取得をすればよいのではと思ってしまいますね。けど、自己株式取得っていつでも気軽に出来るものではないです。
財源規制もありますが、インサイダー取引規制が留意すべき事項になるかと思います。つまり、取得時に自己株取得以外の重要事実が存在しないことが必要です。機関決定していなくとも重要事実として捉えられる場合がありますので注意が必要です。例えば、会社が未公表のインサイダー情報がある場合には、自己株式取得はできないのです。典型例は、M&A案件で水面下で合意に向けて進んでいるような場合ですね。
政策保有株主はなるべく株価が高い時に保有株式を売却したいと思います。でもその際に対象会社はインサイダー情報があると自己株式の取得は出来ないということになるわけです。
安定株式が市場売却されると賛成率が低下
自己株式取得が出来ないとなると安定株主は市場で売却することになります。政策保有株式の売却の方針が社内決定した以上、株価の高い局面ですみやかに売却したいと考えます。この場合に対象会社が「自社株取得が出来ないんです」となると、市場でさっさと売却したいと思うはずです。
そして、市場で売却した分は誰かが買うことになりますが、売却株数が大きい場合、通常は機関投資家が買います。そして、経営トップの賛成率の低い会社の多くは国内・海外の機関投資家が反対しているわけですから、機関投資家が取得した分、自ずと反対議決権個数が増えることになります。つまり、自己株式取得と異なり、総議決権個数には変更がないわけですから、反対議決権個数が増え、賛成率が低下するわけです。
今年、経営トップの賛成率の低かった会社は政策保有株式がこの1年間でどの程度売却されるかを前提に置いて来年の総会での選任のシミュレーションをして、それを取締役会でもきちんと議論して、会社全体として対策を検討することをお薦めします。今の段階でこれをやっておくと、ROEが改善するまで政策保有株主には頭を下げて、株式の売却は1年先送りにして貰おうというような経営判断もできます。
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