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個人株主のための株主総会議案の読み方ー 買収防衛策はどう考えればよいか?


多くの導入企業では、経営層ですら買収防衛策を理解していないのが現実です

来年の株主総会で買収防衛策議案を上程する企業もあるかと思います。個人株主の方は、買収防衛策の分厚い総会議案を見て「これってどう見るの?」と思う方も多いと思います。本日は、買収防衛策議案に対して個人株主はどう見たらよいか解説をしてみたいと思います。

ところで、この買収防衛策ですが、導入している製造業などの一般の事業会社では、経営トップと管理部門を総括する役員を除いた他の経営層のほとんどが実は理解していないのが現実と言えます。「うちの会社は3年に1回、更新しており、その年度の総会招集通知はやたら分厚くて何やら難しいことが書いてあるな。でも総会で質問が出ても俺は担当役員でなく、答えるわけでもないし、そもそも新株予約権等の株式市場のことなど分からないから、別に知らないでもいいや」というのが実態です。資本市場のことなどほぼ分かっていないお寒い状況ですが、これが現実です。
ということですから、個人投資家・個人株主の方にとっても非常に分かりにくい総会議案ということです。

買収防衛策とは何であるか?

買収防衛策とは、株式の大量買付者(通常20%以上)が出現した際に買付者以外に新株を発行して、大量買付者の議決権比率を希釈化するというスキームです。このルールを大量買付者が出現していない時点から株主総会で株主の過半数の賛同を得てルールとして導入することをいいます。買収防衛策の発動により、大量買付者の議決権が希釈化されますので、買収のやる気をそぐことになるというわけです。

機関投資家は買収防衛策をどう見ているか?

この買収防衛策ですが、資本市場関係者からの評判はすこぶる悪いです。つまり、買収防衛策議案には基本的に反対というスタンスです。
理由は、買収者が高い値段をつけて買収をしようとしているのに、これを会社が阻害することになるので、機関投資家は保有株を高い価格で買収者に売却できる機会があるところ、それを喪失することになることが非難される点です。つまり、投資家からすれば、買収防衛策は経営陣の保身のための方策であると見えるということです。
機関投資家協働対話フォーラムが数年前に「資本市場の評価を下げるリスクを踏まえた買収防衛策の必要性の開示」というレターを出しており、参考になる箇所を以下、引用します。

https://www.iicef.jp/pdf/jp/pdf_jp_20220210_01.pdf?20220214

何より重要な点は、買収防衛策という仕組みが十分な成果を上げていない経営に買収とい う変化をもたらす機会を制限することで、経営陣の自己規律性を弱める性格を持つことです。 我々投資家は、経営陣が収防衛策を導入することによって、正当な目的を持った戦略的買収でも経営陣の意に沿わない買収提案は阻止できると誤解することで、株主からの付託に対する緊張感が薄れ経営に甘さが出るのではないかと懸念しています。場合によっては、株価の低迷を放置することにつながり、買収防衛策の導入・継続の真の目的は経営陣の自己保 身ではないかと考え、経営陣に対する不信感を募らせることもあります

買収防衛策を導入する企業の言い分は?

では、批判される方の企業は導入の理由をどう言っているのでしょうか?
これは導入企業の全てが必ず言う理由ですが、「買収者を除く株主に買収提案の内容を検討するに十分な情報と機会を確保するため」ということです。つまり、買収者がいきなり買収を提案しても、それに応じるか否か、一般の株主の方は短期間で十分に理解できないので、会社が買収者から情報を引き出して、その上で会社の判断結果を株主に示しますよということです。
でもこれって、買収者以外の株主、特にプロである機関投資家にとっては、「大きなお世話だよ」ということになります。応じるか否かは自分たちが決めるし、そもそも市場株価より高い値段で買うという人がいるのだから、株を自由に売らせてくれよというのが投資家の考えになります。だって金儲けのために株式投資をしているわけですから。

個人投資家・個人株主はどう考えればよいか?

以上の理由で機関投資家のほとんどは買収防衛策の議案に反対しています。ということに鑑みますと、個人投資家も反対してよいと思います。ただし、企業が買収価格を上回る株価が理論株価であり、その株価への到達を目指すという強いコミットメントを公表した場合には、会社の判断を優先することも考えてよいかと思います。