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コーポレートガバナンス改革「取締役会の実効性の強化」のポイントは? ー 企業は「物言う株主」に先んじての対応が大事


本日のテーマ

先日、「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会が立ち上がったことの紹介をいたしました。その中で、企業が抱える主な課題事項の1つに「取締役会の実効性」があります。つまり、取締役会が機能しているか否かが課題とされています。では、どういう点が注目されているのでしょうか?取締役会の機能・役割は幅広いので、どの点での実効性が求められているのか、本日はポイントを簡単に説明をしたいと思います。

取締役会の実効性

「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会の第1回会議の事務局資料で次のページがあります。

これは本年6月に公表された「持続的な企業価値向上に関する懇談会」の中間報告の内容を整理した内容です。以下が中間報告です。https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/improving_corporate_value/pdf/20240626_1.pdf

P15~P20に取締役会の実効性として次の4つが掲げられています。

取締役会の役割
◆社長・CEO ら経営陣をエンドースする役割の重要性
◆社外取締役の役割の重要性
◆投資家との社外取締役の対話の重要性
◆経営者の選任・再任/不再任・解任の機能

つまり、これらの5つの項目が実効性として焦点になっています。これらの取組みが取締役会として十分に機能を果しているかどうかが問われているということです。

詳細は中間報告をご覧頂ければと思いますが、この中でも多くの企業に馴染みのない事項は、投資家との社外取締役の対話の重要性と経営者の選任・再任/不再任・解任の機能でしょうか。言われれば分かるが、現実には多くの企業で検討・実施できていない項目です。以下、この2項目を紹介します。

投資家との社外取締役の対話の重要性

ここは次の記述になります。

経営者がリスクテイクを行い、長期視点での経営を実行するには、社外取締役を中心とする 取締役会と経営者を中心とする執行サイドとの適切な緊張関係が必要となる。また、社外取締役がその役割を認識し、執行サイドを適切に監督・エンドースするには、社外取締役自身も資本市場からの社外取締役への期待・責任を直接受け止める状態に置くことも重要である。そのた めには、投資家とのエンゲージメントに社外取締役が経営陣から独立した立場で参加すること も重要ではないだろうか。社外取締役は、株主の代表であるため、投資家の視点を持つことが 重要であり、投資家とのエンゲージメントを通じて、投資家の意見を直に聞くのは有用であろ う。 しかし、社外取締役が投資家と対話している事例は少なく、また、その必要性を感じていな いというアンケート結果もある。もちろん、投資家が、社外取締役と対話する際のアジェンダ と執行サイドと対話する際のアジェンダは異なるべきである。すなわち、社外取締役との対話では、経営の実行戦略などの細かい事項をアジェンダにするべきではなく、長期ビジョンや社外取締役の視点から経営をどのようにみているのか、コーポレートガバナンス体制はどうなっていて、どのように評価しているのか、などの大局的な項目をアジェンダとすることが考えら れる。一方、執行サイドには、具体的な実行戦略なども含む項目もアジェンダにすることが考 えられる。

持続的な企業価値向上に関する懇談会 (座長としての中間報告)より抜粋

社外取と機関投資家の対話について、私は企画・実施したことがありますが、まだまだ実施企業は少ないです。社外取の方も上場企業の経営トップやCFOでないと投資家と対話した経験はゼロだと思いますので、参加する場合にはそれなりの準備と覚悟が必要になります。過去に私は社外取と機関投資家との対話を企画・実施したことがありますが、進め方にもよりますが、登壇される社外取は大変です。

普段から社外取がどの程度、機能しているかが投資家に知られることになります。万一機能していないと投資家に思われると、社外取が多い会社ほど「部外者がこんなにいてこの会社大丈夫?」という不安に変わるリスクがあります。

経営者の選任・再任/不再任・解任の機能

ここは次の記述になります

社外取締役の役割で特に重要になるのが、経営者の選任・再任/不再任・解任の機能である。経営者の選任後も、優れたパフォーマンスを発揮している経営者に対しては力強くエンドース し、そうではない経営者に対しては究極的には、不再任・解任を判断し、実行することも時には必要となる。社外取締役には、大局的な視点で、経営者を厳しく監督するとともに、力強くエ ンドースすることができる知識・経験・能力などの資質を備えていることが求められる。 しかしながら、経済産業省の調査結果では、CEO の不再任基準を設けていないプライム市場 上場企業は約半数であり、設けている場合も法令定款違反・不祥事・欠格事由・心身の健康状 況が中心となっている。このことからも日本企業では、取締役会が CEO のパフォーマンスに基づいて選任・再任/不再任・解任を行う機能が十分に働いてない可能性があるのではないか。その 結果、企業経営者が予定調和的に変わる、いわゆる社長任期制のような慣習が一部の企業で存 在しているのではないか。現に、日本企業の CEO の在任期間は4年~6 年の間に集中しており、中には、長年の慣行や内規で、完全同一年数で CEO が複数代交代するケースもある。本懇談会では、欧米企業と比べて比較的短い在任期間で、予定調和的にCEOが交代するのは、経営者の独裁による暴走防止の観点から有用という意見や、後継への引き継ぎリスクの低 減の観点から有用という意見があった。一方、事業ポートフォリオの組換えを不断に行い、痛みを伴うような事業の切り出しを含む抜本的な事業構造変革を行おうとすると、場合によっては10 年スパンの長期の時間がかかるとも言われている。また、大きなリスクをとって、実行できたとしても、すぐには結果が出ない場合もある。そのような大変革を短い在任期間で交代するCEOが断行するのは非常にハードルが高いという意見もあった。上述のとおり、CEO の交代が比較的短い年数で行われることによるメリットもあるが、取締役会によるCEOの再任/不再任を判断する機能が欧米のように、より強固であれば、自ずと、短い在任期間のCEOもいれば、長い在任期間のCEOも出てくるのではないか。そのような企業は、経営者をパフォーマンスによって評価していることとなるため、企業価値の向上にも寄与すると考えられる。不再任や解任の判断を下せない取締役会であれば CEO の任期は必要であるが、パフォーマンスによってその判断を適切に下せる取締役会であれば CEO の任期は必要ないのではないか。この面からも、CEO の選任・再任/不再任・解任機能を担う社外取締役の質の向上 は非常に重要と考えられる。

持続的な企業価値向上に関する懇談会 (座長としての中間報告)より抜粋

CEOの任期は一律に決めるのは必ずしも妥当でなく、1年ごとにパフォーマンスや取り組みを見て判断せよということですね。結果、仮にCEO任期を5年としている企業があったとしても、パフォーマンスが悪いと取締役会が判断すれば2年で退任(不再任)の場合もあれば、10年務めることもあるということです。

CG改革での提言等はアクティビスト(物言う株主)の恰好の材料

こういう中間報告を見ると企業サイドでは「役所は好き勝手言うよ」「どうせ委員である大学教授風情は実務も分かってないくせに」という発言をする人が必ずいると思います。まあ言いたくなる気持ちは良く分かりますが。

けど、課長クラスなどの担当者層でなく、マネジメント層クラスで真剣にこんな発言をして、かつ適当に放置しておこうという人がいたら、その方々はリスク認識が大変甘いと言わざるを得ません。

アクティビストの企業に対する株主提案などを見たことのある人はお分かりだと思いますが、この手の経済産業省の報告や提言はアクティビストの株主提案や主張にちりばめられています。つまり、投資のプロであるアクティビストの主張の理論的支柱になっているのです。

CG改革での色々な提言に会社は全て従う必要があるは思いません。けど、これらの提言は政府の方向性であり、また機関投資家の考えとベクトルはあっています。

それを考えると企業としては基本的に提言に対応することが求められているのです(あくまでソフトローであり強制力はないですが)。もし、「当社はそういう検討や対応は不要」ということであれば、それはしっかりと考えを整理して理論武装をしておくことが必要です。

以上になります。記事を読まれてお気づきのことやご質問、ご感想など何かありましたら、コメント又はnoteのトップページの一番下の「クリエイターにお問い合わせ」からご遠慮なくご連絡頂ければと思います。