セブン&アイHDが事業売却を加速 ー 上場企業は平時の準備が肝要です
セブン&アイHDがイトーヨーカ堂売却手続き
セブン&アイHDが年内に保有するイトーヨーカ堂株式を売却することを進めるという新聞報道がありました。以下です。
セブン&アイはクシュタール社から受けた買収提案を価格が低すぎるとして拒否しており、自社の企業価値の向上策を株主に示すことが必要な状況にあります。
今回の報道によれば、スーパー事業の一部株式を前倒しで手放し、主力のコンビニエンスストア事業に経営資源を集中する意向のようです。これについて、某テレビ報道では「逆焦土作戦」という言葉でコメンテーターの方が説明されていましたが、そう感じる方は多いのではないでしょうか。
クラウンジュエル(焦土作戦)の逆
「逆焦土作戦」という言葉はテレビ報道のコメンテーターの方の造語だと思いますが、「焦土作戦」の逆のことですね。焦土作戦とは、企業買収防衛で良く使用される言葉ですが、別名はクラウンジュエルです。
クラウンジュエルとは、被買収会社が保有する価値ある資産・ノウハウ・事業などを宝石(=ジュエル)として、買収された場合には、このジュエルを会社から切り離することにより、買収者の買収意欲を削ぐという手段です。実際には買収があったことをトリガーにして簡単に事業売却等をしてしまうと取締役の善管注意義務違反の問題にも発展するので、どこまでこの施策が企業買収防衛の方策として有効かケースバイケースになると思いますが、M&Aや企業買収防衛ではよく使用される言葉です。
今回のセブン&アイのケースでは、セブンは「逆クラウンジュエル」を狙っているのではということです。
セブン&アイは、クシュタール社に対抗するには、単独(スタンドアローン)で企業価値を高めることを株主に示す必要があります。企業価値とは、将来フリーキャッシュフローの割引現在価値ですが、スーパー事業を売却することが企業価値を高めることに繋がるのではないかということです。私はセブン&アイの株式を保有していないので詳しく決算説明会資料や財務は見ていませんが、報道等を見る限りではそんなところなのだと思います。
つまり、スーパー事業があることによって、仮にセブン&アイの会社全体の営業利益が低くなるという場合には、売却した方が会社としてのフリーキャッシュフローは高まるということになります。
セブン&アイは10月10日が決算発表予定ですので、この時に色々と詳細が公表されるのかも知れません。
企業は買収に備え予行演習
コーポレートガバナンス・コードでも事業ポートフォリオの検討が言われています。つまり、会社全体として収益を向上させるべく、そのために事業を見直し、コア事業でなければ会社から切り離しをして、ベストオーナーの下で事業を継続させ、結果、日本企業全体がベースオーナーの下でそれぞれ事業を行うことで企業全体の稼ぐ力を強化せよということです。
今回のセブン&アイのように買収者が出現した場合、企業と買収者のいずれが勝つかは、どちらの施策が企業価値向上の実現可能性が高いかにより勝敗が決します。検討がぐずぐずしていると、会社の機関投資家株主から迅速な意思決定をせっつかれると思います。アクティビストでなく、アクティブな機関投資家株主たちです。
ということを考えますと、企業は何をすべきかときうと、やはり平時の現段階において、海外・国内の同業から買収提案があった場合のシミュレーションとその予行演習が大事かなと思います。備えあれば憂いなしです。
何も検討していないと、有事の際に外部のIRやSRのコンサル会社などの色々な業者に右も左も分からない最初から最後まで頼ることになり、結果、多額のフィーをとられ、場合によっては業者の「絶好のカモ」にされるといったリスクがあります。また、自社の機関投資家株主からも早く検討せいとせっつかれ、稚拙な経営判断をせざるを得なくなってしまいます。
有事の際に外部の専門家を起用するのは必須ですが、業者のカモにされず、業者をしっかりと会社側がハンドリングするのは、会社側が平時からどれだけ知識をつけ、シミュレーションをしているかが肝になると思います。
以上になります。記事を読まれてお気づきのことやご質問、ご感想など何かありましたら、コメント又はnoteのトップページの一番下の「クリエイターにお問い合わせ」からご遠慮なくご連絡頂ければと思います。