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株主のための役員報酬の見方 ー ESG要素を役員報酬に連動させている場合


ESG指標を役員報酬に連動させる企業が徐々に増加

本日は、株主総会で個人株主が質問するのに参考になるネタについて、説明をしたいと思います。少し前に次の記事を掲載しましたように、個人株主は株主総会を楽しむべきと私は考えます。楽しむための材料として、株主総会で質問すべきコーポレートガバナンス上のポイント、ホットな話題(=機関投資家が関心を持つ事項と同じです)を連載して行きたいと思います。

本日は役員報酬です。先日、次の記事がありました。

この数年で役員報酬にESG要素を連動させる企業が増えています。ESG(環境、社会、ガバナンス)の取り組み、つまりCO2 削減や従業員満足度などESG に関する取り組みの達成度を役員報酬額の算定に連動させる動きです。役員報酬に連動させることにより、ESGに取り組むという姿勢を対外的に発信したいという企業の意思のあらわれかと思います。

2年ほど前に調べた時には、報酬にESG目標を連動させる主な企業としてオムロン、コニカミノルタ、日本航空、ユニリーバなどがありましたが、本日、インターネットで検索をしたところ次のような記事もありました。

ESG要素を報酬に絡める企業が結構多いですね

大事なのはESG指標の報酬に占める比率

ESGの取組みは企業の中長期でのリスクを低減させることになるので、この取り組みを報酬に反映させるということは、中長期投資をする上で投資家にとって好ましいことではあります。

しかし、ここで投資家が注意すべきことは、このESG要素の報酬への反映の度合いです。つまり、仮に役員の報酬が年収2000万円とした場合、このESG部分の反映は全体の何パーセントを占めるのかです(大手金融・商社・マスコミ等の方からすると「役員でたったこれだけの報酬?」と思われるかも知れませんが・・)。つまり、300万円相当であるのか、それとも30万円相当であるのかです。

企業によってはESG経営を標榜しているところも時々目にします。ESGは今の流行りであり、役員報酬にひとまずESG指標の連動を入れておこうという意図の企業も見られます。「当社は役員報酬にESG要素を連動させており、ESGの取り組みに真剣に取り組んでいます!」という企業です。けど、ESG指標の未達でも30万円しかマイナス影響がないのであればどうでしょうか? こういう企業は意外に多いのだと私は思います。

そこで、株主・投資家は、投資先企業が役員報酬にESG要素を連動させるているということであれば、その具体的な要素の内容、当該指標に基づく当期の報酬への寄与度を質問するとよいかと思います。

ESG指標の目標達成で期待される効果

これは最近、機関投資家と対話をする中で気づいたのですが、ESGの目標値を定めることがこれまでは大事でしたが、今後はそれだけでは十分ではない時代になってきます。「女性管理職比率15%を目標にします」「従業員満足度のスコアを上げます」というのがほとんどの企業です。これまでは、これで十分でしたが、今後は「それで?」ということになると思います。

つまり、女性管理職比率を上げないとどういうデメリットがあり、比率を上げると企業価値向上にどう寄与するのかということです。従業員満足度も同様です。満足度調査のスコアをどの程度まで向上させることで、企業価値向上にどう寄与し、また、スコアが現状のままだと何がマズイのかです。最近、機関投資家と会話をするとこういう意見が多いです。勿論、これを明確にすることは難しいです。けど大事なのは、仮説ベースでも良いので企業はどう考えているかを示すことです。

そうしないとそもそも役員報酬にESG要素を連動させても、そもそもどういう効果を期待しているのか分からないということになります。

役員報酬で投資家視点を入れるのであれば・・

ここまでESG要素の報酬連動について書いてきましたが、個人投資家としての立場からは、実のところはESG要素などを入れるより、TSR(株主総利回り)を役員報酬の指標に入れて欲しいところです。私をはじめ投資家は儲けるために株を買っています。とすれば、株価を上げることに対して役員(取締役・執行役)が責任を負うのは、当然の考えです。

そもそも投資というものは投機性があり、株価が下がるリスクを株主は覚悟して投資しているのだから、それを役員に文句を言うのはおかしいというのが10年前の考えでした。「株価は市場が決めるもの」という発想ですね。

けど、今の世の中はそれは通用しないです。東証が株価を意識した経営を企業に求め、株価向上に対する強い取組みは上場企業の経営陣に課せられた大きな役割の1つになっています。株価が低迷している中、株主に不利益を強いて、自分は安定的に報酬をもらうというのはおかしな話です。

社長、IR担当以外の役員は「株価を意識した経営」を本当に理解できているのか?

問題なのは、多くの企業で社長等の一部の役員を除き株価に対する意識が実は低い点です。IR、財務、経営企画を担当している役員を除く、多くの役員は株価の意識が欠落しているケースが多いと言われたりしています。

株価が低迷してしても「それはIR担当役員の役目」という意識の役員が多いようです。個人的に昔から親しくしている運用会社のアナリストからそんな話を前に聞いたことがあります。特に、金融と縁のない業界にはこの手の方は多いようです。営業畑一筋、技術畑一筋、生産畑一筋、人事畑一筋などの役員は多分、ROEもPBRの真の意味はほとんど理解していないのではと想像します。かなりお粗末な話ではあります。金融教育をしてこなかった日本の教育制度にも原因があるのでしょうが・・。

このあたりを株主総会で社長以外の役員に質問すると、その企業は株価の意識が役員全体に浸透しているか、そうではなく一部の役員しか認識していないのか分かるので、グッドクエスチョンかと思います。