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ニデックの牧野フライス製作所に対する買収提案(3)- 社外取は有事の際の自身の役割を認識しておくことが大事

ニデックの牧野フライス製作所に対する買収提案の第3回目の記事になります。本日は、以下のような目次で書いております。


特別委員会を設置

前回、第2回の記事を書いた直後に牧野フライス製作所(以下、マキノ)は特別委員会を組成したことを公表しました。https://ir.makino.co.jp/news/pdf/2025/20250110.pdf

そして、昨日、特別委員会はニデックに要望書を送付したことを公表しまいした。以下内容です。

https://ir.makino.co.jp/news/pdf/2025/20250115.pdf

要望書の詳細はまだ読めていないのですが、新聞報道によれば、マキノの特別委員会はTOB延期要請をしており、その理由として、完全子会社化による相乗効果への具体的言及がなく「今後の精査には相当の時間を要する」ことを挙げているほか、提案の是非を検討する期限の4月3日は期末決算対応で多忙な時期までに検討を迫る姿勢は「疑問と言わざるを得ない」と批判しているようですね。後であらためて読む予定です。

二デックによる買収提案の経緯のこれまでの動きは以下になります。

◆12月27日 ニデック:公開買付の開始予告の公表
◆12月27日 マキノ:今後精査する旨のお知らせ
◆  1月10日 マキノ:特別委員会の設置のお知らせ
◆  1月15日 マキノ:特別委員会による要望書送付のお知らせ

前回の第2回記事でも触れましたが、予想どおり特別委員会をマキノは設置しました。設置しないということはあり得ないので当然と言えば、当然ですが・・。プレスリリースには特別委員会の役割として次の記載があります。

「当社は、本日開催の取締役会において、本提案の是非やストラクチャーを含む取引条件及び手続の妥当性及び公正性を検討するにあたって、当社の企業価値の向上及び一般株主の利益を図る立場から、当社取締役会による恣意的な判断を排除し、意思決定過程の公正性、透明性及び客観性を確保することを目的として、特別委員会(以下「本特別委 員会」といいます。)を設置することを決議いたしました」

特別委員に誰が就任するかが大事ですが、現在のマキノの社外取締役全員が委員になるようです。マキノの昨年の株主総会の招集通知に記載の各氏の経歴を一部追加すると次のような方々ですね。

増田直史氏(元トヨタ自動車常務役員
山崎 広道氏(元熊本大学法学部長)
髙橋 一夫氏(元大和証券グループ本社執行役副社長)
高井 文子氏(横浜国立大学大学院先進実践学環教授)

各氏の経歴の詳細は、以下のとおりマキノの定時株主総会の招集通知での取締役選任議案をご覧頂ければと思います。
https://ir.makino.co.jp/library/shareholder/pdf/2023/85th_kabunushi_shosyu.pdf

経歴をみただけで概ね専門分野は分かりますが、取締役会のスキル・マトリックスを見ると次のような専門性となっています。

マキノの第85回定時株主総会招集ご通知より抜粋

少しだけ以外と思ったのは「経営」の項目で全員に「〇」がついている点です。経営というのは、普通に考えると経営トップを意味するようにも思えますが、トップ経験のない方や大学教授の方も経営というカテゴリーに入れているようです。色々と考えがあっての項目選定であり、何が正しいとかいうのはないのですが、「経営」「国際性」などは何を意味しているのかはこれだけを見ても外からはなかなか分からないですね。また、マキノがグローバル企業である中、国際性のある方がわずかに3名というのも機関投資家はどう見ているか気になるところです。

マキノの話とは別ですが、このスキル・マトリックスですが、今年の株主総会に向けて企業が検討すべき事項の1つと思いますので、後日、記事を書いてみたいと多います。

特別委員の役割は恣意性を排除しての検討

この特別委員の役割は超重要です。というのもニデックの買収提案の内容を吟味して、ニデックの買収提案価格より高い企業価値、ひいては株式価値をマキノが創出できるかを特別委員会は判断することになります。

少数株主の代弁者である社外取締役で構成される特別委員会で買収提案を恣意性を排して検討するのです。「恣意性の排除して判断する」ことが特別委員会の肝です。

とは言え、現実には社外取締役は会社提案で毎年の株主総会で取締役候補者に選任されます。とすると、あまりに会社の意向にそぐわない判断をすると来年、取締役に選任して貰えるだろうか・・・・という常識的な懸念もあるとは思いますので(一般論としての可能性です)、恣意性の判断が本当に会社と全く関係のない人のように(まるで中立国であるスイスのように)、私心を排して純粋に出来るかは誰しも疑問に思うところでしょうが、まあそれは脇に置くとして、理念としては恣意性の排除です。

社外取は平時から自分が特別委員になることを想定しておくことが必要

この同意なき買収ですが、多くの有識者の意見などを集約すると「中長期的に見て増加する」という方向かと思います。

勿論、企業買収というのは企業を成長させる大きな手段である一方、大きなリスクも抱えるものですので、双方の会社が事前に十分にすり合わせをして実行するのが基本であり、この同意なき買収が加速度的に増えるとは思いません。けど、増える方向であることは間違いないと思います。

今回の同意なき買収提案の件を見て上場企業各社は何をしておけばよいでしょうか?

それは言うまでもなく有事の際にバタバタしないよう準備をすることです。シミュレーションをしておくことです!

有事の局面ではフィナンシャルアドバイザー、リーガルアドバイザーなどの業者を起用することは必須であり、彼らに頼るところは大きいと多います。

けど、企業価値向上施策をどうするかの肝の点は、業者は考える能力はなく、最終的には事業をしている会社にしか判断出来ないことであり、それを特別委員である社外取締役が責任をもって表明することになるのです。社外取締役は取締役会で大所高所から意見を言うだけでは、この有事の際には耐えられません。矢面に立つことになるわけです。社外取がIR取材対応を受けるようなイメージです。

ということを考えると平時からこういう事例の情報を整理して、丹念に分析し、自分たち(社外取締役)は有事の際にどういう役割を果たすのか、どういう動きをすることになるのかをイメージしておくことが大事です。

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