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アシックスが政策保有株式をすべて売却 ー 企業の政策保有株式の保有の合理性の説明はいよいよ難しくなりますね


アシックスが政策保有株式を売却。売却の狙いは?

7月13日の日経新聞に次のとおりアシックスが政策保有株式全てを売却する旨の記事がありました。

保有する政策保有株式の全てを2024年度中に売却するようです。上場企業株式は25銘柄あるようです。アシックスのホームページを見たところ、7月12日に次のとおり「株式の売り出しに関するお知らせ」を公表しています。
株式の売出しに関するお知らせ.pdf (asics.com)
「本売出しの狙いと位置づけ」ということで次の記載があります。

✓資本効率向上及び資本市場への説明責任を果たすこと
当社グループが保有する政策保有株式を 2024 年内に全て売却し、また売却による獲得キャッシュに ついては成長投資や株主還元に充当することで資本効率を向上させるとともに、政策保有株式に係 る資本市場からの要請等に対して説明責任を果たすこと
✓グローバルな資本市場と全面的に向き合うこと
金融機関・事業会社による政策保有株式(一部の純投資株式を含む)としての当社株式持分の大規模な削減を図ることで、旧来的な株主構造から脱却し、グローバル資本市場に全面的に真正面から 向き合うこと
✓ 優良機関投資家の取り込み
グローバル市場での競合を意識した株主基盤の構築を図るべく、当社ブランドや中長期的な成長戦 略を理解、支援頂ける大型株(ラージキャップ)志向のグローバル優良機関投資家に、本売出しを 通じて新たに株主になって頂く或いは持分を増やして頂くこと
✓個人株主の拡充
OneASICS 経営の推進 2024 年 12 月期において、これまで実施してきた自己株式取得、株式分割、配当予想の実質的な増 額、株主優待制度の拡充等の多様な施策に加えて、本売出しを実施することで更に個人株主を拡充 し OneASICS 経営を推進、即ち OneASICS を起点とするアシックスブランドのファンコミュニティの 拡張・深化を推進すること 
✓資本コストの低減
株主構成の再構築を通じて、現状相対的に高いと認識している当社の資本コストの低減に繋げるこ と、即ち東証からも資本コストを意識した経営の実現が上場企業全体に対して求められている中、 特に個人株主の増加により株価変動のボラティリティ抑制を図ること

書かれている内容はもっともなことですが、なかなかここまで宣言できる会社はありませんね。特に「優良機関投資家の取り込み」というのは、まったくもってその通りです。機関投資家は平時導入型の買収防衛策や政策保有株式を持つ企業はガバナンスの観点からかなりネガティブに評価しています。株価の低迷の要因の1つと言われています。

また、「資本コストの低減」の箇所で個人株主の増加でボラティリティ抑制を掲げています。機関投資家はいわゆる順張り投資をする一方、個人株主は逆張り投資を志向すると言われています。つまり、株価が下がったところで個人は「買い」に動くため株価のボラティリティが上がるのは抑制できるということでです。市場全体の株価が下がった局面では、機関投資家は売りに出ますが、そこを個人株主が買い支えるということです。個人株主増加のメリットの1つとして言われております。

政策保有株式を売却しても損益にマイナス影響はない

新聞報道によれば、アシックスの24年12月期の連結純利益予想は580億円でYOYで+64%で従来予想を220億円上回るとのことです。
政策保有株式を潤沢に持つ企業は「取引継続による事業拡大を図るため」などの理由を政策保有株式の保有の理由として有価証券報告書で開示しています。つまり、株式を保有することが収益にプラス効果であるということです。収益に貢献するので持っているのですと。

けど、アシックスは政策保有株式を売却しても利益は好調ということですね。つまり、アシックスに関して言えば、政策保有株式の保有はなくなっても収益にマイナス影響はないということです。

当然と言えば当然ですね。今のご時世において「株式を売却すなら取引を打ち切る」などという会社は大問題です。5~6年前まではそういう企業も結構いたようですが。だから政策保有株式などゼロにしてもほとんどの企業で取引の収益上は問題はないはずです。それを意味不明の理由を有価証券報告書に他社と横並びの開示をしているのが多くの日本企業です。「他社はどうしている?」とお作法ばかりを気にする日本企業のなんとも情けない話です。

政策保有株式の保有の合理性は「無し」

このアシックスの記事が出たことで、多くの企業は政策保有株式を持つことの合理性はもはや説明できない状況になりつつあります。合理性などは元々ないのですから。従って、今後は企業は政策保有株式の保有については縮減を基本方針とする姿勢を明確に打ち出す必要があります。つまり、「合理性がある場合には保有し、合理性がない場合には縮減する」といった趣旨の開示の企業は結構多かったと思いますが、このままでは今後は機関投資家の納得は得られません。「縮減を基本方針とします」という宣言が必要になります。

となると企業にとって持ち合い解消により安定株主が大きく減ります。それにより経営の安定がなくなりますが、そもそも緊張感のある中で経営をするのが本来の企業経営のあるべき姿なのだと思います。サラリーマンの上がりのポジションが経営トップであったり、役員という意識の方は非常に多いですが(ほとんどのサラリーマンの意識)、そもそも経営トップなどは部課長クラスの一般サラリーマンとは、法的な位置付けが違い、会社法上は任期は1年なのです。

経営陣の経営能力が乏しいのであれば、社内で規定されている各役員のポジションに応じた任期(社長は〇年、専務は〇年など)まで続投するのは許さないという時代になりつつあります。これまでは業績が低迷していても、ROEが低くても、株価が低くても安定株主ががっちりと岩盤として存在していたので、取締役選任議案でも高い賛成率を得られていましたが、今後はこれが厳しくなりつつあるということです。