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パンセクシャルの僕が好きな人と幸せになりたくてもがく話。⑥

パンセクシャルの僕が好きな人と幸せになりたくてもがく話。⑥

①はこちら。

※4サツを表現する台詞があります。

ある日、いつも通り通話しながらゲームをしていた時だった。
休みの日には朝から晩まで遊ぶ事が定着化していた僕たちは、その日も変わらず遊んでて。
けど、いつもと違ったのはうすば君の温度だ。

໒꒱「…俺、10年以内に……考えてて、」

彼は、自ら命を絶つ事を考えてると言った。
多分、仲良くなり過ぎたんだろうな。本来言うつもりも、言う必要も無かったことを彼は伝えてくれたんだろうな。
僕が、彼と遊ぶこの時間に依存してしまったから。そして彼が、その事に気付いてしまっていたから。話させてしまったのは僕だと思った。

🌊「……どうして?」

うすば君は教えてくれた。話し始めたからには、話す覚悟を決めてくれてたんだろう。
理由は勿論ここでは省く。僕を信じて話してくれた事だと思うから。
お互いに酒も入ってて、口内が乾いた。あんまり覚えてはいないけど、いつも明るいうすば君がその時だけ苦さを滲ませてた事をおぼえてる。

໒꒱「…言うつもり無かったんすけどねー…、でも毎日遊ぶじゃないすか、…俺が居なくなったら寂しいっしょ、うみ君。 …るる君は俺がいなくても平気だけど、うみ君には言っとかなきゃなって。」

先までの深刻さは何処へやら、後半は既にいつものうすば君を取り戻していた。誰からも親しみやすい声。
改めて記述しておくが、彼は絶対にそう考えて言っている。それだけは分かる。それまで一度たりとも、そんな事を口にした事は無かった。
それは即ち、自分がうすば君にとって(形はどうあれ)特別になってしまった事。そして、うすば君のその決定を覆す事は出来ないこと。そのふたつを、唐突に理解してしまった。

アルコールが僕の理性を溶かしていく。居なくならないで欲しい、ずっと遊んでて欲しい。それ以上を求めないと思っていたのは事実なのに、今からきっと僕はあれだけ唇を噛み締めて飲み込んだ言葉を吐き出してしまう。

🌊「…そっか、話してくれてありがと。…僕、うすば君の事好きだからね。そりゃ寂しいよ。でも、決めてるから言ってくれたんだよね。それならうすば君にも同じだけ背負って貰おうかな。うすば君、好きだよ。だから、僕の前であんまりそんな事言ったら泣いちゃうよ。」

温度は彼に合わせたつもりだったが、実際の所どうだったかは自信が無い。
うすば君が息を呑む、その行動に、この感情には気付かれていた事をも知った。うすば君は気付かない振りをしてくれていたんだろう。
うすば君としては、「だから俺の事好きになっても無駄だよ」って言う、拒否のつもりだったのかな。今となっては分かりえない。

酒に溺れた思考がふわふわ、していた。
何秒か、何十秒か、沈黙が巡る。切り出したのは君だった。

໒꒱「……ありがとうございます。うみ君の気持ちには気付いてたのに、気付かねーフリしてました。ごめんなさい。……返事、オフ会の時でも良いすか。それが一番、誠実だと俺は思うんで…。」
🌊「返事くれるの!?…いや、うすば君ノンケだよね。無理して欲しい訳じゃない。ただ、…君が。そう思った時とか、そうじゃなくても、君の絶対的な味方はいるよって伝えたかっただけで、…ごめん、言うべきじゃ無かった。返事を強要したいなんて思ってない。…二人で遊ぶのはもうしんどいかもしんないけど、今入ってる予定だったり…うすば君が良いならるる君交えてまた遊ぼう、…ね。」

気が付いたら僕は泣いてたけど、なんと僕は通話で泣く分には全く気付かせずに泣ける特技を持っている。何の役にも立たないが。感極まった言葉が考える余地もなく涙とともに勝手に零れる。

うすば君の味方でいるよって伝えたかっただけなのに、結局うすば君を追い詰めた。アルコールを言い訳になんてできやしない。

໒꒱「それは遊びます、…遊びますけど、いや、返事はやっぱ…責任だから、俺の…。うみ君の気持ち、ありがとうございます…。」

押し付けただけの僕の勝手な感情に責任を感じさせてしまった。いつもの明るい声を奪ってしまった。オフ会、中止かな。るる君に謝らなきゃな。色んな事が頭を通り過ぎてく。

───────それなら、今振ってくれても良いのにな。なんて、それは我儘が過ぎる、か。

🌊「ううん、考えてくれてありがとう…ごめんね。」

その日は結局、夜にさくら君やるる君やすみれちゃんも交えて遊ぶ予定があったので時間いっぱいまで二人で話をして、落ちた。
色んな話をしたし、色んな話をしてくれた。うすば君の中では、もう答えは決まってるようだった。…当たり前だけど。

໒꒱「俺今後の人生で恋愛する気無いんすよ、いなくなる予定のやつが恋愛なんかしていい訳無いじゃないすか」

そんな話の中でぽつりと言われた、この言葉はまるで君が君に課している言葉のようにも聞こえて、寂しくなった。
僕との未来がどうだ、なんて事言わない。口が裂けたって言わない。この世の中の全てが恋愛に繋がるなんて思ってない。
でも、いなくなるのを前提に話されたらやっぱり寂しくて、僕はまた、こっそり泣いた。

実はうすば君とはLINEを交換していた。
いつも通り、うみ君にならいいっすよ。の言葉に甘えて。じゃあLINEも交換しようぜ!と、酒の勢いで吐いた。
LINEはほぼ毎日、「おはよう」と「おやすみ」を繰り返した。勿論話すことがあった時にはその限りでは無かったが、僕はずっと、幸せだった。うすば君を好きになってからずっと、小さく与えられる特別扱いが幸せだった。
だから、オフ会はきちんと行こう。振ってくれたら笑おう。そして、友達に戻ろう。
おはようとおやすみが、今夜から無くなる事もちゃんと、ちゃんと。

皆とのゲームが終わり、通話の接続を落としたその時。
໒꒱『お疲れさんです。うみ君寝れそうっすか、大分泣いてたでしょ』

通知だけで内容を知れたその文章に、また唇を噛んだ。
泣いた事を気付かれていた事も、この不相応な優しさも、幸せも、嬉しいなんてもう思っちゃなんない。
うすば君に夢想したゲイの方と、僕の何が違うって言うんだろう。気持ちを押し付けた事、何も変わらず同じじゃないか。


僕は初めて、返せるタイミングでうすば君への返事を返さなかった。裏返したスマホは当然それ以上震える事は無くて、理不尽にもそれが悲しかった。心の中でおやすみと伝えて、僕は眠剤を口にするといつの間にか眠りに落ちた。

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