見出し画像

陰キャによる女子校実録

それは月曜日、六限目の英会話の時間に起きた事だった。

私の前の席にはバレー部の女子が居るのだが、それはそれはイケメンであった。私よりは背は高いが身長は低めで前髪はセンター分け、後ろは肩ぐらいまである髪をひとつ結びにしている。 運動部だからなのかそもそも女子校だからなのか、とても人との距離が近い子だった。 その上で顔と声が良くて性格もイケメンなのだから、近距離で話しかけられたら溜まったもんじゃない。

私は丸眼鏡を掛けているまさに陰キャである。 誰も気にしないと思うが髪型はボブウルフで、触覚を眼鏡の内側に入れているという事を話しておく。 最初、その子(以下イケメン)は「今日も可愛いね」と良く分からない言葉を発しながら席に座った。 前にも言われたことがあるのでイケメンにとっては当たり前に発する言葉なのだろう。
私は素直にありがとうの言えない奴なので「全然可愛くないよ」と適当に流した。

さて、問題はここからである。 授業が始まってからイケメンはじっと私の目を見つめてくるのだ。 目を合わせたら気まずいので気づかないフリをする。 すると、イケメンが顔に手を伸ばして来る。何事かと思っていると、私の触覚をメガネの外側に出したのだった。私は面長解消のために触覚を作っているのだがこうされては意味が無くなってしまう。私は触覚をもとに戻し正常を保った。 しかし、イケメンは何度も触覚を気にしてくるのだ。 その度に私はそれを阻止するのだが、段々とエスカレートしていった。 顔に手を添えられただけで既に私の心臓は限界を迎えていたが、イケメンの攻撃はそんなものではなかった。

授業の途中、机をグループでくっつけるということがあったので、私とイケメンは隣同士になってしまった。 頬杖を付くように触覚をガードしていた私の手を、イケメンは指でスリスリしてきて「くすぐったい?」と聞いてくるのだ。 ふざけるなよ!こっちの気も知らずに!と私は恐らく顔中を真っ赤にしながら思っていた。正直心臓が破裂しそうだった。 その時の私の目には、向かいに居る二人のことは必死過ぎて全く視界に入っておらず、完全に私とイケメンだけの世界だった。 傍から見たらイチャついているようにしか見えないだろう。向かいの二人の心中を察した私だった。

続いて私は頬をツンツンされた。もう満更でもない私は笑うことしか出来ないのであった。 そしてガードし続け嫌がる素振りの私にイケメンは一言 「触ったらこんなにフェイスライン綺麗なのに?」 私の頭に?!マークが大量に浮かぶと共に、体中から火が出そうになったのを感じた。 なぜ陽キャはこんな事が容易く言えてしまうのだろう。私を殺す気なのではないかと思った。時には手を掴まれ、ギャー\(^o^)/と思いながら掴み返しそろそろ限界のその先へ突破してしまいそうだった。効果はバツグンだ!

しばらくこんな攻撃が続き、必死に耐えていた時 遂に授業の終わりが来た。 皆それぞれ机を戻し、私は熱々に茹で上がった耳たぶをもぎゅもぎゅと触ってバクバク鳴っている心臓を落ち着かせようとしていた。

しかし、イケメンの攻撃はまだ終わっていなかった。 英会話の授業では最後に立ち上がり、挨拶をする前に先生と生徒で交互にAからZまでアルファベットを言っていくちょっとした遊びの時間がある。 その間にイケメンはとんでもないことをして来たのだ。 なぜ後ろの私の席に来てまで私の触覚を解き放ちたかったのかは分からない。 私がガードしすぎてモヤモヤしていたのだろうか。 突如横からガード出来ないよう私を抱きしめ、低音ボイスで「落ち着いて?」と囁いてきたのだった。 ここで私は限界を突破した。

私の思考回路は完全に停止し、あ行しか言えなくなってしまった。 普段から友達との接触があまり無い私にとっては耐え難いものであった。 しかも囁かれるなんて聞いてない。もしもここで私が死んだら、死因は過剰接触による心臓発作だろう。 私が今にも死にそうな顔をしていたら、先程からこちらの様子を見ていた隣の席の子が真顔で言った。「何ホストみたいな口説き方してんの」 違うんだ。口説かれているわけではない。そういうわけでは決してないのだ。 しかしこう思いながらも口説かれたいと心の底で思う自分を軽蔑した。

やっと授業が終わり、体中真っ赤で汗だくの私はそそくさと友達の元へ逃げた。友達は茹でダコのようになっている私を見て、なぜそんなに真っ赤なのかと聞いてきた。聞かないでくれ。君と同じ部活の奴の所為だ。 ちなみに私はさっきも言った通り満更でもない。きっと友達の目にはにまにまと笑った気持ちの悪いものが映っていただろう。

こうして毎週月曜日が私の楽しみになったのでした。               

追記: これを書いていたら新たな月曜日が来たので再び楽しんで来ました。 今度は「ここって性感帯なんだって」なんて言いながら手首と耳裏をスリスリされ大変有意義な時間を過ごしてしまいましたありがとうございます。

隣の子曰く「いかがわしい」だそうです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?