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甲子園【自己紹介】

野球経験のない私が甲子園の土を踏んだのは、もう20年以上も前になるだろうか。

西日本のある高校が夏の県大会を制し初出場した。地方紙の支局記者として1週間ほどナインに同行したのだった。地方版に練習の様子、対戦相手の横顔といった記事を送った。

初戦は神奈川の強豪。スコアは覚えてない。惜敗だった。アルプスとは名ばかりのスタンドでジリジリ焼かれながら、グラウンドに背を向け、応援の様子を取材していた。スタンドの雑感取りという新人の仕事だ。

「○高の夏は初戦で激しく燃え尽きた」。100行ほどの記事をこう締めくくって、同行していた運動部のデスクに見てもらった。地方版の締め切りが迫っていたこともあり、あまり手直しもなく原稿は本社に送信された。

支局で警察回りを始めたばかりでいきなりの甲子園取材。随分と周りに「ツキがある」と囃し立てられたのを覚えている。

原稿を書くスピードには自信があったが、その自信は簡単に打ち砕かれた。スポーツ紙の若手記者は私の近くに座るやいなや、キーボードを叩き始めた。リズムよく刻んでいくビートならぬ文字。いつも間にか彼の姿はなかった。

グラウンドの照明が一つずつ落ちていった。グラウンドは闇に溶けていくかのようだった。すると私のいる記者席が逆に浮かび上がっていく。照らすのはPCのバックライトか、記者席の明かりなのか、それとも月光なのか。

前の試合が押しに押してナイターとなった。数時間前、確かにグラウンドでは砂煙が舞い、白球が塁間を抜けていって、私の近くでは悲鳴が上がっていたスタンドも今は闇に包まれている。

甲子園取材を終え支局に戻ると、内偵していた事件がはじけ、警察にしばらく張り付くことになる。ここでも「ツキがあるねぇー」と他社の先輩記者に慰められた。そう、私は新婚でもあったのだ。

そんな私ですが、今は企画から取材、写真撮影、誌面デザインまですべてワンオペで行うひとり編集部にいます。ワードで全頁組み、カットはCanvaで自作しています。

嗚呼!

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