独りニモマケズ
朝、カラスが鳴いていた。
そのことを知らせたのは、家の飼いウサギだった。激しく動き回って鼻を鳴らしていた。
外に出ると電線に隙間なくカラスが集結している。いずれも東を向き50羽以上はいただろうか。1羽が鳴き始めるとみな続いて、読経の唱和みたいになった。
以前、似たような光景を目にしたことがあった。電線に居並んだ数十羽のムクドリが鳴き喚いていたのだ。大群に見守られるように、道端には1羽のムクドリが死んでいた。
カラスは何に鳴いていたのだろうか。仲間が難に遭った様子はない。そんなことをぼんやり思いながら、雨中、会社から菊坂を通って本郷三丁目駅まで歩いた。
「青森ではカラスが人間を襲う」と中学の卓球部顧問が真顔で話してくれたのを思い出す。カラスはわたしを見て威嚇していたのだろうか。何かを守るために。
菊坂の途中には、宮沢賢治の下宿があり、今ではアパートになっているが、菊坂を上ると、本郷3丁目の交差点に出る。春日通りを今度は緩やかに下って湯島を過ぎたら上野広小路に出る。寄席があり上野松坂屋と続く。会社のある本郷から御徒町まで歩くと、すごくいい気分転換になる。このコースを雑誌をつくり始めてほとんど歩いていないのが何よりも不満だ。
会社のある本郷は台地と谷をつなぐ坂道が数多くのびている。菊坂以外にも鐙坂(画像)や炭団坂など、いろいろな名の坂道があって興味をそそる。我が「ひとり編集部」はこの菊坂下にあるので、きょうから「菊坂ロンリー編集部」と呼ぶことにしよう。
家に帰り、馴染みのボトルを手に取る。オールドクロウ。すっきりしているというか甘みがあるというか、とにかく学生時代からお世話になっているバーボンだ。気づけばこればかり求めてしまう。
オールドファッションなラベルが睨みをきかせている。
カラス、ここにも、またカラス。