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とてもわがままな彼女、

時々、彼女は私や妹を家に連れて行った。

よその家に泊まれることは、それだけでワクワクする。しかも、彼女の家には2匹の犬がいる。
「ウエストハイランドホワイトテリアっていう種類よ」と、彼女は誇らしげに教えてくれた。
うちは犬を飼っていなかったので、白くて小さな犬の散歩をしたり、撫でたり、餌をあげたりできることはとても魅力的だった。よく吠える犬だった。

その夜は、彼女は寿司を出前で頼んでくれた。
寿司桶に各種類3貫ずつの寿司。まず、彼女が大トロ、中トロ、イクラを取る。その後、私と妹が選ぶ。妹はトロが好きだったので、一つ余っている赤身のトロを最後まで残して食べていた。うかうかしてると、彼女が3貫とも食べてしまうので、私も妹も最初にイクラは一貫ずつお皿に確保した。

彼女はピンク色が好きで、よくピンクが入った洋服や小物などを身につけていた。もちろん2匹の飼い犬にもピンクのリボンをつけていた。

時々、彼女は、洋服を買ってくれた。
「ただし、ピンク色の洋服しか買わないわよ」
私も妹もピンクはあまり好きじゃない。渋々、ピンクの服を選ぶとOKが出た。彼女が買ってくれたピンクの服は、その後、着る機会はほとんどなかった。

彼女は図工の先生をしながら、自分でも日本画を描いていた。ポピーなどの花の絵ばかりだった。
「花が好きなの。だから花しか描かない。素敵でしょう?」
彼女の家は、いつも日本画の絵の具と犬の匂いがしていた。わが家とは違う、どこか生活感のない浮世離れした家だった。

私たち姪っ子のことは可愛がってくれていたのだと思う。「彼女を楽しませる、喜ばせる存在かどうか」という条件付きで。だからか、私たちが大人になるにつれ、彼女とは次第に疎遠になっていった。

しばらくして、彼女は癌を患い、あっという間に亡くなってしまった。最期まで大好きな大トロと中トロ、イクラを食べて、犬を飼って、ピンクのものを身につけて、花の絵を描いて過ごしていたらしい。

「受診するよう何回も勧めたのに、聞かなかったよ」「人の意見なんて聞かない人だったから」
お葬式で、大人たちが皆、同じことを言っていた。
誰の言うことも聞かず、自分のやりたいように生ききった彼女。幼く、若かった私には、「とてもわがままな伯母さん」にしか見えなかった。

彼女が遺したたくさんの花の絵に、あれほど好きだったピンク色は1枚もなかったことに気がついたのは、最近のことである。
今、私の中で、とてもわがままな彼女が、物語の続きを伝え始めている。



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