見出し画像

「テレビ離れ」とは言うけれど(6)

「スマートテレビ」の登場

 これまで見てきた、「ケータイ」やパソコンといった情報端末デバイスが「テレビ機能」を搭載するというのは、情報端末デバイスがテレビ機能を取り入れて発生するそれらの境界の溶解の形態ですが、その逆、「テレビジョン受像機」が情報端末デバイスの機能を取り入れて発生する境界の溶解の形態もあります。情報端末デバイスが担って来たインターネット接続機能を搭載する「スマートテレビ」もその一形態です。「スマートテレビ」は、インターネット接続機能搭載という点においてそれらの境界が溶解、テレビでありながらも既に情報端末デバイスとなってしまっています。
 インターネットに接続できる「スマートテレビ」は、総務省の調査では2007年に登場したとされています(※35)。一方、過去の「日経クロステック」や「ITmedia NEWS」の報道では、それよりも早い。2005年11月に発売となったSONYの薄型テレビ「BRAVIA」の新機種がインターネット接続型であると報道しており、これは、今で言う「スマートテレビ」に該当します(※36)。
 なお、「日経クロステック」の当該報道では「インターネットにつながるテレビそのものは,既に1990年代後半に登場していたが,画面の精細度や通信速度,端末処理速度などの問題から普及するまでには至らなかった。」としています。確かに、「WebTV」のような「インターネットにつながるテレビ」のサービスは1990年代後半に登場していました。
 この「WebTV」、日本国内でサービス開始となったのは1997年。「WebTV」は「専用のセットトップボックスに電話線とテレビをつないで家庭で簡単にインターネット接続できるサービス」で、当時この「WebTV」に対応するセットトップボックスとしてソニーの「INT-WJ200」が登場しています(※37)。
 このように、インターネットに接続できるテレビは2007年以前に一切なかったわけではありません。画面や通信環境が良くなったりしたことより、「スマートテレビ」としてそうした種類のテレビの勢いが盛んになったのが2000年代半ば以降と考えた方が妥当でしょう。
 2021年ドンキホーテから発売されたチューナーレス「スマートテレビ」の話題は、読者の皆さんにとっても記憶に新しいことでしょう。テレビチューナー非搭載の、この「スマートテレビ 」は、2021年12月に発売されました。「ITmedia ビジネスオンライン」では、「1カ月で初回生産分6000台がほぼ完売した」などとして売れ行きが好調だったと報道しています(※38)。ドンキホーテのこの「スマートテレビ」はPCやゲーム機との接続もできるのだそう。このようにテレビが発展し、いつしかインターネット接続が可能な機種が登場、のみならずテレビチューナーレスの機種も登場、こうして、「テレビジョン受像機」だったはずの「テレビ」からテレビチューナーすら消失してしまいました。

テレビチューナーレスの本体+無線電波送受信機付属のテレビ

 こうした、テレビチューナー非搭載のテレビにはそこそこ歴史があります。2000年にはSONYからテレビチューナーレスの「ワイヤレステレビ」が発売となっています。このテレビ「ソニー エアボード IDT-LF1」 には、テレビ本体とは別に、テレビチューナー内蔵の無線電波送受信機が付属しています。この無線電波送受信機「ベースステーション」が「テレビ」本体に電波を送信、「テレビ」本体が映像を映し出すという仕組みで、今で言う「Wi-Fi」の技術を取り入れてます(※39)。この「ベースステーション」は電話回線にもつなげるのでインターネット接続も可能とのこと。機能だけを見れば、AppleのWi-Fi機器「ベースステーション」のテレビチューナー付きとイメージすればわかりやすいかもしれません。
 こうした、無線電波送受信機付属型の「テレビ」ですが、実はかつて±0でも販売されていました。2003年発売の「8-inch LCD TV」がそれで、深澤直人が手掛けています(※40)。逆説的ではありますが、テレビの薄型化が可能にしたデザインで、奥行きあるフォルムが個性的です。今見てもカッコいいですね。

無線電波送受信機の発展

 そうした中、「テレビ」本体はさておき、情報端末デバイスの周辺機器が発展、「nasne」のような機器も登場します。2012年にSONYから発売された「nasne」は、テレビ(デジタル)チューナー内蔵のネットワークレコーダー&メディアストレージです(「nasne」は現在バッファローが継承・販売しています。)。テレビアンテナケーブルとつないだ「nasne」をWi-Fiルーターにつないで、PlayStation、PCやスマフォ、タブレットでのテレビ視聴ができます。レコーダーやストレージの機能も兼ね備えているので、テレビ番組の録画とその保管媒体としても使用できます(※41)。

「テレビ」とは?

 このように現在では、テレビにも情報端末デバイス化したインターネット接続可能な機種があり、そして、「nasne」のようにテレビの周辺機器が発展、各種情報端末デバイスでのテレビ視聴が可能な状況となっています。それどころか、テレビチューナーレスのテレビも登場。かつては、「テレビジョン受像機」だけが「テレビ」だったはずですが、それも次第にあやふやになってしまいました。「テレビ離れ」とは言いますが、まず「テレビ」自体が当初の「テレビ」を離れつつあります。
 一方で、こうした状況においてもなお、非・スマフォ、タブレット、パソコンの、据置・壁掛けの型の「テレビ」を選択し所持しようという層は存在します。「テレビ」へのそうした執着はどこからやってくるのでしょう。次に、総務省の「消費動向調査」のカラーテレビの普及率を眺めながら考えてみたいと思います。

次回に続きます。

[注釈]

(※35)総務省「スマートテレビの現状について」(https://www.soumu.go.jp/main_content/000401160.pdf)
(※36)日経クロステック>PC>記者の眼「ネット接続機能を持つテレビが再浮上」(https://xtech.nikkei.com/it/article/OPINION/20051118/224895/?ST=pc)(2005年11月22日)
ITmedia NEWS>「BRAVIA」向けネットサービス「TVホーム」とは?(https://www.itmedia.co.jp/lifestyle/articles/0510/26/news130.html)(2005年10月26日)
(※37)internet Watch>新サービス>家庭向けインターネットサービスの「WebTV」が国内でサービス開始(https://internet.watch.impress.co.jp/www/article/971002/webtv.htm)
(※38)ITmedia ビジネスオンライン記事「ドンキ、1万5000台売れたチューナーレステレビに4Kモデル追加 サイズ展開も拡充」(2022年8月10日)(https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2208/10/news187.html)
(※39)ソニーWebサイト>プレスリリース>2000年 9月 28日「新商品 」(https://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/200009/00-0928/)
(※40)±0Webサイト>ヒストリー >8インチ液晶テレビ(https://www.plusminuszero.jp/history/8インチ液晶テレビ/)
(※41)BUFFALO Webサイト>「nasne®」をバッファローが継承。そのバックストーリー(https://www.buffalo.jp/nasne/story.html#:~:text=ネットワークレコーダー&メディアストレージ「nasne(ナスネ)®」,年を迎えました%E3%80%82)
PCWatch記事「PCでも簡単に地上波TVが見られるって知ってましたか?nasneの導入方法をやさしく解説」(2022年7月8日)(https://pc.watch.impress.co.jp/docs/topic/special/1421213.html)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?