相棒16-11 ダメージグッズ(ネタバレあり)

陣川公平の帰国

「陣川という名の犬」の時の事件で恋人になる筈だった女性である矢島さゆみを殺害した真犯人を確保した事が評価され、イギリスでの刑事研修を受けていた陣川が2年ぶりに帰国。

登場人物

岡村咲

好感度 ★★★★

陣川が特命係に「女性の事で相談がある」と持ちかけるきっかけになった女性。
言葉遣いが悪く、相手を無碍に突っぱねる印象が強かったが、それはただの偽悪で、彼女自身は誠実だったと思う。以下は箇条書きで。

自己紹介にかえて

初対面の杉下右京と冠城亘が自己紹介した時、杉下には特に何も言わなかったが、冠城には「陣川の先輩でしょ。話は聞いてる」と言っていた。
陣川は本人のいない所でも冠城を先輩だと話している事が分かり、本当に陣川は冠城の事を慕っている事が窺えるくだりだった。
咲もまた、ちゃんと陣川の話を聞いて覚えているあたり、つっけんどんにしながらも陣川に心を開いているんだなと。花の里にもすっぽかずに来た訳だし。

ブラックフライアーズブリッジ

咲と陣川はタイトルの場所で知り合った。この場所は、杉下によれば「自殺の名所」だと言う。咲についてはこのエピソードで語られるとして、陣川はそもそもなぜそこにいたのか。それに関しては詳しく語られていなかったが、陣川も矢島さゆみの事件を吹っ切れず、自殺しようとしていたのだろうか。

前の話である「ギフト」では、陣川本人の手紙によって彼が研修に励んでいる様子が語られていた。文面のみの印象ではあるが、この時の陣川はさゆみの事件が起こる前のお調子者っぽさを窺わせており、少なくともこの時の陣川はいくらか立ち直ったのではないかとも思える。少なくとも文面だけは…

彼女の友達が自殺したのはこの話の1ヶ月前。咲がロンドンに行ったのは、「逃げた」
という台詞から、「1年前にその友達を組関係の男に監禁されていたのを救った」後だと思われるので、少なくとも1年以内。
「ギフト」の時点では吹っ切れていなかったのか、時々思い出しては「自殺の名所」に足を運んでいたのか。そんな時に咲と出会った。あくまで想像でしか無いが。

被害者同情度

武田麻里

★★

被害者と言っても彼女自身は誰かに殺された訳ではなく、自殺。

家庭に恵まれなかったという事情があったにせよ、結局咲も含め、他の友達の成澤良子、中井亜弥。彼女たちの「パパ活」が発端だった事を考えると…。

少女売春については元締めが悪いんだろうけど、足を踏み入れたのは彼女達自身だからな。家庭に恵まれていなくて今で言う「頂き女子」行為をしたら同情するの? 悲劇のヒロインになるの? と思うし。
ホストに騙される女性は可哀想でホステスに騙される男は馬鹿、と言うような醜悪かつ矛盾した主張が可視化されている昨今の風潮に通じるものを感じる。

それに彼女が言ってた「開店資金」。結局は襲われた動画をネタに強請ろうとしていたのならば、元はと言えば自分達で足を踏み入れていた事を考えても、彼女自身の行動にも問題がある。

更に言うと、強請に使うつもりだった動画を消去しなければならなくなったのだって、そこに映っていた友達を守る為と言えば聞こえは良いが、結局はそれも自分が蒔いた種。何故なら一番出世したその友達を信用ならない男に自慢したのは彼女自身で、そのせいで自分が友達を強請るように仕向けられたのだから。結局金せびってるし。

そもそも「良子ちゃんに迷惑かけたくないから、もう消しといた。彼には、亜弥の動画しか見せてないから」って…亜弥には迷惑かけても良いのかよ。何とかカーストよろしく友達に格付けでもしてたのか?

亜弥もご主人が厳しそうだし、そんな動画が広まったら酷い目に遭う事は想像に難くない。そこまで考えなかったのかな。

犯人同情度

佐藤春樹

★★

通称「シュガー」。
犯人と言っても殺人の犯人ではなく、今回の話で命を落とした麻里を追い詰めた一人であるという意味での「犯人」。
この話では、数年前から若年性の認知症を患い、末期の胃癌に犯されているとの事。その末路は、ある意味女性を食い物にしてきた報いだったのかも知れない。

成澤良子

先に書いたように麻里の死は自殺。ただし、その自殺した場所で彼女が渓谷から飛び込むのを目撃している。わざわざ呼び出された上で。悪く言えば、彼女は麻里の自殺を止めなかった。

冠城は「法律上成澤さんに罪は無い」と言っていたが、その「法律上」と言う言い方にどこか含みを感じた。そしてそれを補完するように、杉下が「それでもあなたは手を差し伸べるべきでした。(中略)そうしなかったのは、自己保身が頭をよぎったからですか? 麻里さんの死とともに、過去を葬り去ろうとしましたか?」と追い打ちをかける。法律に関しては杓子定規なのは今までの例からすると杉下なのだが、その杉下が法律以前の問題の部分で相手を責めるのはよっぽどの事だと思う。

私もこの女には強い保身が窺えて正直違和感だった。動画を撮っていた麻里に強い口調で「すぐ消して」って、そりゃ言うのは当たり前だけど、あなたもただの被害者って訳じゃなかったと思うけど。その世界に足を踏み入れたのは彼女達4人なんだから。
「私に起きた事は自己責任」だと思うなら、言下に強い口調で友達に「消して」と言うのではなく、過去の過ちに向き合うべきだったのでは? まあその動画自体、脅迫の道具になっていた事を考えるとどっちにしろダメなのだが。

彼女の養子縁組が決まった事で、4人はバラバラになった。そこから彼女だけが社会的に出世ルートに乗った事を考えると、後の話でこの話とは全く関係は無いが、「一夜の夢」という話を思い出す。
まあ、あの話は元々別の人物に決まっていた養子縁組の話を友達の為に断ったのに、その友達はしゃあしゃあと自分に回ってきた養子縁組の話を受けてしかもそれを黙っていたという話だから、あの話のような悪質な要素は無いが。

先に書いたように良子は「私に起きた事は自己責任」と言っていたが、全てを暴かれ、咲に糾弾された時の「悪いのは私じゃない。私たちをめちゃくちゃにした大人達が」というセリフから、こういう他責思考がこの女の本性だったのかと。

全てが明らかになってからも、政治家を続けると言っていたらしいが、正直この女は権力を持つべきではない無いと思う。他責思考の人物が(養子縁組をきっかけに)社会的地位を得て、自己保身まで持つようになる。典型的な悪い政治家の見本にしか見えない。「政治家を続けて子ども達を救う。それが贖罪だ」って言うけどそれはこの女の自己満足と思い上がりにしか聞こえなかった。


その他の登場人物

黒土圭司

好感度 ★★

麻里の恋人。実際は彼女の死に彼は関わっていないのだが、女性に声をかけて薬漬けにしていた事実に変わりはないので、逮捕される事になった。また、その後の冠城の台詞から、麻里の脅迫にも一枚かんでいた(と言うより唆した?)。

微妙に気になったのが、取り調べ中に本当にカツ丼(?)って出されるんだなと。しかも黒土、取り調べを受けている最中に平らげるとは…。

陣川に「彼女の事、愛していなかったのか」と問い詰められた時に「クソほど優しくしてましたよ。それは本当です」とやや焦り気味に言っていたのが個人的にはツボだった。純愛を大事にする陣川らしい言い方もそうだし、黒土が取り調べ中に一番焦っていたのがそこだったのもある意味印象に残った。

連行される前の「何で死んだんだよ、麻里」という白々しい芝居が秒でバレたのを見るに「クソほど優しくしていた」かどうかも怪しいものだが。

どうしようもない奴だがどこか憎めない部分もあったので★★に。

中井亜弥

同情度 ★★★

咲たち4人の仲間の1人。物語には深く関わらなかったが、男性と女性の乱行動画にその姿が映っていた事で事情聴取を受ける。
麻里に動画を消してもらえなかった事を考えると、4人の中で彼女は軽く見られていた可能性が高い。
結婚しているようだが携帯電話への着信で帰宅を焦っていた事を考えると相当な亭主関白?

最後に

「陣川という名の犬」で深い傷を負った陣川の再生エピソードでなければ、身勝手な女達の悲劇のヒロインごっことして色々言ったまま終わってた話。いや、実際言ってるけど。何もかも上手くいかずに止めてももらえぬまま自殺してしまった麻里は気の毒だが、良子は正直嫌悪感しかなかった。

「陣川という名の犬」の後日談という前提が無く、物語単体で見れば話としては正直悪い意味でのツッコミどころが目立つ話だった。

陣川が先に最後に言った「君は麻里さんが誰かに殺されたって疑ってた。その相手にその相手に復讐するつもりだなって、なんか分かっちゃったんだよね。君と僕は似てるから。…きっと、良い事あるよ」というセリフから、陣川が前の事件を引きずった上で咲と出会ったのは決まりと見て良いと思う。陣川も実際さゆみを殺した相手に復讐しようとしていたので。

咲がさゆみの事を知っていたかどうかは定かではないが、「私たち似てるんでしょ。だったら、陣川にもきっと良い事あるよ」というセリフから、なんとなく陣川も大切な人を失ったであろう事は察していたと思う。出会った場所が「自殺の名所」だった事を考えれば尚更そう思う。

2人の出会いが「自殺の名所」だった事を考えると陣川はその時点ではまださゆみが殺された事が心に引っかかっていたが、彼が咲を救い、咲もまた彼を励ました事で、ようやく時間が動き出したのかなと。
通りすがりの女性に“You are beautiful.”と言っていたラストシーンは、陣川が元の陣川に戻った事を印象付けるシーンだったと思う。
「陣川という名の犬」で、さゆみを殺された復讐心を残したままの陣川に杉下が強く訴えた「元の君に、戻るんです」という言葉。2年の時を経てようやく、その時が来た事を示したエピローグ。

陣川、念願の刑事になる

エピローグと言えば、陣川は杉下の古巣でもある捜査二課への配属が決定する。
勿論、以降の話でも継続する。
おめでとうございます。

陣川は以降の話でも登場するが、彼のターニングポイントとなった物語は彼の再生と刑事としての再出発の示唆をもって完結を迎える。

ずっと陣川を見ていた者として彼が念願の刑事になれたのは感無量だった。


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