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夏のとちぎ新顔巡り

バナナスムージー結構おいしい、パイナップル甘くていいな…ここはガラガラの湘南新宿ライン宇都宮行き13号車。カレンダーは気だるい曜日を指差しているが都心と逆方向に疾走するこの車両にサラリーマンの姿はほとんど見られない。今日目指すは下野国宇都宮、この夏注目されたニューカマー達に会いに行こう。

奥の木の合間に

宇都宮駅の階段を上がると早速奥にその姿を見ることができた、宇都宮ライトラインの黄色い車体がチラリと見えてくる。駅周辺には開業を祝う広告が並んでいてまさにお祭り騒ぎといった様相、開業当日は乗車制限があったりあるいは同業者が多過ぎたり「日常」を見ることができないのでと避けていたが今後増便や快速運行を控えている以上それらがまだない内に一旦記念で乗っておくのも良いだろうと思いこの開業約半月のタイミングを選んだのである。

駅の案内看板①
LRTホーム
駅の案内看板②
ホームに佇むライトライン

駅の案内看板には早くも当たり前のように掲示があり迷わず、雨に濡れずに向かうことが出来る。広域交通とのがっしりとした連結も魅力的なポイントだ。また駅西側および東武宇都宮駅方面への延伸についても用地(と思われるもの)が用意されており、延伸に向けて期待が持てる構造になっている。

夢は西側に
駅前の広場を走る

駅前は広場となっており電車が行き来する姿が早くも当たり前のものになりつつあるが木が植えられた中を黄色と黒の低床電車が走る様子はいわゆる日本離れした景色のように見えるが、他のどこでもなく宇都宮の姿である。路面電車のある街ではその街その街それぞれに個性的な都市景観が産まれるが、そういった光景がここにも産まれてガイドブックの表紙を飾るような日が来ることを楽しみにしたいものだ。

東宿郷電停
折返し待ち
発車していく電車
駅前を出て車道に

宇都宮駅前を除けばこの近くは道路の真ん中を走っていく路面電車という「らしい」光景になる。伝統的な吊り掛け駆動の「路面電車」が最新の低床電車と共存する他の都市のような見た目になるが、統一された新しい電停が特徴となるか。現金払いの場合乗車前に電停で整理券発行機から整理券を受取り降車時に運転士に運賃を支払う。運賃が50円刻みなのも分かりやすいポイントだろう。一方交通系ICカードの場合には乗下車時に最寄りのドアのICカードリーダーにタッチすれば良い(乗車/下車時で分かれている点に注意)、現金払いによる遅れが注目されたが中長期的にはキャッシュレス志向が定着すると見てのことだろう。乗換案内アプリなどが注目されがちな"MaaS"であるが将来的には欧州のようなモード間横断・都市圏単位の運賃キャップ制などに繋がっていくのだろうか、そのような可能性にも期待したいところである。

あれこれ見ていたら10時になった、名物の餃子を食べに行こう…

宇都宮餃子館 餃子定食

駅前の餃子店に開店と同時に入店し、餃子定食を早速いただく。餡の味をしっかり楽しめて大満足の一皿となった。

食事も終えていよいよLRT乗車となる。今回の狙いはトランジットセンターを見に行くこと、沿線5ヶ所の主要な停留場に駐車場などの設備が用意されておりバス路線もこれを軸に再編されている。それまでのバスの問題点などに対応してデマンド交通の整備などの可能性を広げる狙いがある。

トランジットセンターの設備が明示された路線図

トランジットセンターは
・宇都宮駅東口
・宇都宮大学陽東キャンパス
・平石
・清原地区市民センター前
・芳賀町工業団地管理センター前
が設定され、その他全ての停留場付近に駐輪場があるとのこと。国際的に持続可能な交通機関の整備の推進を目指すNPOであるITDP(:Institute for Transportation & Development Policy)が提唱する"BRT Standard"においてもフィーダー交通としての価値が認められ、駅勢圏の拡張により利用者の移動時間の削減やユーザ体験の向上に資すると評価されている(下記リンクACCESS AND INTEGRATIONより"Secure Bicycle Parking")。

このことからも停留場に徒歩以外でアクセスする選択肢が分かりやすく用意されており、より多くの利用者を獲得することに期待していることが窺える。これからの地域公共交通を考えるうえで多くのヒントを秘めた路線になることだろう。

向こうから電車が
グイっと曲がって入線

さて、まずは宇都宮大学陽東キャンパスまで乗ってみよう。駅名に掲げられた大学キャンパスのみならず駅前にはショッピングセンター「ベルモール」や映画館やビジネスホテル、県央産業技術専門校がある利用者が多い停留場でバス停は近隣のバス路線のハブとなっている。

ベルモール俯瞰
モールから見る電車
宇都宮駅方面停留場
モール内バス停

乗継待ちの間に買い物などのニーズが満たせたりと様々な利用動態が予想できる停留場だ、既にライトラインでベルモールを訪れるという生活様式は定着しつつあるとのことで今後の利用客の動きにも注目したい。
…本筋とは全く関係ないが、ここではアルパカが飼われている。見ている分には可愛らしいものだがつばを吐くことがあるそうな。

次のトランジットセンターは隣の平石停留場、距離は大したものではないので残暑の太陽に灼かれつつ歩いてみるとしよう。

走ってきた宇都宮駅行き
専用軌道に入り高度を上げていく
堂々たるカーブで道路から離れていく
平石停留場に向けて下る

宇都宮中心部を離れて周りに緑が見えてきたタイミングで最初の専用軌道区間に入り、立体交差で道路をオーバーパスする。そこから高度を下げて地平に着いたら平石停留場、トランジットセンターにしてライトラインの車両基地もある。駅近くは少し離れたところに幼稚園がある程度で建物は少なく、トランジットセンターの設備は駐車場や駐輪場などすっきりしている。一方電車用の設備は車両基地があるのもあって折返し可能な2面4線とライトレールらしからぬ大きさだが、これは今後の快速運行も見据えたものとのこと。

平出むつみ幼稚園 すっかり秋模様
停留場全景
構内踏切

トランジットセンターは公共交通の乗り入れはなく近くに新4号が通っていることもあってかタクシーと駐車場が用意されている。車両基地所在駅でもあり既に地域の主要な拠点となっている他の停留場と比べても今後の変化が興味深い。

離合する上下電車
専用軌道を走り抜ける

ここからは清陵高校前停留場まで専用軌道で、スムーズに走ったまま鬼怒川を横断する。ここで惜しまれるのは制限速度で、ここを上げることが出来ればさらに数分の短縮は期待できるだろう。それにしても複線のしっかりした専用軌道を走り抜けていく路面電車というのは改めてインパクトが強い。ともすれば地方私鉄もかくやという線路は開業直後ということもあるだろうが乗り心地も上々、路線、車両、二次交通といい最新のインフラの強みを各所で感じる路線である。そうこうしているうちに次のトランジットセンターである清原地区市民センター前停留場に到着する。

発車していく電車とバス停
電車とトイレ方面
横断歩道方面
奥の駐車場までつながる
トイレも設置

ここの設備には驚いた、路面電車の停留場とは思えない規模と設備が揃っている。バスや地域内交通、タクシー、マイカー相互の乗継が可能な造りでトイレも設置されているのは地方幹線の特急停車駅でもなかなか見られないくらいの力の入りようである。ライトラインだけではない、ライトラインを呼び水に地域の交通を再編してニーズに合った持続可能な形を創り上げようという狙いを見ることが出来る。あえて注文を付けるならば、飲み物の自動販売機があると良いような気がする程度だろう。工業団地の中央部ということもあり近辺にはコンビニがなく乗換のついでにあるとより良いのではないだろうか。

トイレ側から見るトランジットセンター
ベンチがある待合室
情報端末も設置
トランジットセンター全体地図

空調付きの待合室が出来たということも大きいだろう。電車は確かに(定刻なら)おおよそ12分毎、今後の増便次第ではより短い間隔でやってくる。しかしバスはどうだろうか? 流石にそこまで頻繁には来ないだろうし他の二次交通でも炎天下や雪、夕立の中待つというのはかなりのストレスになってしまう。そうなると家から目的地までマイカーの方が良いとなってしまい、本末転倒というよく見る光景が繰り返される。ドアツードア全体を俯瞰したユーザ体験の最適化はこれからの公共交通を考える上でより重要な視点となるだろう。運輸事業者個社で考え、自前で整える以外のアプローチから目を背けることはもはや通用しない。

停留場の電車

ここからは車道の脇や専用軌道を通って芳賀町に入り、芳賀町工業団地管理センター前停留場に到着する。そういえば途中のルートインもライトラインが出来てからは集客ターゲットにもかなりの変化が現れるのだろうか。宇都宮中心部に出るには片道30分は遠いにせよ、これまでとは一定異なる需要が生まれることだろう。

トランジットセンターは交差点の向こう
電車は左折する

ここもバスやタクシーの乗り場や駐車場、そしてトイレが備わり、自動販売機も設置されちょっとした補給ができる。

走ってくる芳賀高根沢行き
トランジットセンターのタクシー乗り場
待合室
曲がってきた宇都宮行き

いよいよライトラインの終点である芳賀・高根沢工業団地に向かう。HONDAの研究所が近くにありそのHONDAはライトライン開業に合わせて通勤・出張者向けのバスを廃止している。脱炭素化への取り組みとしているが、バス運転手確保も重要なテーマであろう。元々これ自体がマイカー通勤からの渋滞解消を狙っていたとのことでそこから更に一歩進んだ状態となる。1日の利用者は1,200人程度とのことでなかなかのボリュームとなるわけだが気になる点としては観光バスからの変更ということで着席保証が無くなったことか。特に低床LRVは座席数が少なくなるのでここのユーザ体験は気になるところ。

芳賀・高根沢工業団地停留場
地平から撮影
車止め等を
ホームから

折返し待ちで隣の停留場まで歩いて撮影を行う、この近くには急勾配の区間がありそこを走る電車を見てみたいと思ったのもある。電車は12分に1本ある、これがすぐ行って帰ってくるだけでなく途中で撮影したりするうえでは有り難いもので今後の地域公共交通、それも基幹軸となるような系統かくあるべしという示唆となるだろう。

到着する電車
勾配上での離合

帰りは起点の宇都宮駅東口まで一気に乗り通す。宇都宮大学陽東キャンパスから平石までは歩いていたのでこれで乗り通さないと栃木県内の鉄道完乗を奪還できない。ここで空いている車内をようやく見ることができたが改めて美しい車内と感じる。統一されたイメージのもとに構成されたデザインは開業直後ならではというのもあるが、西側延伸などが行われたらどうなるだろう。

車内概観
車内のクロスシート

広告がデジタルサイネージのみというのも特徴的だ。何かと紙広告が残ったりすることがまだまだ多いがこの車両の場合統一感がありスタイリッシュな印象を与える。

途中うとうとしつつ宇都宮駅着、15分ほどの乗換時間で日光線に乗り換える。

日光線E131系

日光線でこの車両に乗るのは初になる。昨年青春18きっぷで東北本線を北上した際に宇都宮から黒磯まで利用したが、全密閉モータを使っており乗っていて個人的には好感触の電車である。途中で修学旅行臨のE257系とすれ違ったりして、本を読んでいるうちに日光駅に到着。

荘厳な駅舎と佇む3両編成

JR日光駅も美しい駅だと思うが産まれてこの方の東武ユーザとしては東武日光駅が恋しくなる、昼食と言うには遅めだがそれはそうとお腹が空いてきた。駅前のレストランに行こう。

なんとも親しみのある駅
ゆば御膳

日光といえば湯葉、ゆば刺しなどで仄かな甘味を満喫する。その後は駅前をしばらく散策し1時間半の滞在時間はあっという間に経過した。ここからは最後のお目当てのために東武日光線に乗り込むが…?

並ぶリバティ
20400型いちご王国ラッピング

早く帰るだけならリバティに乗れば良い、これも快適な電車…なのだが今日はどうしても乗りたい列車があるので下今市行きの普通電車のシートに身を委ねる。栃木のいちごをPRするラッピングは車内にも及んだ気合の入った仕様。

吊り手もいちご
ドア横の広告
シートもいちご柄
中吊り広告もPR仕様

下今市駅でSL客車や他の電車を撮ったりしているうちにお目当てが走ってくる。今日はほぼ満席ということで車内の写真などを望むべくもないが、新型特急のお手並み拝見と行こうではないか、N100系「スペーシアX」の入線だ。

白い車体が美しい
デッキと洗面所(車いす対応)
行き先表示の液晶

最新鋭の特急は快適そのもので、スタンダードシートでも時間を忘れるような快適さ。気が付いたら利根川を渡ってあっという間に春日部駅にまで戻ってきてしまった。カフェや様々なシートなど楽しむべきところはいくらでもあるのだが、しかし今回のようなラフな格好では場違いな気も否めない。是非とも襟を正して浅草から乗り込んで日光鬼怒川を満喫する旅に出てみたい、そんな気にさせる今回の旅の締めくくりとなった。

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