岩本勉氏の発言に思うこと
はじめに
北海道日本ハムファイターズOBの岩本勉氏の発言が物議を醸しています。そこで、いちファイターズファンとしての感想を徒然なるままに綴りたいと思います。
あくまで感想ですから、賛同される方もそうではない方もおられることと思います。「そういう考えの人もいるよね」の一言で済ませてしまって差し支えないのですが、「そういう考え」を少しでも言語化できればと思って筆を執った次第です(手書きじゃないけど)。
事の経緯と論点の整理
2024年12月12日、東京スポーツが、福岡ソフトバンクがレッドソックス傘下をFAとなった上沢直之投手の獲得調査を進めていると報じ(※1)、間もなく他社からも相次いで同様の記事が出ました。これを受けて岩本氏は自身のYouTubeチャンネルに
「九里亜蓮のオリックス移籍と上沢直之の去就について、岩本からのお願いがあります」(https://www.youtube.com/watch?v=m74m3a_vNgg&t=496s)
と題した動画をアップロードしました。タイトルからもわかる通り、前半は広島東洋・九里亜蓮投手のオリックスへの移籍について、後半は上沢の去就について語る、という内容でした。
岩本氏は「ルールの中で許されるんやったら、全然交渉してもらって良いと思う。自分の先発投手としての価値をどうやって見てもらっていますか(という話を)聞くだけでも良いじゃない」と述べ、石川柊太投手の千葉ロッテへの移籍も、ソフトバンクが上沢獲得に乗り出す要因の一つになるとの見解を示しました。
また、パ・リーグが不人気リーグと言われた時代を経て、各球団がそれぞれの地域に根差して人気を獲得してきたこと、現役ドラフトの導入等もあって移籍が活性化してきたことに言及すると、それに続ける形で
「みなさん、お願いがある。上沢がどんな決断をしても、彼を肯定してあげてよ。一番悩んでんのは本人。九里亜蓮がどんな決断をしたとしても、絶対的に肯定してあげて。カープファンのみなさんは寂しいと思う。でもね、自分で選んだ道。色んな熟慮があって選んだ道。それを絶対的に応援してあげて欲しいね。それが野球界の一層の発展、そして推している選手、推しているチームの発展につながるから」
とコメントしました。正当に得た権利を行使した九里と上沢を同列に語っていることや「絶対的に肯定」という言葉の意味がよくわからないということ、
①パ・リーグが不人気時代を経験してきたこと
②移籍を活性化させるべきであること
これら2点と上沢の行動を結びつけて語る理由がさっぱりわからないということは一旦横に置きます。
この動画が公開されるやいなや、コメント欄、Twitter等で賛否両論を含む様々な意見が飛び交いました(賛否両論って言うときは9割がた“否”なのよね)。
ではなぜ岩本氏の発言が批判を浴びているのでしょうか。かく言う私もこの発言にはカチンと来ました。ただ、「岩本氏の発言が批判を浴びている」と言ってはみましたが、「上沢のNPB他球団への移籍は許せないし、それをただ『肯定してあげて欲しい』と発信する岩本氏にも到底賛同できない」という想いが大前提にあることをご理解いただきたいと思います。
要するに“Aという許せない行為を無条件に肯定しろと主張するBという人物がバッシングを浴びている”という構図です。したがって、話の主眼はAという行為(=上沢のNPB他球団への移籍を匂わせる行動)がなぜ批判されているのか、というところになります。
繰り返しになりますが「Aという行為が許せない」というのはあくまでも私の主観によるものです。
前置きがだいぶ長くなってしまいましたが、ようやく本筋です。
ここで槍玉に挙げられるのは恐らく以下の四者でしょう。
①NPB他球団への移籍を匂わせる上沢
②獲得に動くソフトバンク
③ポスティングを容認した日本ハム
④現行制度を改めようとしないNPB
批判対象①上沢
上沢自身の立ち回りに腹を立てているファイターズファンは少なくないことと思います。少なくとも私はそうです。
上沢は22年オフにMLB挑戦の意思を表明し、それができるかは23年の成績次第であることや、マイナー契約での移籍は家族がいるから難しいといった旨の発言をしていました。具体的な数字は「15勝」以外には挙げられていませんでしたが、キャリアハイの成績を置き土産に挑戦したい、という発言と捉えるのが普通でしょう。
結局上沢はキャリアハイに迫るような成績は残せなかったのですが、日本ハムはポスティング申請を容認しました。恐らく球団側の定めたノルマはクリアしたということなのでしょうが、円熟期を迎えたエースを、まともな対価も得られない可能性があるのに放出したということになります。
そして上沢はメジャー契約のオファーもあった中「投手育成に感銘を受けた」との理由でタンパベイ・レイズとマイナー契約しました。メジャー昇格時に金額が上がる“スプリット契約”ではありましたが、移籍時点での譲渡金は約90万円程度。そして開幕前にボストン・レッドソックスへ移籍したため
「メジャー契約を蹴ってまでレイズに行ったのに何がしたかったの?」
という感想を抱きました。
ポスティング申請期間中の、挑戦することを権利と捉えているかのような発言も相まって、移籍時点での上沢に対する感情は既に複雑なものでした。
そんな折、上沢が自身の去就について取材され、
「どの球団でも話を頂けるのであれば“結構です”と言うのではなく、一度話を聞きたいと思っています」
と話したという記事が出ました(※2)。もう一丁前にFA宣言した人みたいなコメントですね。そこへ今回の報道です。しかも日本ハムは上沢にオファーを出しています。古巣が興味を示していないのならともかく、声がかかっているのに他球団の話を聞こうとするとは、空いた口が塞がらないとはまさにこのことです。
「上沢の人生だから」という意見はごもっともです。しかし、上沢はまだ国内FA権すら取得していません。NPB時代に自ら掲げたノルマをクリアできず、球団の厚意で挑戦させてもらったうえに、「家族がいるから難しい」とまで言っていたマイナー契約での移籍(球団は対価をほとんど得られない)を選択し、リリースされた選手が、NPBにおいて国内・海外FA権を取得した選手と同じように「他球団の話も聞いてみたい」などと発言すること自体が許せない、というのが本音です。
批判対象②ソフトバンク
ソフトバンクが獲得調査を進めている、という記事が出たことが今回の騒動の直接の火種です。しかし、これは現行制度の下では全く問題ありません。岩本氏の発言にもある通り、先発陣の補強が急務となっているソフトバンクが日本球界で確実に稼働するであろうスターターの獲得に動くのは極めて自然なことです。「戒めFA」と揶揄された例の一件と違い、社会的・道徳的規範に反するどころか危うく法にすら抵触しかねなかった人物を獲得しようとしているわけでもありません。
したがって、ソフトバンクが上沢の獲得に動くこと自体はなんら批判される謂れはないと思いますし、私も批判はしません。さすがホークス。
「“球界の紳士たれ”ってのは現状は紳士じゃないから言ってんだよ」という話をどこかで聞いた覚えがありますが、いやはやなるほど。さすが“美意識”を標榜される新・球界のヒール盟主は違いますなぁ。
批判対象③日本ハム
「そもそもポスティング認めた時点でこうなることは予期できたでしょ。前例だってあるんだし」
という声も聞こえてきます。それもあろうことかホークスファンから。いや、全くの正論だと思います。ええ、確かに日本ハムがポスティングを認めなければこんなことにはなっていませんでした。おっしゃる通りです。
ただし
「ろくすっぽ通用しなさそうな奴のポスティング認めたって有原の二の轍踏むみすみす戦力を失うだけじゃねえか、何やってんだ!」
という日本ハム球団への批判と
「誰のおかげで移籍できたの?FA未取得の分際で他球団の話も聞くとか何考えているわけ?」
という上沢への批判は決して両立しないものではないと思います。だって有原式FAができる立場になったからといってそれをやらないという選択肢だってあるわけでしょ。
批判対象④NPB
今回、一番声を大にして言いたいのはこれかも知れません。NPBはポスティングで海外移籍した選手が復帰する際の優先交渉権等を特に規定していません。また、批判対象①の項でも触れましたが、抜け道的にFA権を取得・行使した選手と同等の立場を得られてしまうことも問題です。
「ポスティングを認めるならそういうリスクも覚悟しておくべき」という声もあるでしょうが、そもそもポスティングシステムは野茂英雄さんがMLBへ“抜け道”(あえてこう表現します)を使って挑戦したことを契機に導入された制度。当然、国内への復帰の際の抜け道も規制するべきでしょう。
総括
「岩本氏の発言に思うこと」って題だけど、ほとんど上沢の去就問題の話に終始してしまいました。でも仕方ないです。「なぜ岩本氏の発言が気に入らないのか」を語るうえでは外せないテーマでしたから。
改めて岩本氏の発言への感想は
「もし上沢がNPB他球団に移籍となればファンとしては到底受け入れがたいことは想像に難くないのに、何であんなこと言っちゃったんだろう。きっとそこまで問題視はしていないんだな」
というものです。別に問題視はしていなくても良いんですよ。ルール上は問題ないんだから。でも
「現行のルールおかしくないか?規則委員会で言うてくるわ!」
くらいの度量は見せて欲しかったかな。
あ、もちろん、上沢が帰ってきたら何はともあれ応援はしますよ。
追記(2024/12/16)
このnoteを投稿してからわずか3時間後に上沢が福岡ソフトバンクと基本合意に達したと報じられました。「ルール上は問題ない」なんてことは承知の上で、いちファイターズファンとしての感想です。
上沢投手へ
FA権取得まで、一年だけファイターズでプレーすることさえ耐えられませんでしたか。まあ、耐えられないから突如としてMLB挑戦が以前からの夢であったかのように喧伝してポスティング移籍を目指したり、マイナーリーガーとして開幕しそうになるやいなや移籍を選択したりしたんでしょうね。二度と津軽海峡を渡らないで欲しいです。くそが。
ソフトバンク球団へ
腹は立つが現状全くルールには抵触していない。さすがですね。腹は立つ。
日本ハム球団へ
「夢を応援」するという方針自体を転換しろとまでは言いませんが、基準の見直しくらいはしても良いのではないでしょうか。メジャーで活躍できそうか、そもそもちゃんとお金を落としていきそうか、といった具合に。
NPBへ
ええ加減にせえ。
注釈
※1.https://www.tokyo-sports.co.jp/articles/-/327001
※2.https://www.sponichi.co.jp/baseball/news/2024/11/19/kiji/20241119s00001007025000c.html