新庄監督の野球観に思うこと(1)

ご挨拶

三振です。普段のツイートでは「ビグボかよ」で済ませている内容を言語化しようと思った次第です。そこでタイトルは「新庄監督の野球観に思うこと」としました。一応(1)とありますが(2)や(3)があるかは未定です。そもそもこれ誰が読むんや。
はい、面白くもない漫談はこの辺にして本題に入ります。今回のテーマは打者のアプローチについてです。

「走り打ち」について

2月17日にファイターズはWBCキューバ代表と練習試合を行いました。その際、キューバ代表のロエル・サントス選手が見せた、いわゆる「走り打ち」について新庄監督はこう言及しています。
「ちょっと面白いかなと。助走入りながら打ちに入るから意外と簡単。左打者に練習させてもいい」※1
サントス選手は第4回のWBCや、マリーンズ時代にもこの走り打ちを見せており、ご記憶の方も多いかと思います。それはそうと、ここで気になるのは新庄監督の発言です。新庄監督は秋季キャンプで左打者の走り打ち※2を矯正するために逆回りで実戦を行いました。このこととの齟齬を指摘する声も挙がった(と、私は認識している)のですが、この発言の真意は誰にもわかりません。深く考えずにその場の思い付きで言ったのか、以前からそれに近い構想を持っていたのか、はたまた他球団へのブラフなのか。尤も、現在に至るまで走り打ちを練習させたという報道は出ていませんし、お得意のリップサービスと捉えて良いのかもしれません。
しかし、新庄監督は五十幡亮汰選手について「三塁方向にゴロを打って投手に捕らせれば勝ち」などと発言しているほか、足を絡めた、と言うより
「脚力のおかげで出塁して、脚力のおかげで生還する」野球をやろうとしている節が伺えます(ここを深く掘り下げるのはまたの機会に)。もちろん五十幡選手の脚力は大きな武器ですし、他の選手ならアウトになる内野ゴロが安打になるということもあるでしょう。では、その“脚力頼み”のアプローチでどれほどの結果を残せるでしょうか。

ハルタク


ここでファイターズに在籍した(している)2人の選手の成績を比較したいと思います。
西川遥輝選手と中島卓也選手です。両者とも、規定打席に到達したシーズンの成績の合計です。年度別の成績は面倒なので掲載しませんでした。
西川遥輝(2014~2021)
打率.282(3976-1122) 168二塁打52三塁打50本塁打 出塁率.383 長打率.388 OPS.772
中島卓也(2014~2016,2018)
打率.257(1761-452) 38二塁打 9三塁打 1本塁打 出塁率.336 長打率.290 OPS.626
ここからは主観が大いに入った話になります。ご容赦ください。
この2人に共通しているのは俊足の左打者という点です。しかし、打撃成績には大きな差があります。西川選手は、毎年3割前後の打率を残し、ホームランバッターではないものの、外野の頭を越える打球も、ホームランも普通に打てる打者でした。また、脚力や走塁技術に秀でており、三塁打も多い選手でした。
一方の中島選手は、通算安打のおよそ四分の一を内野安打が占める、典型的な「転がして走る」タイプの選手です。中島選手の打球がめったに外野の頭を越さないことも、万が一ホームランでも打とうものなら大事件であることも、ファイターズファンや熱心な野球ファンならご存知のことと思います。要するに非力なんです。

“脚力頼み”の野球


ここで話を「走り打ち」に戻します。新庄監督の発言を額面通りに受け取った場合、彼が五十幡選手や細川凌平選手ら俊足の左打者に求めている打席でのアプローチは、レギュラーを張っていたころの中島選手のような打撃スタイルということになります。三遊間にゴロを打ち、間を抜く、あるいは内野安打を狙うといったスタイルですね(セーフティバントも多用するかもしれませんが)。しかし、その“脚力頼み”のアプローチでは単打しか生まれません。もっと突っ込んで言えば、「良くて単打」です。プロの内野手がそのような打撃スタイルの選手に何本も内野安打を許すでしょうか。それに長打も期待できません。五十幡選手は中島選手とは違い、ボールを強く叩いて遠くに飛ばすことができる選手ですから、そのようなアプローチで試合に出続けた場合でも長打率はもう少し改善されるとは思いますが。こう書くと
「五十幡なら塁に出て走れば良い。そうすれば二塁打と同じ計算だし、振り回して確率を落としたら意味がない。まずはどんな形であれ塁に出ること」
というご指摘が飛んでくるかもしれません。しかし、そうはならないのです。
まず、「単打→盗塁」と「二塁打」は圧倒的に後者の方が望ましいです。盗塁は失敗することもありますし、盗塁を待てば打者は苦しくなります。また、二死一塁で二塁打を打てば1点入る可能性がありますが、そこで単打では二死一、二塁。次打者が凡退すれば無得点です。
次に出塁についてです。「どんな形であれ塁に出ること」というご意見には私も同意します。しかし、いくら五十幡選手と言えど、三遊間にゴロを打っているだけで出塁率が4割になるでしょうか。なるなら是非やって頂きたいです。強い打球を打たなければ出塁率は上がりません(こちらの記事をご参照ください※3)。再三書いていますが、五十幡選手にはパンチ力があります。そしてもちろん人並外れた俊足も。それによって外野への単打は二塁打に、二塁打は三塁打になることが期待されますし、長打が増えれば野手は引いて守らざるを得なくなりますから、当たり損ねの内野ゴロも内野安打になります。これが五十幡選手に期待される理想像ではないでしょうか。もちろんこれは五十幡選手に限った話ではありません。例えば育成の阿部和広選手。彼は身長170cmと小柄ですが50m5秒8の俊足が武器です。すると当然のようにこう言う解説者もいます。
「まずは転がして塁に出ること」
「俊足の選手は転がせば何か起こる」と考える心理はよく理解できるのですが、そのアプローチで果たして結果を残し続けることができるでしょうか。中島選手が良い例だと思います。誤解のないように記しておきますが、中島選手は球界屈指の守備力と高い走塁技術を持つ選手です。打撃成績は良いとは言えませんが、当時のチーム編成では中島選手が打力を求められることもありませんでしたし、総合的に見て一流選手であったことは声高に主張しておきます。

最後に


書いていて打撃の話なのか走塁の話なのか混乱してきましたが、本来切っても切れない関係にあるので致し方ないことかもしれません。
最後になりますが、五十幡選手をはじめとした俊足の選手に「当てろ」「転がせ」と言った指導が行われないこと、新庄監督の「走り打ち」発言はブラフであったことを切に祈って結びとさせていただきます。拙文にお付き合いいただき、ありがとうございました。

注釈


※1日本ハム・新庄監督 元ロッテのキューバ代表・サントスの「走り打ち」に興味「練習させてもいい」(スポニチアネックス) - Yahoo!ニュース
※2ここでは、サントス選手ほど極端ではないにせよ、一塁へ走り出すことを意識するあまり、きちんとスイングしないことを指しています
※3長打力・出塁力上げ得点力アップへ…中日キャンプで練習開始前の朝「和田塾」開講 1歩目は“打球速度の向上”(中日スポーツ) - Yahoo!ニュース







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