CIVILIAN 3rd Full Album Release Tour "WHO LEFT THE DOOR OPEN?"東京キネマ倶楽部 感想
1 はじめに
CIVILIANのライブに行ってきた。
少し自分語りをすると、CIVILIANを知ったのは3年前くらいだったか。サブスクでアルバムを聴いていると、アルバムの曲が全部終わった後も、自動で似たジャンルの曲が再生されるが、そこでLyu:Lyuのメシアが流れた。普通の曲では忌避されそうなほど悲観的な歌詞が、自分には刺さった。そこからLyu:Lyuの曲を漁っていき、やがてCIVILIANと名前を変えて活動していることを知った。
しかし、CIVILIANに改名して以降、その歌詞には以前は見えなかった、生きるために希望を見出そうとする姿勢や、大衆に向けたメッセージなどが散見されるようになってしまったと感じていた。メジャーデビューして、ミュージシャンとして売れ始め、日々に絶望を感じることもなくなり、売れるために希望の詩を書いていくようになったのかな、と考えていた。
しかし、昨年だったか所属していた事務所、レーベルから独立し、3人でやっていくということが発表された。これからCIVILIANはどうなっていくのだろう、解散してしまうのだろうか、などと不安に思っていたところに、declasseが公開された。
初めて聞いた時、おこがましいが、「自分のところに帰ってきてくれた」と感じた。現状への失望・絶望と、そこに希望を見出すでもなく進んでいくしかないという現実の厳しさを、歌った曲だと思う。自分のようなどん底に生きる人間にとっては、下手に希望を歌われるよりも、ただただ現実の厳しさ・暗さを描き出し、それでもなお死なない限りは生きるしかない、というところを歌ってくれた方が響くように思う。
その後、フルアルバムがリリースされることが発表され、それにあたってのインタビューも公開されていた。そこでは、自らの書く歌詞を信じ切れず、自分自身を見失っていたといったことや、このフルアルバムは自分自身を取り戻すために作った、といったことが語られていた。
人気のある邦楽では、「心のドアを開けよう」だとか、「心を開こう」などと言われるが、このフルアルバムのタイトルのように、開けてはいけない心のドアがあり、他人に触れさせてはいけない心の領域があるように思う。社会で生きていく中で、それらを守っていくのは難しいが、そうした「心を開け」などという言葉に、従う必要などないのは事実だと思う。
2 セットリスト
セットリストと銘打ったが、正直何が演奏されたかうろ覚えなので、順番が違っていたり、抜けている曲があるかもしれない。
1 人類教のスゝメ
「2023年7月18日CIVILIANです!」みたいな口上でライブが始まる。正直、この口上の時のワクワク感がたまらない。
後になって調べて分かったが、「人類教」というのは社会学者のコントが妻を亡くした晩年に宗教色を強くして提唱し始めたものらしい。「俺は産まれたいなんてまだ一言も」という部分が好き。産まれてよかったなどと思ったことは一度もないし、今後も思えるとは思えない。口には出せないが。
2 犬になりたい
背景に4頭の犬の画像が映し出され、迫ってくるような演出が印象的だった。
3 イエスタデイワンモア
MVが作成された2曲のうちの1曲。忘れたい過去は忘れることはできず、捨てたい自分も捨てることはできない、ということを歌った曲だと思う。
4 懲役85年
前のフルアルバム「灯命」からの曲。人生を懲役刑に例えるその完成には大いに共感する。人生には苦役しかないが、途中で降りることも難しい。
5 さよなら以外
メロディーが好きな曲。ラブソングなのだろうか。別れを歌った曲であることは間違いない。
6 せめて綺麗に
誰に向けて歌った曲なのだろうか。ただ、普段は調子のいいことを言っておいて、弱気になったら他人に媚びへつらうような人への皮肉には、ドキッとするものがある。
7 わらけてくるわ
アルバムの最初の曲。ライブだと、イントロのベースのメロディーラインが印象的だった。この曲に限らず、低音による空気の振動が、体に直接伝わってきて、客と近い距離で行われるライブの魅力を認識した。「狭い狭い、酸素の薄れた核シェルターの中で!」という言葉は、鬼気迫っていた。その言葉に限らず、光に照らされたような立場から、こちらに色々言ってくる人に対しての批判というか、そういったものが書かれていると感じる。
ここらへんで、MCが入ったような気がする。今回のツアーではMCを入れてライブをすると決めていたといっていた。独立してから今回のライブをするまでにあった出来事を話したいと言っていた気がする。
8 僕だけの真相
音源だと何気なく聞き流していた、「何処に行ったって ここじゃないような気がして それならきっと問題は 自分の中にあるんだ」という歌詞が胸に入ってきた。
9 光
アルバムの中では外に出て、光の当たる場所に行こうとする異質な曲な気がする。ただ、自分も日々の中で日が当たることを夢想しないわけではないので、希望と絶望のバランスはこんなものなのかなとも思う。ただ、この辺は疾走感のある曲が多くて、よかった。
10 残火
灯命の曲は、ほとんどがCIVILIAN比で明るい曲だと思っていたので、改めて聞いてこんなくらい歌だったのかと驚いた。イントロとアウトロのピアノが印象的だった。ライブを見に行ってから、灯命を何度も聞いている。
11 世界の果て
「ここまできた」感が強い曲。「あの日の僕が目の前に現れでもしたら~」のサビ前の部分が好き。昔はもっと自分を許せなかったことを思い出させる。
12 覚えていようと思ったよ
インタビューで、Drumの有田さんが気に入っているといっていた曲。確かに、自分に向けた歌だと考えて聞くと、勇気づけられる。まあ実際は見ていてくれる人も覚えている人もいないのだが。
13 フランケンシュタイナー
この曲の前にMCが入った。メジャーデビュー後、テレビの収録前メイクをされているときに、もっと見た目に気をつけろと言われたことを機に作った曲らしい。社会に適合するためには変わっていかなければいけないが、変わっていくたびに自分はいびつになっていき、次第に自分が何者なのかわからなくなってくる…みたいな曲だと思う。
14 完璧な人間
アルバムで好きな曲3つの中に入る。背景は、暗い建物の中のようになっていた。ピアノ伴奏から始まり、徐々に盛り上がっていく構成。「傷つけば傷つくほどやさしくなれるというのなら 今頃みんな手をつないで笑ってなきゃおかしいだろ」という歌詞が特に好き。中学校の時、合唱コンで歌わされた曲の「悲しみ知った分優しくなれることを」みたいな歌詞が、嫌いだった自分は、援護射撃を受けたような気分でうれしかった。人生の苦しみを経て優しくなるような人間は、社会で生き残っていけないように思う。また、苦しみを肯定しているようで、「若いうちの苦労は買ってでもしろ」というこれまた嫌いな言葉に通じているようにも思う。くだらない道徳だな、と改めて思った。
15 declasse
「2023年7月18日CIVILIANでした!本当に幸せでした!」という言葉の後、ピアノを皮切りにこの曲が始まる。もう、この曲を生で聞くためにこのライブに行ったといっても過言ではないだろう。タイトルは、「落伍者」と訳すのが自分は好きだが、何が正解なのだろうか。「もう何もかもすべて 嫌気がさしてしまった」という衝撃的な歌詞から始まり、現実の絶望感を描きながらも、サビではそうした中でも進んでいく気力を、強い言葉によって生み出している。サビで一気に入ってくる楽器もそれを強調している。視覚的な演出はというと、光と煙?で全く見えなかった。そういう演出だが、そこがこの曲の持つエネルギーの大きさを表しているようでよかった。最後の「刺せ」もすごい迫力だった。
16 遠征録
メンバーがはけた後、海中の映像が映し出され、あらかじめ録音された朗読が始まる。その後、メンバーが再度登場し、曲終盤にかけてのバンドサウンドを奏でていた。そして、ライブは終演となった。
3 おわりに
小さいキャパシティならではの音圧と、迫力ある歌声が相まって、終始演奏に圧倒された。公演前に、映像作品化が発表されたが、ライブでしか味わえない迫力とそこから生まれる感情があるように思う。今後も活動を続けていってほしいと改めて思った。