アンコール 6 「魅力的」
店主は何も答えず、かわりに彼女がカウンターまでやって来ると、自分を貶した客だと言うのに頬に軽いキスを贈り、気をつけて帰って下さいね、と微笑んだ。
客は、ポリポリとこめかみ辺りを指先で掻きながら、バツが悪そうな空気を蹴破るかのように、財布から札を数枚取り出すと彼女の着ているワンピースの胸元に捩じ込んで、そそくさと出て行った。
「悔しくないのか?」
「悔しくないよ。あたしは美人じゃないしね」
だからこそ、囃し立てられたりからかわれたりして、演奏の途中で媚を売る必要がない。
邪魔が入らないのだから、それらは全て良いことなのだと言ってニコニコと笑う。
ー そして、僕の隣の席に座り、勝手に酒を飲み始め、それを僕も拒否しなかった。
「この子は、もらったの。あたしのお祖母ちゃんは、モンゴルのひと」
「どうして、ここで演奏しているんだい?」
「したいから」
「そう…なんだ。何故、演奏や歌を?」
「練習したからに決まってるでしょ」
長い艶のある黒髪を後頭部の真ん中で結っていて、化粧っ気もなく、服装は白い半そでのロングワンピースを着用していた。
飾りっ気がなくて、とても地味に見えたけれど、くっきりとした顔立ちをしていて、奥二重の小さめな鋭い瞳は目尻が上がっている。
黒目がちで、長い睫毛が頬に影を落とす様は、エキゾチックで魅力的だと感じた。