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アンコール 13 「新しい服」
シロは21歳だと言う。
バイトをしていない期間は、時々あのバーへ行き、夜に演奏して歌を歌って過ごしているのだそうだ。
僕が仕事に行っている間、彼女は一体何をしているのだろう。
聞いてみたいような気もしたけれど、聞いてはいけないような気もした。
がっかりしたり、ショックを受けたりするのが嫌だっただけなのかもしれない。
きっと一日中、馬頭琴を弾いて歌を歌っていることだろう。
そう思うことにしていた。
会社から帰宅して、部屋にシロがいない時にはあのバーへ向かう。
そこには必ず彼女がいる。
白い半袖のワンピース姿ではなくて、大きなTシャツ一枚だけの日もあった。
僕の服を勝手に拝借して、唯一の自分の一張羅は大切に洗濯中と言うわけだ。
いつの間にか、あの刺繍されている花の名前がわかったならば、同じワンピースを購入してプレゼントしてやりたいと思う自分がいる。
しかし、わからなかったので、仕方なしに、女性の好みの服装などわからないなりに、似たような服を通販で探しては、下着や歯ブラシ、シャンプーやリンスなど、生活必需品と共にシロに買い与えていた。
彼女はそのたびに、そっけなく「いいのに」と、一言いうだけで、表情も変えない。
けれど、受け取らないと言うこともなく、服ならばさっそく着ていたものを脱ぎ払い、新しいものに袖を通しては、その夜必ずあのバーへ演奏をしに行った。