アンコール21 「会いたい」
ああ、僕は彼女に、シロに愛されていたのか。
馬頭琴と言う楽器は、なんて切なく繊細な音を作り出すのだろう。
この曲は何と言う曲名なのだろう。
旋律は、どのようにして覚えるものなのだろう。
歌声が語っているのは、一体誰が、何が、どこで、どうして、どんな気持ちと、どんな出来事で、…
教えてくれよ、シロ。
ネットで飛行機の予約をとると、旅支度をして、忘れないように馬頭琴の入っているケースを大きなボストンバッグにくくりつけた。
きっと寒いだろうと、二人分のセーターやニット、コートにダウン、彼女のお気に入りだったストールも詰め込んだ。
調べてみると、モンゴルの冬はマイナス30℃もあり得ると言う記事が目に入った為だ。
動画の中のシロが歌を終えると、滞在予定である土地名と、ホテルの住所と思わしきもの、そして電話番号だと思わしき数字を告げた。
モンゴルの首都である都市だったので、たどり着けないと言うことはさすがにないはずだ、と自分を勇気づける。
彼女は、来て、とは言わなかった。
けれど、僕は行く。
それ以外の選択肢はなかった。
胸がひどく熱くて、シロの白い半袖のワンピース姿が頭に浮かぶ。
彼女の胸元に咲いていた、紫色の花の刺繍は、モンゴルの国花なのだと先ほど知った。
花言葉は悲しいものばかりだったので、覚えることをやめた。
でも、それがシロの言葉だったのだ。
シロの言葉がわかる、それが僕、ハイリブだ。
「恵まれぬ恋」「不幸な恋」「私は全てを失った」「未亡人」「喪失」「哀しみの花嫁」「失恋の痛手」「不幸な愛情」「悲哀の心」
飛行機の出発時間まで眠れそうにはなかったけれど、空港へ向かう電車はもう動いてはいない。
乗り換えをする場所、地域、その土地の挨拶や必要な台詞など、メモをしておこうと、パソコンの前に戻り、キーボードとマウスを操作する。