アンコール 10 「不思議ちゃん」
そうして、僕が独り暮らしをしている狭いアパートに辿り着くと、休日なのだからとはしゃぎ、持っていたコンビニ袋から焼酎のボトルを3本も取り出した。
簡素なシングルベッドに、一人用のテーブル、カーペットだけはかろうじて敷いてはあったけれど、テレビもゲームも音楽を聴くような機器もない。
仕事関係の資格を取る為の本やノートを片付けて、テーブルの上に大きさの違うグラスを二つ並べた。
パソコンはあったけれど、シロは興味がないようで、ゆっくりとした動きで、どこぞの国の舞踊を舞うようにゆらゆら、ピタ、っと、自分の鼻唄に合わせ、立ったままでグラスを並々と酒で満たした。
「それ、なにしてるんだ?」
「感謝のダンス」
「ふうん。シロは、変なやつだな」
「面白いこと、いっぱいしましょ、ハイリブ。例えば貴方はあたしの言葉がわかるようになるわ」
「…モンゴルの歌のこと?1日じゃ、無理だよ」
「そうね。全部。それも。これも。さあ、ね、乾杯するわよ!」
すでに強かに酔ってはいたけれど、ここは自分のアパートだし、眠気にやられてしまったとしても直ぐ様眠ることが出来る。
具合が悪くなってもトイレでリバース出来るし、酔いをさましたいと考えたならばシャワーも風呂もある。
まるでシロも自宅のように寛いで、好きなだけ焼酎を氷も入れないままゴクゴクと飲んでいた。
そう言えばこの部屋に女性が居る、と言うのははじめてのことだな、と思うと、何事も起こるわけなどないとわかっているのに、テンションが上がってしまう。
例え相手が多少不思議ちゃんで、他人の部屋でも平気で踊り、歌を歌いながら焼酎の瓶を振り回し、そのうち吐くかもしれない、とは思えても。
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