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アンコール 3 「歌姫」

 そう、彼女は楽器を奏でて歌を歌う、そんな女性だった。
 自分とは正反対で、勉強なんてしたことがない、学校も嫌いだった、と言って笑う。

 中卒で、就職に役立つような資格も特に持ってはおらず、何たって、そもそもその気が微塵もないのだと言うことは雰囲気から伝わって来た。

 会社に勤められるような履歴書を書くことも出来ず、ボロアパートに住んでおり、この令和の時代にもまだ雨漏りをする天井が存在しているのだと、すごいことよね、と面白そうに僕に話して聞かせた。

 「嫌じゃないの?もっと、良い部屋に住みたいとは考えないのかい?」
 「風情があって素敵、ってことにしているの」
 「大家さんや管理会社の人は、何故直さないんだろう」
 「事故物件で、修理や整備の人が入ると仕事中に怪我をするから。家賃、1万円なの。いいでしょ?」
 「…何か、出るのか?幽霊や、妖怪が」
 「よくわからない。あたし、シャーマンじゃないし。でも、1DKで1万円は破格よ」

 なんにも、どんなことに対しても、抜けているのかズレているのか、動じないし怖くもないし、気にしないらしい。

 そんな彼女は、ラーメン屋のアルバイトと、友人の子供のお守りをして小遣いをもらい、月に5万円~8万円あればじゅうぶん生活していけるのだと言って、僕が卸したウィスキーのボトルをつかむと、勝手に自分のグラスに酒を注いで飲み干した。


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