アンコール 11 「添い寝」
焼酎の瓶は結局2本をシロが飲み尽くし、自分は1本が限界だった。
舌がまわらないのか、馬頭琴で奏でられていたモンゴルの歌を歌うのをやめると、シロは最近巷で良く聴くような歌を歌い出した。
バラードばかりで、思わず哀しくなるような選曲を好んで歌っている。
物静かな掠れ声で紡がれるそれらは、時折歌詞を聴き取ることが出来ないほどの囁きだ。
「明るい歌は、嫌いなのか?」
「違うわ、近所に配慮しているの」
「だったら、さっきまでのはしゃぎようの方が煩かったと思うけど」
「テンションよ、テンション。ほら、雨音に合うでしょう、こんな歌たちは」
「…雨、降り始めたのか」
「…眠い。寝ましょう、ハイリブ」
「悪いんだけど、客用の布団がないんだ」
「いいわ。一緒に寝ましょう」
大きなあくびをすると、シロは僕に断りもなく、勝手にベッドに潜り込む。
なんだか注意をするのも、シャワーも歯磨きも面倒で、僕の方もスーツとスラックスだけ脱ぐと、彼女の横に転がる。
1枚の羽毛布団を、バサリと二人を覆うようにして整えてやると、シロは自分を抱きしめるようにまるくなって、寒い寒いと言って笑った。
そりゃあ、秋口の雨の降る日に、そんな薄手のワンピース一枚では寒いだろうに。
シングルベッドで、はじめて女性とベッタリとくっついて寝たと言うのに何事も起こらず、僕の方からも手を繋ぐことすらもなかった。
だって、シロは野良蛇、らしいのだ。
噛まれてしまったあとで、毒が身体に回り、大怪我を負っては大変じゃないか。
本当は、僅かに希望も持っていたけれど、下着の透けている魅力的だと思える女性と添い寝をしていても、僕の下半身は反応をする兆しすらなかった。
その事実に打ちのめされていたら、壁の方を向いて横たわっていたシロが、コロンとこちらに向き合うように半転した。
「…起きてたのか?」
「起きてないわ。…大丈夫、あたしはハイリブを責めたりしないわ」
それだけ言うと、イビキをかきだす。
これがまたひどいイビキで、僕の方はなかなか寝付くことが出来なかった。
笑いを堪えて、涙まで出てきて、目が冴えてしまった。