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ヒナドレミのコーヒーブレイク     一杯のオムライス

 今日は、私の26回目の誕生日。一人暮らしを始めて3年、今更 家族も祝ってはくれないし、一緒に誕生日を祝ってくれそうな友人や彼氏はいない。だから今日は、一人でケーキを買って来て食べることにする。
 たった一人の親友の朝香(ともか)なんて誕生日にイケメンの彼氏に高級ホテルでディナーをご馳走になるというのに、何という差だろうか。
 朝香にその話を聞いた時、ちょっぴり羨ましかったが 素直に喜ばしかった。(どうして私とこうも違うの!?)という思いがなかったと言えば、嘘になるが。
 少しでも『ステキ』と思えることがあれば、それで良かった。
 この時期、寒くて外出するのも億劫だが、家にいてはステキな誕生日は期待出来ないかも…と思った私は、沢山 着込んで、街へと繰り出した。
 そして私は、徒歩で最寄り駅へと向かった。時計を見ると正午を少し過ぎたところだった。時間はたっぷりある。さて、何処へ行こう?

 私はちょうど来た電車に乗り、イヤホンでスマホの音楽を聴きながら目を閉じた。そして何分か後に目を開け、次に止まった駅で降りた。
 初めて降りる駅だった。私は駅前の道を 適当に西へ向かって歩いていく。歩きながら、昼食がまだだったことに気づいた私は、ランチをとるための店を探した。
 しばらく歩くと、一軒の小さな喫茶店があった。その店は、正に昔ながらの『喫茶店』という感じがしていて、私はそこに入った。
 ここはどうやら夫婦だけでやっているような店で、母親と同年代らしい店員が水とおしぼりを持って来た。「いらっしゃい」人懐っこい笑顔でそう言った。私はオムライスをオーダーした。初めて来たのに、どこか懐かしい感じのする店だった。
 運ばれて来たオムライスを一口食べた私は、その味の優しさと温かさと懐かしさに感動すら覚えた。思わず「美味しい!!」と声に出したのが、店員に聞こえてしまったようで「あら、良かったわ。ここは初めて?」と先程のお母さんが聞いてきた。「はい、何だか母の手料理を食べているように、懐かしくて温かくて優しい味です。もちろん、こちらの方が何倍も美味しいですけど」と言った。
 そして私は言った。「このお店、初めて来たのに、何だかとっても懐かしくて、まるで実家に帰ってきたみたいです」と。するとお母さんは、言った。「いつでも帰って来ていいのよ、あなたの家だと思って」私は『もう一人のお母さん』にも、心温まるオムライスにも出会えて(今日はなんてステキな日になったのだろう)と思わずにはいられなかった。                       
                                 完

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