ヒナドレミのコーヒーブレイク 孤独
小学校の校庭の片隅の 草むらの上、そこがボクの指定席だった。他の生徒たちが 元気よく遊ぶのを そこから見ているのが好きだった。雨の日は、教室の後ろの隅で 借りて来た猫のように 体育座りをして、他の生徒たちを見ていた。そんなボクに、声を掛けてくる生徒はいなかった。ボクは とても孤独な子どもだった。
家では、共働きで 一人っ子のボクは、鍵っ子だった。だから 自分で鍵を開けて、暗い家へと入っていくのが常だった、長年の生活臭が染み付いた、狭い家へ。両親のどちらかが休みで家にいる時でも、ボクは自分の部屋に引きこもって 戦隊ヒーローのプラモデルを組み立てて遊んでいた。「一緒に遊ぼう」とボクを誘ってくる子もいなければ、友達と呼べるような子も、もちろん いなかった。
性格が極端に悪いわけでもないのに、何故 友達がいないのだろうか?と 子どもながらに考えてみたことがある。もしかしたら、知らないうちに『ボクに近づくなオーラ』を出していたのかもしれない、というのが ボクの出した結論だった。
(ペットを飼えば、少しは寂しさが紛れるのでは・・・)と思い、両親に「ペットを飼いたい」と言ったことがある。だが「ペットのお世話を一人で出来るのなら 飼ってもいいけど、あなたには まだ 生き物のお世話はムリでしょ」と言われた。悔しいけど、当たっていた。
それからのボクは(友達は、人形やぬいぐるみしかいない)と思うようになった。両親に話すと、それならと了承してくれた。ボクは人形選びに 長い時間をかけた。そしてボクは、数ある人形やぬいぐるみの中から 目のクリッとしたフランス人形に決めた。子どものオモチャにしては かなり値の張るものだったが、オモチャを あまりねだらない子だったこともあり、すんなり買ってもらえた。
ボクは、その人形にシスターの『シス』という名前をつけ、兄妹のように接した。だから、寂しさや孤独を感じることはなくなった。ある時は優しく そしてある時は厳しく、ボクは妹を褒め、叱った。我が妹のシスは、兄の言うことを聞く 良い子だった。この頃のボクは、親以外にはシスとしか口を利かない子になっていた。
ある時、転入生がやってきた。目のクリッとした可愛い女の子だった。ボクは 一目見て その子が気に入った。(絶対 この子と友達になるぞ)そう思う一方で、(でもボクにはシスがいるし)とも思った。だが(シスは妹だし彼女は友達だからいいよね)と自分に言い聞かせ、勇気を出して 彼女に声を掛けた。「ボクと友達になって」
もしボクが、その瞬間のシスの顔を見ていたら、彼女に声を掛けたことを後悔していたに違いない。
完