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2024年ベストアルバム

僕はこれまでただぼんやりと自分が好きな音楽を聴いてるだけで、特に深堀りすることもなく、作品やアーティストの詳細な知識を得ないまま過ごしてきました。
一方でSNS上には幅広い見識と巧みな言葉遣いで音楽を評価している方々が多くいらっしゃいます。
そうした方々の深い見識に触れ、僕も好きな作品にもっと向き合い、その感想を文章で残したいと思い、筆を取ってみました。
なのでこの記事は言葉の力をつけるための練習といった意味合いが強く、多くの知見があり有益な情報を求めている方にとっては読む価値のない記事だと思います。
それでも読んで頂ける方がいらっしゃいましたらお読みいただければ幸いです。
ただ何分知識が浅く、いくつかのアーティストは今年初めて知ったばかりのにわかな批評ですので誤りがあればむしろ指摘していただければありがたいです。

以下に僕が書きたいと思ってなんとか感想を書くことができた作品を10作品挙げました。順位付けする気はなかったのですが、下に行くほど文章の熱量が強いので結果的にお気に入りの順になってます。

claire rousay / sentiment

アルバムジャケット写真

アンビエントや実験音楽といえば、敷居が高く、とっつきにくいジャンルというイメージがありました。しかし、自宅で音楽を聴きながら過ごす時間が増えたことで、むしろこれらのジャンルを好むようになりました。そんな中で出会ったclaire rousayの本作は、とても聴きやすく、僕がこのジャンルに深く興味を持つきっかけを与えてくれた一枚です。

1曲目のノイズ混じりの語りから始まり、続く2曲目「head」では、静かにゆっくりと加速していく音の高揚感に引き込まれ、一息で彼女の世界に没入してしまいました。歪んだギターとアンビエントの音の重なり合いは、どこか遠い過去を思い出させるような感覚を呼び覚まします。

それはまるで映画『アフター・サン』で描かれた、靄のかかった感傷的な光景を失われかけた記憶の中から掘り起こすような感覚に近いものを感じます。加えて、アルバムジャケットに映る彼女の瞳も非常に印象的で、くっきりとした彼女の容姿とは裏腹に、曖昧でとらえどころのない音像が一層ミステリアスな魅力を引き立てています。そのため、何度も確かめる様についつい繰り返し聴いてしまうのです。

さらに、実際に観た彼女のライブでは、この作品の世界観を五感で浴びるような体験ができ、感動を新たにしました。本作は、ジャンルの垣根を越え、幅広いリスナーを魅了する可能性を秘めた一枚だと感じています。


折坂悠太 / 呪文

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折坂悠太を初めて聴いたとき、情緒深く奥ゆかしい良い声の持ち主だな、とまずはそこに興味を抱きました。彼が紡ぎ出す古風で日本らしい旋律と、モダンで異国的なリズムが見事に調和する楽曲には、これまで聴いたことがないような、それでいてどこか懐かしい、不思議な空気感があります。「兎に角すごい才能の持ち主だ」と思わされたのが、過去作を聴いたときの感想でした。

そんな彼に対して、「孤高の天才」というイメージを抱いていた僕ですが、今作『呪文』ではそれが少し変わりました。この作品には、彼自身の肩の力が抜けたような、本来の人間らしさが垣間見える気がするのです。歌詞から滲み出る生活感や、歌や演奏のちょっとした間(ま)や隙が、そうした印象を与えてくれているのかもしれません。

特に心に残ったのが「信濃路」です。この曲は、ギターの音色が生み出す時の流れ、パーカッションの水音のような軽やかな足取り、そして効果的に使われた環境音が織り成す広がりによって、深い奥行きを感じさせてくれます。聴いていると、まるで折坂悠太が眺める風景を、隣に立ちながら一緒に見ているような気持ちになります。心穏やかになれる、そんな特別な一曲です。


Pearl Jam / Dark Matter

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これまで深く聴く機会がなかったパール・ジャム。しかし今年、様々な新譜を追いかける中で起こったこの作品との邂逅はまさに「晴天の霹靂」でした。そこには旬やトレンドといったものとは一切無縁の、真っ直ぐで力強いオルタナティブサウンドがただ存在していたからです。

炸裂するギターの音は乾いた心を癒やし、うねるベースは体の芯まで響き渡り、ドラムは力強く胸を打つ。そして何より、エディ・ヴェダーの深く熟成された歌声が素晴らしい。その全てが、まさに今の自分に必要な音だと感じました。

このアルバムの楽曲群も圧倒的です。1曲目や表題曲に見られる贅肉のないタイトでヘヴィなサウンド、バラードでは深い味わいが漂い、全編を通して感じられるのは、カリフォルニアのビーチを思わせる雄大で爽やかな雰囲気。どの楽曲も見事に耳を捉え、聴くたびに引き込まれてしまいます。

また、熟練のバンドでありながら、このアルバム全体にポジティブで若々しいエネルギーが満ちているのも印象的です。それは、若く才能あふれるプロデューサーAndrew Wattの手腕によるところも大きいのかもしれません。

昨年のストーンズやBlur、今年のCureの新作など、僕の中で「帰還」という言葉がここ数年のテーマになっていましたが、このアルバムもまたその象徴の一つ。陰ることのない前向きなエネルギーに満ちた傑作だと思います。

特に印象的なのが、アルバムのラストを飾る「Setting Sun」です。この曲がもたらす多幸感は極上で、何度も繰り返し聴きたくなるほど大好きな1曲となりました。


Michael Kiwanuka / Small Changes

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僕はこれまで、好きなジャンル周辺だけの音楽を聴いてきたので、ブラックミュージックには疎く、あまり手を伸ばすこともありませんでした。しかし、ふとした興味で手に取ったMichael Kiwanukaのこの作品には、一発でノックアウトされました。そこには、「聴いたことがあるようで、実は全く新しい」世界が広がっていたからです。

ピンク・フロイドを彷彿とさせる妖艶なアンサンブル、そしてそれを包み込む色気溢れる歌声。その音楽には、ざらついて寂れたようなサウンドがあるにも関わらず、まるで宮殿でまどろむような贅沢さが漂っています。深みのあるベースが生み出すグルーヴは、さらに妖しい世界へと引き込む力を持っており、その魅力に抗うことができませんでした。

これまで少ないながらもいくつかソウルの名盤を聴いてきましたが、ここまで自分にぴったりハマった作品は初めてです。それに気づけなかったのは、自分の見識が狭かったからに他なりません。しかし、この作品と出会えたおかげで、ソウルに対する苦手意識がすっかり払拭されました。音楽の新しい扉を開いてくれたこのアルバムに感謝です。


Bleachers / Bleachers

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2024年のサマーソニックで、僕にとってのベストアクトはこの人でした。これまで観たライブの中でも屈指の面白さで、本人が心から楽しんでいる様子が伝わってきたのも、とても印象的でした。その最高のライブ体験もあって、この作品をさらに思い出深いアルバムへと引き上げてくれました。

もちろん、ライブだけでなくアルバムそのものも素晴らしい出来栄えです。ブルース・スプリングスティーンを彷彿とさせる「Modern Girl」のようなアップテンポの曲も魅力的ですが、「Me Before You」や「Isimo」のようなスローな曲で見せるアンバーな雰囲気が特に心地よいです。気だるいサックスや煌めくシンセサウンドが描き出す光景は、まるでフィルム焼けした青春時代の古写真を眺めているような気分にさせてくれます。

この作品は80年代のソフィスティポップを思わせる質感を持ちながらも、より洗練された「今」のサウンドに仕上がっているのが特徴的です。懐かしいけれど古臭さを感じさせない絶妙な空気感を作り出せるのは、彼の卓越した技術とセンスによるものでしょう。また、職人気質な音作りの中にも全体を包み込むような暖かいムードがあり、それが彼自身の人柄の良さを感じさせます。ジャケット写真のチャーミングな笑顔も、そんな彼の魅力をさらに引き立てていると思います。


Taylor Swift / THE TORTURED POETS DEPARTMENT: THE ANTHOLOGY

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今年開催されたEras Tour東京ドーム公演は、僕にとって一生忘れられない貴重な体験でした。見切り席だったものの、あの特別な場にいられたこと自体が大変な幸運だと思っています。そんな興奮冷めやらぬ中、この作品が公開されました。それもなんと2バージョンという豪華さ。正直に言うとちょっと多いなとも思ってしまいましたが、今はこの作品と過ごす長い時間が大好きです。

今作もここ数年続いているジャック・アントノフとの共作によるシンセ・ポップが中心で、ファンの熱狂とは裏腹に、一部では新鮮味に欠けるとの評価も見られます。確かに、さらっと聴いた印象では前作と似た部分が多く、新しさを感じにくいかもしれません。しかし、Florence + The Machineとの共演で見せた新たな一面や、Aaron Dessnerプロデュースによる「So High School」でのインディー・ロック的な爽快感など、興味深い試みも随所に光っています。そのため、過去作と合わせてついつい何度も聴き返してしまうのです。

などとあれこれ理屈をこねてしまいましたが、結局のところは単純に彼女の人間的な魅力も含めてファンだから聴いているというのが今作を好きな最大の理由です。そして、彼女の次回作がどのようなものになっても、きっと僕はそれを愛聴することでしょう。


Vampire Weekend / Only God Was Above Us

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Vampire Weekendはこれまで嗜む程度であまり深く聴いたことはありませんでした。しかし、弾む様な煌めきのあるデビュー作や3rdアルバムの美しくスケールアップしたサウンドには何度か心を奪われたこともあり、ファンとまではいかずとも常に気になる存在ではありました。そして、この5作目は僕にとってまさに衝撃的な作品でした。

長いロックの歴史の中で、ロックが「死んだ」り「生き返った」りする瞬間に何度か立ち会ったように感じたことがありますが、このアルバムはまさにその「復活」の瞬間を見せつけられたような感動を覚えました。僕の浅い知見ではありますが、2010年代はロックバンドにとって不遇の時代だったように思います。万人に愛されるロックアルバムは極めて少なく、特に彼らの3rd以降、その傾向が強まったように感じていました。

しかし、20年代の幕開けとともに訪れたコロナ禍という特殊な時代背景、音楽界に漂う内向的なムード、ポップアイコンたちによるインディーロックの再評価——こうした要素が交錯し、ロックサウンド回帰の兆しが見え始めた今のタイミング。まさにその時代の要請に応えるかのように、このアルバムが世に放たれました。Vampire Weekendが作り上げた今作は、ロックバンドが再び輝きを放つ未来への扉を開いたような、神がかり的なタイミングの一枚だと思います。

このアルバムの素晴らしさについては語り尽くすことができませんが、それ以上に感謝の念を伝えたい作品です。これからのロックシーンのさらなる盛り上がりを先導してくれる存在として、彼らの次回作にも大きな期待を寄せています。そして、これからも彼らの音楽を全力で応援していきたいと思います。


Cassandra Jenkins / My Light, My Destroyer

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前作 An Overview on Phenomenal Nature が見せてくれた圧倒的な美しさには驚かされましたが、今作では少しスケール感を抑えた表現が、人間らしい温もりを感じさせてくれます。前作が自然の壮大さを称えるような印象の作品だったとすれば、今作は自己の内面や感情にフォーカスし、そこから世界と繋がるような作品だと感じました。前作ではアンビエント色の強い管弦楽器の音が多く超然的だったのに対し、今作では人の声や生活音などのより身近で親しみやすい音が増えたためにそう感じるのかもしれません。

今作では、ファジーなギターが響くオルタナティブな楽曲、スペーシーなシンセを活かしたドリーム・ポップ、ハートランド・ロック、アンビエント・フォークなど、多彩なジャンルの楽曲が次々と顔を覗かせます。しかし、それらが不思議とバラバラな印象を与えることなく、一つの物語のようにまとまっているのがこの作品の魅力です。全篇に散りばめられた環境音やボイスメッセージが、まるでリスナーを物語の中に誘うようで、作品への没入感をさらに深めてくれます。

この多様な音楽要素が途切れなく繋がり合いながら、リスナーを優しく包み込むような心地よさを生み出している。Cassandra Jenkinsの音楽が持つその独特の魅力が、今作でもしっかりと息づいているのを感じます。前作からより親密で、具体的な世界を描いたこのアルバムは、聴けば聴くほど新たな発見があり、深い余韻を残してくれる一枚です。


Hovvdy / Hovvdy

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これまでの作品の中で最もポップで、多面的な魅力を持った作品。セルフタイトルであり、彼らのキャリア最大の曲数を収録している点からも、これが自信作であることがひしひしと伝わってきます。穏やかで優しく、少し寂しげなイントロから始まり続く「Bobba」と、静かにスタートするこのアルバム。しかし、3曲目の「Jean」で明るく弾むようなビートが流れた瞬間、この作品が自分の生涯の愛聴盤になることを確信しました。

これまでの作品で聴かせてくれたスロウコア的な静謐さ、フォークやアメリカーナに根ざした親しみやすいメロディー、優しい電子音との組み合わせ。それらの要素がバラエティ豊かに詰め込まれ、これまでの彼らの集大成とも言える一枚になっています。歌詞は内向的なものが多く、伴奏も物憂げで感傷的なトーンを持つ場面が随所に見られますが、その一方で全体を包み込むような優しさがあり、まるで大切な宝物をそっと手渡されるような尊さが心に残ります。

中でも特に印象的なのは「Meant」。この曲の「僕がいてほしい時に君はそばにいてくれた。それがどんなに意味のあることだったか、君に知ってほしかったんだ」というラインは、心の最も深い部分に鋭く響きました。この一節には、大切な人を思うすべての人が抱える、言葉にしにくい感情が詰まっていると感じます。その人間味溢れる描写と、包み込むような音楽の優しさに、思わず胸が熱くなり、この曲は未来永劫自分のお気に入りのひとつになるだろうと思いました。


Fontaines D.C. / Romance

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僕がFontaines D.C.を知ったのは、2nd収録の「I Don’t Belong」を聴いたことがきっかけでした。初めて聴いた瞬間、ボーカルのGrianの声に引き込まれ、瞬く間にファンになりました。もともと、Joy DivisionやThe Nationalなど、憂いを帯びた暗く深みのあるボーカルが好きで、そうした声を持つ若いバンドを探し続けていた自分にとって、彼らとの出会いは必然だったのだと思います。2ndの熟成されたウィスキーのような渋さも素晴らしく、次作の3rdで見せたキャッチーでありながらも深い楽曲に心を奪われ、さらに多くの期待を寄せていました。

そして今年、「Starburster」を聴いたときの感動は言葉に尽くせません。まさに「ロックの救世主」という言葉がぴったりの一枚で、思わず興奮し何度も何度も繰り返し聴きました。その熱量のまま迎えた新作の公開日。もうその時の感動は涙が出そうになるほどで、この作品が持つスケール感、重厚さ、そしてその先に広がる拡張性に完全に魅了されました。ビジュアルや演出も含めて、「格好いい」とはこういうことだと思わされました。

勢いのある若いバンドは数多くあれど、僕は彼らこそが本当のロックの救世主だと心から思っています。彼らにしかない独自の魅力が、このアルバムには満ち溢れており、聴けばその素晴らしさがすぐに伝わることでしょう。これこそがまさに、音楽で新しい時代を切り開く力を持ったバンドの作品だと感じました。


おわりに

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。最初にもお伝えした通り、この活動の一つの目的は自分の言語能力を向上させることでした。2024年の年始にその決意を固め、リアルタイムで新譜を追いかけ続けてきましたが、予想以上に多くの音楽と出会うことができ、自分が聴いていたものの範囲の狭さに対して恥ずかしさを感じた一年でもありました。
正直なところ、今の自分の表現力では伝えきれない素晴らしい作品がたくさんあり、その全てを言葉にすることができないのが残念です。
記事として公開するにあたり、半端なものではいけないと思い、心から聴き込んで取り組んだことが時間はかかりますがとても楽しかったので、今後もまた何かこうした形で記事を書き続けていきたいと思います。

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