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掌編ファンタジー小説「異世界伝聞録」その9

ただ一歩を歩む。

恐れもある。

迷いもある。

逡巡する後悔は数知れず。

歩に乗る重みに大地が返す力強さ。

神官戦士のファラとのパーティで大迷宮に潜った僕は、深淵の生み出す″獅子蟻″との戦いで運悪く、迷宮の崩落「迷震(カタクリズム)」に飲まれ、暗闇の中はぐれたファラを探していた。

……グァルル……。

(ファラ……無事で居てね……。)

獣の獰猛な呼吸と、虫の冷徹な足音が、迷路にこだまする。僕は背筋を伝う汗に尽きる命運を幻視したが、ファラの手を取り迷宮を出るまでは死ぬわけにはいかなかった。

……怖い。命が臆する心音は乱れ、それを宥めるように僕は息を整えた。

「ファラ……。君はきっと、こんな窮地もへいちゃらなんだろうね。僕は少し心細いかな? ……酒場でパーティを組んだ時は、華奢な女の子と二人で良いカッコしようと思ってたけど……。このザマさ。」

獅子蟻なんていない。
アレはただの幻想だ。
絶望を呼ぶ幻影で、実態のない夢幻の産物だ。

それでも。

今の僕が、超えるべき試練のひとつには違いない。

″獅子勇ましく、その佇まいは草原の覇者の如く。″

″蟻は塚を建て、その栄枯盛衰、見事なり。″

″しかして、その二つ。交わることあらず。″

″それを成し得るのは人界の御技なり。″

″かの錬金術は獅子と蟻の誤りを架空の元素に仮定した。″

″獅子は力の象徴であり、蟻は構造の妙である。″

″人界の理に還り、あるべき形を見せよ。″

……カランッ。

僕が詩を歌うと獅子蟻からの霊素の暴走は整列し。魔石はあるべき形として成った。

途端。迷路に篝火が灯り、人の足音が駆け寄る。

「大…じょうぶ?」

ファラだ!

「ファラ! やったよ! 悪魔化した幻獣を還してあげられた! 夢に戻れたんだ!」

ファラが駆け寄り僕を抱きしめてくれる。
お日様の匂いがした。

「……! ……!」

ファラは僕の身体中をぺたぺた確認して、怪我が無いことを確かめると、ぺたんと座り込んだ。

……しばらくしたあと。

大迷宮の上層、冒険者が集まる安全地帯で、僕らは肩を寄せ合い座り込んだ。

「大変だったね……。でも、成果もあった。虫の理が少し解明できたのと、獅子の霊の星(レグルスとデネボラ)の加護を少し得た。獅子の幻を呼べるようになったよ。」

「……♪」

大迷宮をでたら魔石をギルドに預けて、迷宮探索の情報を更新しなきゃ。

ーーー異世界伝聞録。
   冒険者の日常〜迷宮探索編〜


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