掌編ファンタジー小説シリーズ「異世界伝聞録」
あぁ、まただ。また、失敗した。
伝承の魔法には程遠い。
夢を追う同門の魔法使いは、
みんな学士にもなっていった。
子供の頃に、先生が見せてくれた魔法は、仮死状態の鳥を蘇生させた。
焚き火の灰から地下通路の地図も描いた。
皮の鞘から抜いたとたんには短剣に炎が纏い、
燃える弾を操っては猛獣を撃退した。
ロープの結び目で仲間を集め、
酒場では手を叩いただけで詩人に花を持たせた。
町娘にもらったオレンジで甘い調味料も作った。
それらを寒地へ向かう商人に幾つか売り、珍しい本を買っては、その意味を教えてくれた。
「さすがに知識の源泉を知るにはお前にはまだ早いよ。」
先生はいつもそう言って不貞腐れた弟子の僕に、スープとパン、たまに粥を、酒場では串焼き肉をご馳走してくれた。
“篝火の探検家(firebrand explorer)“
彼の冒険者としての知名度は、銀等級でも五指には入る。
膂力があるわけではない。
優れた武器は己が機転と見識のみ。
遺跡に住み着いた深淵の群れとの戦いでは、
炎の精霊に“火鼠の皮衣(サラマンダーの皮)“を捧げて祈祷もしていた。
精霊境の自然術師(エルフのドルイド)の美人さんに、注意を受けてもいたが……。
深淵の群れを追払い、
星の声の導きのまま得た財宝の分け前で、ギルドの宿屋に一年住み着いたっけ。
今となっては夢のような道行きだった。
僕はただ、伝説の彼らを讃えるのみ。
たまに別の詩を歌いもするが、
専ら彼らの足跡についての研究の日々だ。
ーーー異世界伝聞録。
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