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掌編ファンタジー小説「異世界伝聞録」その21
“花(フィオラ)“とは?
「原質構造体の話はしたな? すべて生まれくる場所、概念のマトリクス。」
先生は、ギルドから出る馬車の中で僕とファラとファラの師匠に語りはじめた。
「俺たちは無数にある神秘性のなかで生きてもいる。それはすべてが法則であり、方程式であり、解でもある。では、学問のなかの“イコール(equal)“とはなんだ?」
僕たちは考えたのち1人ずつ言うことにした。
まずはファラの師匠が口を開いた。
「イコールか…お前の言う原質構造体ではないのか? 概念のマトリクス。波とは違う。粒でもない。或いは円環を為する永遠の定義かもしれん。」
次にファラが一生懸命に語り、微笑んだ。
「それは……私たちには見えないけれども、きっと私たちにもある、最初の不文律。誰にもわからない、遠い日の願い事。」
最後に僕が答えた。
「数ある霊性のなかの、数学の神さまかもしれませんね。僕は神さまとは、夢でしか会ったことがありませんが。」
師匠が面白そうに顔を綻ばせる。
「へぇ、どんな神さまだ?」
僕はいつも思っていることに感謝し、言った。
「いつも僕たちを助けてくれる神さまです。」
そりゃあいいや。と先生は満足そうに笑っていた。
「あ、あの花ファラみたいだね。」
「どれ?」とファラが言うと、舗装が甘い道だったか、途端に馬車が石にでも乗り上げたのか、短く揺れる。
ガタンッ
倒れ伏した僕はファラに覆い被さるように抱き留めていた。
驚きのあまり、目をぱちくりと瞬かせるファラ。
「おっ、いい“花(フィオラ)“を見つけたじゃないか我が弟子よ。」
「ファラ、シド、私たちは何も見ていませんよ?」
「シド?」
さんさんと降り注ぐ陽光に、僕たちはまた思い出を紡いでいった。
ーーー異世界伝聞録。
日々を彩る神秘の在り方。
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