掌編ファンタジー小説「異世界伝聞録」その4
この国に信ずるべきがあるとすれば……。
魂の拠り所としての次元流(ストリーム)。
それらは多次元のスピリットと時間軸の存在を示唆してもいる、とどこかで聞きもした。
私はただの剣士にすぎない。
雇われの冒険者だ。
また次元流が発生したらしい。
今月はもう二度目だ。
冒険者の仕事は多岐に渡る。
ドブ攫いや、迷い猫の捜索。
薬草の採取や、護衛任務、賊の討伐。
と言っても、酒場に行けば釈放された盗賊や妖術師、問題を起こした魔導士や戦士などがわんさかいる。
私も飛び交う噂に煽られ、ラム酒を飲まずに外に空気を吸いに行ったこともある。
あの時は深淵の活動も活発だったのだろう……。
私はラム酒ではなく涙を飲んだ。
胃と脇腹が……、痛かった。
冒険者は大迷宮の呪物に惹かれる深淵の群勢を祓うのに、斥候役や荒事を担っていたりもするのだ。真の信頼関係は金では買えない。
中には禍根を持つ者同士も居るが、ギルドの間口は広い。
生き残っている冒険者は腕利き揃いで、中には歴戦の勇者に引けを取らない実力者もいる。
各迷宮や次元流の発生源では僅かなつまずきが命取りになる場合も多い。
……噂の弓の貴婦人と1人で居るところに会った際には息を飲んだものだ。
彼女は精霊郷のエルフで、二百年は生きているが溜め息しか出ないほどの美貌だ。
月夜の湖畔で話しかけられた時は、一糸纏わぬ肌に曇りも見当たらず、跳ねる雫は妖精を呼んだ。
迷宮では弓士は矢弾が尽きたら短剣や道具を使い、斥候も行う。
彼女の短剣には妖精が宿っているらしい。投げナイフは木製で、切る刺すより投げ当てる道具としての側面が強い。
なんでも魔法の起動式が組み込まれていると専らの噂だ。
酒場でカードゲームでも誘ってみたいが、彼女のようなものは、何を話題にしたら良いかはわからんなぁ……。とりあえず夕食は……。
ーーー異世界伝聞録。
波濤の剣士ザザーレンの酒場放浪記。