掌編ファンタジー小説「異世界伝聞録」その8
わはは。愉快にして痛快!
「ザザーレン!ザザーレンは居るかぁ!」
戦士ヴァルコサは大喰らい。人の倍は食べ、筋力も倍。
「ヴァルコサか。今日は何を食う?俺は料理長の気まぐれ裏メニューを……。」
剣士ザザーレンは飲み仲間。いつもは他に4人居ますが、今日は2人で晩餐です。
「フェイミィが、菓子屋の魔女にねだったらしくてな。味見程度だが分け前をもらったんだ。」
ヴァルコサは食糧嚢から透明な丸い宝石のようなものを2つ取り出しました。
「うおっ!? なんだそれは? 食えるのか?」
ヴァルコサはザザーレンにそれを一つ摘んで渡します。
「グミというらしい。うまいぞ! あまくて、歯応えがある。」
ザザーレンは珍しいグミを調べます。
「硬く、柔らかい。向こう側が見えそうだな。どれ、食ってみよう。むぐむぐ。」
ヴァルコサはまんまるの目を覗かせ、どうだ?と聞きます。
「確かにうまいが、不思議な甘さだ。果物のようで、菓子のようで。」
ザザーレンはヴァルコサにサムズアップしました。どうやら気に入ったようです。
「フェイミィはどうしてこれを?」
話の中に″私″が出てきました。
「ドルチェルの新作が食べたくなったんでワズロ鹿を狩ったんだと。でも動物の肉では菓子にならん。困ったドルチェルは筋と腱を鍋で煮込んだんだ。」
ワズロ鹿は森に群生する鹿の仲間です。苦労した甲斐がありました。
「なるほど。これは煮出しした成分の煮凝りか!」
そうです。よく気づきましたザザーレン。
「おーい、ぶつぶつ言ってないでこっちに来いフェイミィー。」
「仕方ありませんね、出てきてあげます。」
フェイミィと呼ばれた女性は身隠しの魔法を解いて話します。
「おいフェイミィ、エイドウィンとミュレアは来ないのか?」
ヴァルコサは晩酌仲間をご所望のようです。
「エイドウィンは弟子の育成。ミュレアは自然術師だから今回は食べないって。グミはドルチェルに言えばまだあるから、今回は3人でいただきましょ。」
フェイミィがそう言うので今日の晩酌は3人でグミ談義でした。
「ちなみにマシュマロってのもできたのよ。どっちも火で溶かしてパンに塗るとジャムみたいで美味しい……。次は何のお菓子がいいかしら。」
ーーー異世界伝聞録。
とある酒場の一晩。