連作掌編小説シリーズ「man,G亜」
二人の男が夜鳴きそばを啜りながらクダを巻く。
「なぁ、ワレラ。」
「なんだ。オセロパージ。」
「なんで俺の渾名がオセロパージなんだ?」
「白黒ハッキリつけることを″明暗を分ける″という。」
「そうだな。」
「なぁオセロパージ。お前のペンネームはなんだ?」
「芥 黒助。」
「お前は何色だ?」
「肌色。」
「バカかお前は、そんなもんみーんな肌色だ。フィフス・エレメントは見たか? 宇宙には青い肌色のやつもいる。スターウォーズのジャージャービンクスはピンクな肌色に近いが、俺たちよりかたつむりに似ている。」
「いや、ペンネームだし。葵 吾裸もどっこいどっこいだぞ。さしづめブルーインパルスか?」
二人は創作家だ。絵を描き、書をしたため、音を奏でながら、話芸で語らうその様は正に、現代文化の表現者と言っても差し支えないだろう。
「名前なんぞ今はどうでもいい。エンターテイメントの総合芸術は映画なんだ。映画を撮ろう。」
「いったい何映画を撮りたいんだ? アクション? コメディ? ラブロマンス? もしかしてホラー?」
「漫画だよ。マ・ン・ガ。」
「漫画は映画じゃないだろうがよ。」
「手塚先生は医者の道から漫画の道へ行った。俺たちは今、創作の道で迷子だ。とびきりの星(スター)になってやろうぜ?」
「出演するのはキャラクターだろ? 俺たちじゃあない。」
……ぐしゃぐしゃ。
葵吾裸は妄想の中で動く思考を、原稿を、ぐしゃぐしゃに丸めた。
芥黒助は彼の妄想の産物だ。架空のキャラクターだ。
ワレラは、クロスケに頭の中でこう言った。
″目に見えてるもんは全部″光″なんだよ。色はそのバリエーションに過ぎないんだ。昔のテレビじゃみんな白黒だ。パンダもバクもダルメシアンもな。″
″部屋の埃を顕微鏡で見てみろ。「埃の塊」というカラフルなコロニーには極小の住人たちがいる。奴らは俺たちから見たら何一つ不自由はしていない。″
″そして夜空を見上げろ。天の川銀河には俺たちがちっぽけに思えるくらいの人々がいる。織姫と彦星もいる。″
″俺たちは何を見て、何を聞き、何を感じ、何を思う?″
″数字の組み合わせや、言葉を尽くしても、それらを俺たちは、慮ることしかできやしない。″
″だったら慮ればいい。空想だろうが、妄想だろうが、その宇宙は俺たちの在り方だ。″
″どう転んだって、いつか必ず、届く日が来る。″
″俺たちはな、物質になる前から、必ず何処かへ辿り着くようになってんだ。″
″場所じゃあねぇ。時間でもねぇ。人でもねぇ。″
″そいつがわからねぇから、俺たちは赤ん坊の頃から、木の枝をクレヨンに変えて、点と線をひたすら描いてきたんだ。ずっと、ずうっと前からな。″
今はまだ″あさぼらけ(青い我ら)″
そうしていつかは″あかよろし(明かるくなる)″
それぞれ百人一首と花札の歌だ。
大馬鹿者は今日も部屋の埃も夜空も観る。
日常の平和とは、賢者たちと馬鹿たちが定め、楽しく馬鹿騒ぎするための誰かの願いなのだ。
man,G亜