掌編ファンタジー小説「異世界伝聞録」その19
“心の闇を払うのは、いつだって人の優しさだ。“
酒場での宴を終えた頃。はっちゃけた各人の困難の渦中での行動を示した伝説が聞けた。
「ゴブリンの群れの狩り方は?」
「奴らは追い剥ぎの妖精だ。暗がりを好む。そこでは分が悪い。松明と油で目を眩ませろ。その隙に逆方向に走れ。奴らは深追いはしないが、必ず斥候を使う。卑劣な罠もあるだろう。」
「どうするんだ?」
「奴らがやるのは強烈だが、ただの嫌がらせだ。隙をつく為のな。対処を提示するなら簡単だ。逃げ切ったらスカーレット商会の傭兵団、レッドキャップスを頼ればいい。」
「既に窮地でもぉー?」
フェイミィ酔いすぎだ。とザザーレンは言って続ける。
「レッドキャップスは対ゴブリン用のスペシャリストたちだ。冒険者がパーティを組むより断然早く的確に対処する。俺たちは一時的に囮にもなる。」
「スケルトンの魔界は? 延々と甦るわよ?」
「スケルトンがなぜ動くかわかるか?」
フェイミィの質問にエイドウィンが答える。
「魔力じゃないの? 星のエナジー。」
「実はスケルトンの本分は案山子だ。スケアクロウ。宝の在処であり、一種の防衛機構。マナと恐怖が入り乱れるほど、強い不死者にもなる。その実はハリボテだ。」
「ゾンビは?」
「バジリスク……。」
「ゴーレムとコロッサスの違いは……。」
「サーペントとワームは俗称。各々が違う種族のまとまり。海はサーペント。陸はワーム。その正体は虫や魚や蛇だと言われる。」
「みんないろいろ武勇伝があるなぁ。」
シドは居心地悪そうにいう。
「ミルメコレオを解したそうじゃないか。」
エイドウィンがサポートを加える。
途端にファラも頷く。ファラはよく空気を読む。
「僕は先生に魔法を教わったから。そう言えば先生。湖のことは……。」
シドはあの大迷宮のあとの湖のことを思い出した。あの時エイドウィンが湖に映らないように見えた。
「後ろ姿のお前が、イタズラ好きの精霊か試したんだ。お前が湖に興味津々だったからな。」
エイドウィンはおちゃらけて言った。
「そういえばあの時の水筒の水は?」
「水質の調査にな。動物が飲みに来るということは、動物の胃で作った水筒なら反応があってもおかしくはない。」
「錬金術に使うんですか?」
「んー、まぁ知識としてはな。今は水がとても面白くて。貝殻を入れると水質が良くなる。」
「へぇー。」
「あとは水棲生物の棲家とか。螺旋は音叉や波の効果もあるかもしれない。精霊が喜ぶんだ。」
「エイドウィンの雑学はマニアックですよね。自然術師から見ても興味深いです。」
ミュレアが関心していると、ヴァルカスが酔って肩を抱く。ザザーレンとフェイミィは吟遊詩人の勲し(いさおし)を歌いながら酒を酌み交わしていた。
穏やかなひととき。
しばらくはこのまま安らぎを。
ーーー異世界伝聞録。
冒険者酒場のひととき。