掌編ファンタジー小説「異世界伝聞録」その22
“私たちとは、「観念」であり、「存在する可能性の総体」でもある。ゆえに個人とは、その偉業の一端を担うのだ。“
ある集落に、現代のオズローンのうちその一人が住まう地域があった。
「先生、お久しぶりです。」
尋ねたエイドウィンは、揺れ椅子で満足そうにパイプたばこを燻らせるオズローンに会釈する。
彼に合わせて立ち上がり歓待するオズローン。
「やぁ、我が弟子エイドウィン。ご家族はご健在かな。私も会えてとてもうれしいよ。」
エイドウィンは、「ありがとうございます。私たちもうれしい。家族にも伝えておきます。」というと視線を隣に移した。
それに気づいたのか、次いでアルビノの黒猫のルフが話す。
「久しいねエイドウィン。今回の智の探求の旅はどうだった?」
「これはこれはオズメイト。……困難もありましたが、なかなかに充実した旅路でしたよ。ですが、あなたたちの境地にはまだ遠くも感じます。教え、知るもの方々。」
エイドウィンはそう言うと数々の宝物や手記の話をする。
「ふむ、これはこれは…。」
「実に面白いね。きょうだい弟子も鼻が高いだろう。皆、それぞれの道を歩んでいるよ。」
「そうですね……。ゼルハルトやグゥエンシーは、みんなはどうしていますか? ……フィオラは?」
オズローンは優しく応えるとルフと諭すように言った。
「皆どこかで元気にしているさ。いずれは会える。人生とはそういうものだ。」
「まだあの子たちが忘れられないのかい?」
エイドウィンは頷き、少し俯くと立ち上がる。
びっくりするオズローンとオズメイト。
「もう行くのかい?」
「フィオラと約束しましたから。いっそ全部反故にして、最初の約束だけでみんな携われれば、ずっと笑顔でいられる気もしますから。」
「ほう、一体どんな約束を?」
「“あそぼう“と。だから僕は……。」
きっと、また学ぶのだろうと。
ーーー異世界伝聞録。
エイドウィンの手記。