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掌編ファンタジー小説シリーズ「異世界伝聞録」その2

すごい子を見つけた。

観るものに感覚を見出し、
活かす方法を知る子だ。
 
“菓子屋の魔女(dolcel)“に、

豆から作る練り飴のような甘い蜜菓子を作ってみせた。

かの菓子屋の魔女ドルチェルも形無しかと思われたが、

異邦の文献を取りに書斎へ籠ること3日、

彼から聞いた材料を変え、別物だが新たな菓子をドルチェルに作らせたんだ。
 
ドルチェルは貴族からもその菓子を重用され、街の市場へ出ては対価を得て市民に与える、良い魔女だ。

見目も麗しく男たちからの人気も高い。
 
そのドルチェルを更に“ほの甘く“仕立て上げたのだから、面白いことこの上ない。

他にもある。

“波濤の剣士“と名高きザザーレンの演舞を観た時は、二の太刀がそれぞれ3工程であることを見抜いていた。初見でだ。

わかったから防げるという訳ではないが、良い感覚を持っている。

彼の本領の三の太刀以降を見る機会があるのは、最高ランクの銀等級でもそうは居まい。

だが、この子は感覚に振り回されてもいる。

仕組みを、構造の芯を、感覚の妙を、それぞれ理解できるが故に。

俯瞰と私見の切り替えに頭を悩ませるようだ。

彼の居た学舎は俺の故郷の郷土によく似ている。

ああいうところでは、必ず浮く子が何人かいるのだ。

人付き合いそのものより、自然との語らいや、学びや、遊びに、友に、粋(すい)を観る。

彼らとの語らいから、忌みじくも才人の兆しをみせる。

普通の才と同じだが、ああいう手合いは時運の趣きが珠玉のものになりやすい。

……面白いのだ。

そういった奴は結構いるものだが、その数は一割にも満たない。

子供は、孤立したら一人でも学ぼうとする。
優れた師が付けば才覚を伸ばすだろう。

今回は匿名の依頼で、冒険者養育の集団実習に付き添ったが……。

ともすれば深淵を祓う一助を担える器かもしれないな……。

ーーー異世界伝聞録。
   篝火の探検家エイドウィンの手記より。


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ほづみわたる
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