ブラックマジックにご用心
ブラックマジック。
黒魔術。
医学、科学がこんなに発達した現代においても、この島にはそんな禍々しいものが今なお生きている。
いや、それはどこの国でもそうなのかもしれないが、ここの場合は堂々と表舞台の末席についているような感じがある。
南国には、日本にいると遭遇しないような珍妙な厄災がそこら中にある。鶏を守るべくコモドドラゴンに似た大トカゲと格闘するなんてのは日常茶飯、家の中で鎌首をもたげたコブラと出くわして頭の中がフリーズしたこともある。
デング熱やマラリヤといった「あー聞いたことはある」系の熱病もここではいつも隣り合わせだ。
しかし隣り合わせなのは、毒蛇や熱病だけではないらしい、ということを認識せざるをえなくなってきた今日この頃。
「ブラックマジックって、本当にあると思う?」
と友達に聞いたことがある。
「あると信じる人には存在すると思う」
彼女はそう言い、まさしく私も同意見であった。
人々の強い想いや念がそういうものにも力を与えるのだろう、さすがスピリチュアルな島だ、とまるで夢でも語るような調子で二人して感心していた。
ちょっぴり怖いけど「信じる人の間においてのみ存在するもの」だから我々には縁の薄い話だと。
そう高を括っていたのだが……
食あたり デング熱 ブラックマジック
みたいな、信仰など関係なく「すぐそこにある危機」なのかもしれないのだ、ブラックマジックとやらは!
このとき一緒に感心していた友達がかけられてしまった。
原因不明の熱が続き、エネルギーが枯渇したみたいに起き上がれなくなった。お腹の皮膚の下で、何が蠢くものがあるのが外からも確認出来たという。
その他にも私の直近に二名、ブラックマジックをかけられた者がいたことが判明した。
その症状は様々で、謎の熱に苦しめられたり、心を操られて洗脳されたりしていたらしい。
ブラックマジックは、どんなお医者も薬も役に立たない。「そういう力」を持ったひとに見抜いてもらうしかない。そしてその時には、誰がやったかも明らかになるようで、彼女らは一様に「まさかあの人がとは……」と後にため息混じりに首を降っていた。
彼女たちはヒドイ目に遭いはしたが、まだマシなほうだったのかもしれない。最悪の場合は……最悪なことになるのかもしれない。
ああコワイ。
なぜこんな話を書いているのかというと。
私は誰かに恨まれるようなことをした覚えはない。けれど、逆恨みはされているんじゃないかなあという空気を感じているからである。
本気で心配はしていないけれど、可能性としては否定出来ないのではないかと思っている。
「人を呪わば穴二つ」というけど、ブラックマジックを使うひとも然りで、やっぱり夜叉みたいになっているのかな。
「視える人」によると、この島は、他の場所とは比べものにならないくらいに魑魅魍魎が跋扈している、と聞いたことがある。
へえ。ブラックマジックに夜叉に魑魅魍魎か。
面白い。
私は、自分がそんな面白い土地にいられることを嬉しく思う。
せいぜいブラックマジックには気をつけて明日も楽しくいきたい。
何をどう気をつけていいかワカランけど。