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読書録

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#福井謙一

読書録 「生きがいについて」

神谷美恵子「生きがいについて」(みすゞ書房) 書店や図書館で手に取った本の中で心に刺さる一文を見つけた時、生きていてよかったなと感じる。 本書はそんな一冊だ。 結局、人間の心のほんとうの幸福を知っているひとは、世にときめいているひとや、いわゆる幸福な人種ではない。かえって不幸なひと、悩んでいるひと、貧しいひとのほうが、人間らしい、そぼくな心を持ち、人間の持ちうる、朽ちぬよろこびを知っていることが多いのだ。 人間の存在意義は、その利用価値や有用性によるものではない。 野

ひろく学ぶ

大学で教職についていた時、私は巣立っていく教え子たちに、このような話をしては広く学ぶことの意義を話すことにしていた。自分が進もうとしている道には関係なさそうに見える学問、否、もっと極端に、逆の方向の学問を一生懸命勉強することを勧めることにしていた。自分のやりたい学問と距離のある学問であればあるほど、後になって創造的な仕事をする上で重要な意味をもってくるからである。 (中略) 若い人たちへのこのような私の注文は、あるいは酷かもしれない、とも思う。何といっても、今の学生たちは、私

科学的直観を養うには

今日はフロンティア軌道理論でノーベル化学賞を受賞した福井謙一先生の言葉を紹介する。 数万語を費やしても一人の人間の顔を叙述し尽くすことができないのと同じように、クロッカスの花の微妙さは、叙述では竟に認識され得ないであろう。 自然とは、そういうものである。そのように底知れぬ奥深さをもっているものなのである。自然科学的な自然認識の中で科学の創造性に最も影響を与えるのが、所与性の自然認識だと私が考える理由は、ここにある。複雑かつ単純でもある自然と取っ組み合う自然科学者は、あるがま