事績の中のジェンダー
「デンマーク人の事績」
読んでみたいと思った。絶版だ。古本は五万円⁉︎
ある大学の出版だから、どこかの公立図書館にあるだろうか。自分が行けそうな7館のうち2館に所蔵があった。うち1館は書架ではなく書庫だった。
シェイクスピアの原作を元にした映画をネットで見た。
原作では脇役で死んでしまう若い女性が、この映画では主人公で、そして最後まで生き残り、身籠った子と笑顔のエンディングであった。
映画では女性が多く出てきたが、多くは侍女の役であった。
中心となる女性は妃と魔女とそして主人公であった。
妃は修道院で育った出自であった。魔女は終盤で妃の姉であることが分かった。王とすれ違いで神経を病んでいる妃は森の魔女の薬を使っていた。魔女は妃が再婚した弟王によって昔、命を狙われた。毒薬を飲んで死を装い、自力で解毒剤を飲み、生きながらえた。その代償でその男との間に身籠った子を失った。
上の世代のその二人の女性の生きざまに触れた主人公は、生きる上で自分を大事にすることとは何かを学んだのだろう。その結果であろう。自分の意志で城から逃げて修道院に逃げ込み、出産し子どもと生きている。
父と兄と夫を亡くしたが、子どもと生き延び、笑顔の生活を送るオフィーリアである。
シェイクスピアの原作ではどう扱われているか。
オフィーリアは川に落ちて死ぬ。
ハムレットは馬鹿のふりをして復讐を成し遂げ、王位に就く。
シェイクスピアのハムレットは「デンマーク人の事績」が元になっているという。それはデンマークの「日本書紀」のようなものらしい。
原典では、どのような物語が書かれているのだろう。さらには事績の元になった伝承があるのだろうが、ネット検索で簡単にはあたれない。そこまで遡れないにしろ、シェイクスピアの「ハムレット」の元である「デンマークの事績」の中の一物語をネット上のあらすじで読んだ。
簡単に言うと、ハムレットのモデルであるアームレット王子の復讐と栄光の物語である。気が狂ったふりを続けて父の仇である弟王を打倒した。残虐な戦術もおこなった。賢く手先が器用であった。勇敢で他国の王からその王女との結婚を与えられた。次にはその王に諮られて、別の国の女王に仕向けられたが、逆にその女王から求婚された。アームレットは二人の妻を娶り、故郷の国に還る。
これが、かの国の事績の一つという。
もう、とんでもなく、映画と事績の物語は何億光年もの隔たりがある世界ではないか。
事績によれば、女性は戦利品と同等であり、地位の高い女性は国交のカスガイである。オフィーリアは出てこない。
映画のほうは違う。オフィーリアは、男性が中心の城内で繰り広げられる骨肉の争いに巻き込まれず、自分の意志で去ってゆき、自分の生活を手に入れた。100パーセント幸せいっぱいとは言えないにしても。
なぜなら、ハムレットは誤ってオフィーリアの実父を切り殺してしまった。
悪王の謀略でオフィーリアの夫ハムレットと実兄は決闘をすることになった。
オフィーリアは最愛のハムレットに逃げようと提案したが、二人は袂を分けた。兄と夫は決闘で両者とも死ぬ。妃はその決闘を謀った新王を刀で突いて殺す。妃は服毒死する。その状況下にノルウェー軍が、森の魔女に手引きされて城に侵攻し一網打尽にされる。
あまりに悲惨無惨で、ストーリー展開に無理がなくはないが、オフィーリアは生き残った。その意味を読み解きながら映画を見終えた。
もう生きていけないほどの喪失に見舞われても、子どもを産み、生きている。
女性は子どもを産むから素晴らしいとか、そんなステレオタイプなメッセージには思えなかった。
そういえば、オフィーリアの実母は早くに死んでしまい、その妻を深く愛していた父親と兄と三人でオフィーリアは育ってきたのだった。
自分が得られなかった母との生活を、オフィーリアは自分の力と運で、娘との生活という形で生み出したのだった。
人生は一色で描けない。幾つもの幸運と不運にかき乱される。それでも生きていく。
女性は戦利品にされるものではない。
自分の人生を取り囲むさまざまな出来事に出会う中で、自分の思考と選択と正直さで歩んでいく。そうありたい。