大脳基底核病変に対する臨床推論とは?運動の問題を3つの経路から考える!
脳の機能を学ぶ上で非常に重要な大脳基底核ですが、その機能は様々な核が絡み合うことで、直接路・間接路といった経路として働いたり、運動実行に関わる筋緊張の調整や運動の開始・停止といった運動プログラムに関与するということを聞いたことがあるかと思います。
では、そういった経路や大脳基底核の様々な核の機能を理解しても、中々その知識が臨床に結び付かないことはありませんか?
そもそもこの大脳基底核が運動の何に関わっているのか?という点を考えた場合、複数の核群が作るネットワークを理解することが必要で、それぞれの基底核病変で起こる問題をある程度イメージできる必要があります。
でも実際はそのネットワークもイメージがつきにくいのも実際だと思います。
まずは大脳基底核の基本的な機能をおさえつつ、大脳基底核がどのように運動機能に影響を与えるのかを、難しくわかりにくいネットワークを、図を使って可視化することで、臨床解釈に結び付けていきたいと思います。
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大脳基底核の5つの核とは?
大脳基底核の3つの経路の働き
その中で、大脳基底核の障害として有名なパーキンソン病やハンチントン病ですが、それらの臨床所見は【全く動かないパーキンソン病】と、【動きすぎてしまうハンチントン病】といったように全くでてくる症状や現象が異なるのは一体何故なのでしょうか?
そして、臨床場面でも良く遭遇する脳卒中としての被殻出血の場合では、どのようにこの大脳基底核の機能を考え、臨床所見と照らし合わせながら治療介入していくべきなのでしょうか?
今回は前回までの大脳基底核の機能を踏まえながら、病態理解としての大脳基底核の役割や経路についてまとめていきたいと思います。
それではスタート!
大脳基底核の機能や経路について簡単におさらい
まず、大脳基底核の機能について簡単にまとめていきますが、大脳基底核の機能として最も重要なのはブレーキの作用になります。
例えばペットボトルにリーチするといった運動課題に対して、まずは大脳皮質でペットボトルをとるといった運動に対する企画が起こります。
その際に脳では様々な運動に関する情報が作られるわけですが、いきなりリーチに必要な上肢筋群に対して、一次運動野から皮質脊髄路を介した三角筋や上腕二頭筋を動かすための随意的な要素が働くわけではありません。
例えば、リーチをしようと思っても、
・どういったリーチの仕方が良いのか
・そもそも左手・右手どちらでリーチすればよいのか
・その際にどの関節をどの程度動かせばよいのか
といった運動に必要なやり方や方法(これらを運動プログラムといいます)が必要になります。
その一次運動野からどういった運動をしようかという運動プログラムの情報が、基底核で形成される3つの経路を介して、その運動(ここではリーチ動作の際のある一つの運動方法)をやってよいのか、やったらダメなのかといった運動の開始・停止として決定されます。
その際には3つの経路が同時で働くのではなく、ある程度の順序性を持って働くのがこの基底核の特徴になります1)。
まずはハイパー直接路でその運動をする・しないを決定し、実際にやって良いといった限局された運動が直接路を介して実施されます。
そこから間接路を使って運動をやめたりすることが、運動を起こす前に基底核から視床そして大脳皮質を介して行われます。
その結果、実際に運動に必要な筋骨格系を動かすための大脳皮質の活動が決定され、一次運動野にその情報が送られます。
すなわち、大脳基底核が正常に働かないということは、運動に対してブレーキがききすぎて運動が出ないか、ブレーキがはずれることで運動が出すぎてしまうといったどちらかの問題が生じることになります。
では、これらが実際に基底核の核群及び経路を介してどのように制御されているのかをパーキンソン病やハンチントン病、ジストニア、被殻出血などを例に考えていきたいと思います。
大脳基底核病変の代表的な疾患
基底核病変の問題で生じる運動の問題は、パーキンソン病のように無動・寡動を来す運動減少症(hypokinetic disorder)と、ヘミバリスム、ハンチントン病、ジストニア(ジストニー)などのように不随意運動を伴う運動過多症(hyperkinetic disorder)とに大別されます。
では、この運動が減少するもの、運動が過多になるのは大脳基底核のどういった問題で生じていくのでしょうか?
実は大脳基底核疾患の病態は、ハイパー直接路・直接路・間接路の活動性のバランスが崩れ、大脳基底核の出力部(黒質網様部・淡蒼球内節)の発射頻度が変化することにより、説明することができます。
ここからは、それぞれの疾患ごとの特徴を踏まえながらまとめていきたいと思います。
パーキンソン病の場合
基底核障害として最も有名なパーキンソン病ですが、これは無動・寡動を来す運動減少症(hypokinetic disorder)として臨床症状がみられます。
では、この原因が基底核のどの機能の障害かというと、中脳にある黒質(詳しくは黒質緻密部のドーパミン作動ニューロン)の変性・脱落になります。
黒質緻密部の投射部位である線条体(尾状核・被殻)に対する直接路ニューロンへの興奮性入力(ドーパミン)と、間接路ニューロンへの抑制性入力(GABA)がなくなります。2)
その結果、運動課題の遂行時に大脳皮質から線条体に入力が入っても、黒質緻密部からの興奮性のドーパミンが投射されないことで、直接路が十分興奮しなくなります。
そして、この直接路(抑制系の経路)は元々、ブレーキの作用がある基底核の出力部(黒質網様部・淡蒼球内節)に対して抑制をかけること(脱抑制)で、視床や大脳皮質からの興奮性を引き出し、必要な運動を出していたのに対して、
黒質緻密部の障害により直接路(抑制系)が働かないことで、出力部(黒質網様部・淡蒼球内節)を抑制できない(脱抑制ができない)ことによって、ブレーキ作用が高まり、結果運動が起きないといった現象を引き起こしてしまいます。
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