演出家:小山ゆうなさん、劇作家:長田育恵さんに演出と劇作について聞いてみた(全2回)その2
演出家:小山ゆうなさん、劇作家:長田育恵さんに演出と劇作について聞いてみた(全2回)その2
【山下】小山さんは海外の翻訳劇とかしてるけど、あのときは別に原作者に「翻訳してるからここはこうしますよ」というのは特に言わなくても大丈夫なんですか?
【小山】生きている作家さんだと許可は得ることは多いですね。すごい細かいことは「いいよ」って言ってくれる場合もあるので、そのときはいいですけど。
【山下】上演台本とか作ったら送ったりするんですか?
【小山】はい、一応そうですね。
【山下】やっぱりそうなんですね。
【小山】「ここカットするよ」とか。もうでも「自由にしてもいいから、お金だけ払ってくれればいいから」っていう場合もあるから。
【山下】わたしだったら、そう言うな、大変だから。
でもさっき長田さん言ってたけど、書いたものがかたちになって、ていう。
僕も企画が映像になって「こうきたか」ってなると、ちょっと嬉しいですよね。
【長田】嬉しいですね。
【山下】こんなにお金かけてこうしてくれたんだっていうのはね、紙1枚のものが、みたいになってくるんですよ。
【長田】なんかすごく、ゆうなちゃんの素敵なところは、さっきもお話したんですけど、私に分かることは登場人物のことだけなんですよ。
【山下】さきほどの時間でおっしゃってましたね。
【長田】そう。登場人物のことは分かるんだけど、これが俳優がやるときのことは分からないんです。
【山下】俳優が身体を使ってどうするかっていうのは分からない。
【長田】私が知ってるのは登場人物のことだけだっていう感じがあって。ゆうなちゃんは、俳優自体の生理とか心の動きとか、それを役と強く結びつけて俳優自体の中から探すとか……コネクトの力がすごく強くて。
【山下】なるほど、面白いですね。
【長田】自分を消して知らないものになれ、じゃなくて、自分の中にある何かからコネクトできる部分を増やしていく。それでつながりをどんどん深くしていくということがすごく強くて。
だから舞台を観たときに、目にしている時間すべてが真実なんです。
話は架空だし登場人物も現実にはいないんですけど、目に映ってるものはすべて生身の俳優たちの関係性の変化を見てるんですけど、目に映ってる光景、私が肉眼で見ているものに嘘が1個もないんですよ。それがすごく良くて。
【山下】嘘をつかない演出を俳優とつくり上げてるのかな?
【小山】そうあれたらいいなと思うんですけど、なのでやっぱりキャスティングがすごく大事で。
【山下】大事ですよね。
【小山】俳優の生きざまみたいなものが透けて見えてしまうので。オーディションのときに長田さんとすごい一致したんですよね。
【山下】そこはつながるところがあったんですね。それは良かったですね。
【小山】別に何にも言ってないけど「この方」っていうのがほぼ全体的に一致して。
【山下】でも普通にそれくらいの人材が沢山いるってことかもしれないけどね。
【小山】それはあるかもしれない。だからそこの安心感はあった。
【山下】そうか、そこは原作者とつながってるから、そうすると俳優の身体をこの台詞を通してどういうふうに伝えていくのか、どういう動きで伝えていくのかということが演出家がやっていけばよかったと。
【小山】そうですね。
【山下】あとあれですよね、演出家って選んでこれって決めてく仕事がすごく多いじゃないですか?
【小山】はい。
【山下】僕だからCMや動画の演出するときに途中で面倒臭くなるんですよ。もうどっちでもいいよ! 決めて! って。
【長田】それは本当に大変そうでした。決めることが山のように滝のようにあったよね?
【山下】だから「演出家は物事決め係」だからってよく言うんだけどね、それを面白いと思えばいいけど私は無理なんだよって言って。だから本当の意味で演出は私はできないんですよ。
【長田】でも本当にたぶん劇作家協会より演出家協会のほうがうまくいってると思うんですけど、演出家協会って、演出家って……。
【山下】現実があって決めていかないといけないからね。
【長田】現実ちゃんと人間のバランスが取れてる人じゃないと……。
【山下】前に進んでいかないといけないからね。
【小山】でもそう……どうなんですか? そうは感じない。
【長田】でも本当に関わる人間の数もミュージカルは多いし……。
【山下】何人くらい関わっていたんですか?
【長田】正式な数は分からないですけど、それこそ劇団四季の皆さんは本当に真面目なので。例えば試作品とかでも全然試作じゃなく本当にきっちり。
【山下】合わせてくる。
【長田】でもそれのNOを出したり、こう変えろっていうオーダーを出したりとか……。
【山下】それをちゃんと引き受けてくれる。
【長田】うんたぶん、すごいなという……。
【山下】どうですか小山さん。
【小山】何度も「そこは絵を描いてくれればイメージできるから作らなくていいです」って言ったんだけど。
【山下】作ってくる?
【小山】衣装一つプレゼンするときにメイクもヘアメイクも完璧な状態で見せて、判断してくださいみたいな。
【山下】むっちゃ、贅沢じゃないですか。
【小山】贅沢なんだけど、お金のことが気になって。
【山下】逆にプレッシャーになっちゃう?
【小山】そう。すぐもったいないとか思っちゃう、貧乏性なので。
【長田】やっぱりなんか、そういうふうに誰かが、頑張ってる姿を見せられると、もうそれでいいかって気持ちになっちゃうじゃないですか?
【小山】うんうん。
【長田】だけどやっぱり作品を良くするっていうジャッジが、たぶんすごく高いところに目があって……。
【山下】そこ難しいですよね。そのときに、やっぱりこれじゃなくてこうなんだっていうことを、演出家はあえて言わないといけないときもあるじゃないですか。それも辛いところがありますよね。
そうでもないですかね? 「もうちょっとこうしてほしいんだけど」って言ったときに、やっぱり頼みにくいっていう前提もあったりして。
【小山】感覚的に「もっとこうのがいいんじゃないかな」って思って、でも自分の感覚が合ってるか、ちょっと分からなくなったりするじゃないですか? そういう瞬間って。
そういうときに、よく意見を聞いてました。「どう思う?」みたいな。電話したりとかして。
【山下】どっちがいい? ってよく聞かれました? 「じゃあこっち」って全然決めてないよね自分だと……。
【小山】そうそう。でも、そういうのも大事じゃないですか?
【山下】そうですかね?
【長田】逆にちょっと書き上がったあととかは、少し現場から離れて外野にいるから、現場の人の苦労じゃなくて純粋にどっちとどっちって聞かれたらこっちかな? みたいな言い方はできる。
【山下】そう。逆に客観的な人がいるといいんだよね。だから本当に。
【小山】そうそう。そこを常に自分を疑ってないと自分も入り込んじゃってるから。
【山下】そうなんです。分からなくなっちゃうよね。
【小山】なのでそういう意味で、作品を知りつつ客観的に見てくれるっていうすごいいいスタンスでいてくださってて。
【山下】なるほどね。原作は書いてるけど、途中から客観的になっていけると。
【長田】そうなんです。
【山下】それはうらやましいですね。
【小山】ありがたかったですね。
【山下】あと、今回はミュージカルじゃないですか。
【長田】はい。
【山下】作詞は長田さん?
【長田】はい、やったんですけどね。
【山下】どうですか? 大変?
【長田】いや、大変でした。まだ修行中です。
【山下】詞先行なんですか?
【長田】今回は詞先行でやらせてもらったんですけど。
【山下】今回はってことはミュージカルで音先行ってこともあるんだ。
【長田】私、大体音先行で作ってきてて、詞先行が初めてくらいだったので……。
【山下】詞先行にするのは何か理由があったんですか?
【小山】たぶん長田さんの本ありきっていう企画だったと思います。
【山下】それはもうベースがそうだったんだ。
【小山】なので1曲だけたぶん音先行の曲があったかな? なんだけどそれはそんなに本筋と関係ない……という言い方も変だけど、という曲で。筋と関係ある部分は長田さんの台本に沿ってみんなで考えようみたいなのがあったと思う。
【山下】なるほど。
【長田】何年振りだったんだろう? 本当に24、25歳とか25、26歳が最後だったので。
【山下】博品館に書かれていた時とかですね……。
【長田】久しぶりに作詞に帰って来て、ああ修行しよう……と思いました。本気で修行しようと思いました。
【山下】歌の歌詞って1番難しいと思うんですけれども。
【長田】大変ですよね。歌の歌詞が1番時間かかります。
【山下】だって長さとか音節とか合わせないといけないじゃないですか。
【長田】だから1曲作るのに3日くらいかかりますね。
【山下】物語はすらすら書けるのに。
【長田】1日目はスケッチブックに情景を描き出して、2日目くらいにテーマを作って、2日から3日にかけて字数を整えたりとかやってましたけど……私が本当に修行中でした。
【山下】歌詞を書いてから作曲家の人がそれに曲を合わせて書いてくれる?
【長田】はい、すごくはめてきてくださって。
【山下】そういうのできるんだね。
【長田】なんか新鮮でした。
【山下】いやあ、すごい。
【長田】今はいろんな劇伴で活躍されてる方なんですけど、元々四季で劇伴のピアノを弾かれていたそうで、ミュージカルのオケピでピアノ弾かれてたっていう経歴がおありで。だから書いたものを大体はめてきてくださって。
ミュージカル研究会時代からも……。あのときは作詞をやってたんですけど、書いたのが6割くらいはまった、この歌詞からインスパイアされた曲みたいなのがふわっと上がって来て、その曲聞き直して全部もう1回歌詞を付け直すみたいなことを作業としてやっていて。
20代の頃やっていたファミリーミュージカルも大体そういう現場だったんです。最初に作ったやつが作曲家をインスパイアするための材料みたいな感じに取ってて、結局上がってきたやつを聞いて。
【山下】また直すと。
【長田】譜面を見ながらイントネーション合う言葉を探して全部付け直していくってことが自分にとっての作詞の作業だったので、そうじゃなく書いたものがほぼパッチリと来るっていう。
【山下】へえー。
【長田】だから書くものが作詞なんだっていう経験を初めてして。
【山下】それはプロの手業を目の当たりにしたと。
【長田】そうだと思います。
【小山】すごかったです。河野さんという方なんですけど『おっさんずラブ』とかの曲。
【長田】作曲されてる方なんですけど。
【小山】もう寸分違わずというか、歌詞1個も変えずにそこに音をはめていく。
【山下】最初はデモの曲と歌詞が、作曲の先生が歌ったものが来るんですか?
【長田】譜面とデモが来ましたね。歌は入ってなくて主旋律の音と。
【山下】それを聞きながら歌詞を想像しながら。
【長田】はい、譜面には書いてあるんで。
【山下】それができてきたら俳優たちが稽古をするということなんですか? 僕ちょっとミュージカルよく分かってないんだけど、芝居をやるのと歌の稽古は別々にやるんですか?
【長田】本読みより先に、スタートしてましたね。
【小山】そうですね。基本的に大体どこでもたぶん歌稽古っていうのは先に。
【山下】あるんですね。歌は作曲の先生がやるんですか?
【長田】音楽監督の方が歌い方指導したりされてましたね。
【山下】音楽監督の人がピアノみたいなものがあるところで、みんなで歌ってもらってやるっていう、なるほど。
それが大体できてきてから芝居と一緒にしていく?
【長田】もうね、最初の本読みのときには曲はみんな歌える状態になっていて。
【山下】あ、なるほどね。
【長田】その歌も含めて通して読むことが「本読み」っていうふうに言われてましたね。
【山下】じゃあその本読みは台詞もしゃべるけど「ここから歌入ります、じゃあ歌います」って言って歌う?
【長田】うん、もうそのときには。
【山下】ああ、なるほど。面白いね。
【小山】これはでもね、どうなんだろう……分かんない。本当にずっとミュージカルやってらっしゃる方ばっかりの東宝さんとかカンパニーだったら
成り立つんだと思うんですけど……四季だからじゃないかな?
要するに、前奏の何小節かに台詞を入れなきゃ、とかってこともあるじゃないですか? そういうのってミュージカルに慣れてないとすぐにはできないけど、四季の人たちは完璧に最初からやるから、すごーいって感じですね。
【長田】身柄も押えておいてくれるというか。スケジュールもみんな空けて。
【山下】スタッフの?
【小山】身柄?
【長田】そう。
【山下】そういう意味ではむちゃくちゃ贅沢ですよね。チケット代安すぎないかっていう話になっちゃいますよね本当に。
【小山】そうですね。
【長田】ちゃんと稽古の始まるプレ稽古の前から主要キャストも全員きっちり揃えて、確保してくれるっていうね。
【山下】なんかすごいですね。それがやっぱり結果として舞台に表れてるんですね。贅沢な作り方ですね。
【長田】いろんな人の愛が分かりやすく詰まってる。すごくありがたいですね。
【小山】作品に向かってくってことを、基本的にはみんなもう純粋にそれをやるから、だから「この俳優さんすごいね」とか「この俳優さんを立たせなきゃいけなかったんだね」みたいなことじゃなくて、作品が浮かび上がってくるっていうのはやっぱり見やすいなと思います。
【山下】いいですね。歌舞伎とかだと役者を観に行くとかっていうのがあるけど逆ですよね。作品を観るためにどういうふうに環境とかバランスを作っていくのかっていうものなんですよね。
【小山】そうですね。
【長田】そうですね。
【山下】作品至上主義なんだな。
【長田】本当に、ロボットの場合は俳優もその俳優だからこその魅力がすごく引き出されていて。でもそれもさっき言ったコネクトの力っていうか、たぶん立つ俳優が変わると違うものを取り出してコネクトするから、演じる俳優の数だけ物語がちゃんと生まれるようなそういう演出方法になっていると思います。
【山下】なるほどね。逆にキャストが変わるとまた新しい見え方をするかもしれないね。
【長田】たぶん、そう思う。
【小山】おそらくそうですね。
【山下】今まではずっと同じキャストで?
【長田】そうなんですよね。
【山下】なるほど。じゃあこれがバージョン1かもしれないね。
【長田】そうです。
【山下】バージョン2のキャストでまた新しいのができるかもしれないですね。
【小山】そうですね。
【山下】四季さんは割と同じプロダクションをずっと長く続けられますよね。それも楽しみですよね。
あとミュージカルというとダンス。ダンスは今回のは、あるんですか?
【小山】はい。かなりあります。松島さんという、四季の中でもファンも多い俳優さんだった方が振付に回られて。
【山下】そうなんですね。
【小山】もったいないくらいなんですけど。
【山下】振付師として。
【小山】踊っててえ、みたいなところもあるんですけど。
【長田】だから、そこも含めて完全に同世代のチームで揃えてくれて。いわゆる振付の大先生を外部から招くじゃなくて、座内の中から同じスタッフとしてやりたいっていう人を見つけてくださるっていう。
【小山】そうね。夜の稽古終わったあととかも、演出助手の方も同世代で、振付の方と3人で残って「これこうしたいんですけど、どうですかね?」とかって私が言うとすごい必死で考えてくれるとか。本当にすごく楽しい時間でしたね。
四季のすごさって色々あるんですけどダンス本当にすごくて。
【山下】ダンスもすごいですよね。四季のダンスと歌は本当にびっくりしました。
【小山】すごいですよね。
【山下】みんなレベル高いから。
【小山】ダンスって、何とか選手権とか、ダンスのいろんなコンクールとかで1位になった人とか、海外のカンパニー行ってた人とかそういう、第一線の方たちが集まってくるし、浅利先生がそういう方集めたらしいんですけど。だからすごいレベルが高くて。ダンスシーン……。
【長田】すごいですね。目がいくつあっても足りないです。
【小山】そうそう。
【長田】毎回やっぱり何度観ても新しい発見があって。
【山下】何回も観られますね。リピーター続出みたいな感じですね。
【長田】そうなんですよ。実際に上演が始まってお客さま方がそういう楽しみ方をされてることとかも初めて知ったりとか。
【山下】四季さんはリピーターが多い感じですからね。
『ロボット・イン・ザ・ガーデン』の初演が始まったのは2020年でしたっけ?
何月でしたっけ?
【長田】10月ですね。
【山下】2020年の10月ということは、緊急事態宣言が終わって少しみんなが活気を取り戻した頃に始まったのかな?
【長田】いやでもやっぱり、シングルキャストで、ずっといってたんですけど……。
【山下】PCR検査とか……。
【長田】受けたり、途中で上演が中止になるタイミングもあったりいろんな紆余曲折はあったりしましたね。
【小山】ただ開幕したときは世の中的にちょっと落ち着いて、なので50%ではあったんですけどチケットは一気に、最初発売されたのはなくなって。
【山下】50%だと採算は取れないですよね。本当に。
【小山】本当にねえ。
【長田】いろんな試みを初めてしてくださって、オンライン配信とかも公演で初めてやってくれたりとか。あとLINEスタンプ。
【山下】へえー。『ロボット・イン・ザ・ガーデン』の?
【長田】『ロボット・イン・ザ・ガーデン』のLINEスタンプを。
【山下】作ったんですか?
【長田】四季として初めて公式に最近リリースがあったりとか。四季にとっての初めてのこととかも沢山……。
【山下】イノベーションが起きているわけですね。
【長田】なんか楽しかったですね。
【小山】オンライン配信のときも、なんかもう本気ですごくって。「カメラ何台しかないからね」とか、いろいろ言われてたんですけど全然もうハイクオリティだし、ディレクターの方が作品をすっごい観てて。
【山下】そうなんですね。
【小山】メインで、ここでお芝居行われてるけど後ろで実はこういうことがちょっと起こってて、でも何回も観てる人は気付くけど普通見逃しちゃうけど別にいいんです、みたいなこととかいっぱいあるんですけど、そういうのも……。
【山下】全部ディレクターが、分かってる。
【小山】そう全部……「あそこで何々さんがこれやってるよね?」「これ映したほうがいい?」とか言ってすごくって。
【長田】映像見て初めて知ることとかもいっぱいあるっていう。
【小山】そう。「僕はここが好きだから、ここは切り取ってもいい?」とかそういう感じで作ってくださったので、すごく面白かったですね。
【山下】配信はお客さん入れてやったんですか?
【長田】はい。
【山下】あれ僕も配信を見ると思うんですが、お客さんが入ってると全然違いますね。
無観客だと、やっぱり観客と一緒に作ってる感じが・・・。だから何人かでもいいから観客入ってると、全然見え方が違いました。
【長田】そうですか。
【山下】だから本当に少しでもお客さんが入ってるようだったら……。
【小山】そうですね。
【山下】あとあれですか、演出家の役割と劇作家の役割というのは集団で作っていくお仕事としての劇作、演出っていうことだと、この役割だからこういうふうにしようっていう。
CMとかでもあるんですよ。プロデューサーの役割とかディレクターのときの役割とかカメラマンの役割とかってあるんですけど、それはやっぱり意識されます?
【長田】私は本当に作家っていう専門職で入っているっていう意識でそこにいるので……。
【山下】作家だったらここは言っていいけどここは言わなくてもいいかなっていうような感じですか?
【長田】ていうことはもちろん……登場人物のことは分かるから「あなたが演じている登場人物は今私にはこういうふうに見えました」っていうことを伝えることはできる。「もうちょっと登場人物の、こういう部分を見せたいけど今はちょっと見えてなくって」ということも分かる。それをどうしたらいいのかは私には分からないっていう。
だから「そういうふうに見えます」ってことを言うということですかね。
【山下】なるほど。じゃあ割とある意味客観的なところの視点からなのかな?
【長田】たぶん単純にお客さん的な目なのかもしれないですね。
【山下】小山さんはどうですか? 演出家の役割を演じているというような。
【小山】そんなに器用じゃないので、やれることやろうくらいの感じなので。
【山下】そこは特に何もあんまり考えずに……。
【小山】そうですね。現場によっても違うし。
【山下】そっか、そうですよね。
【小山】ただ、日本だと作家さんが演出もされる方多いじゃないですか? 両方される方の場合って作家さんがいらしたときに、やっぱり演出的なことも見えるからそこの境界がない話、それはそれで面白いんですけど。長田さんの場合ってあくまでも作家さんの立場からそう見えるっていうことを俳優に伝えてくれるから、たぶん私が言ってることと全然違う角度から「はっ」ってみんな思うこととかがいっぱいあって。
【山下】それはいいですね。
【小山】そうなんです。来てくれるとすごい新鮮で。
【山下】作演をしている人が自分で作家だけして見に行くとたぶん演出で、僕らもそうですけど「俺だったらこうするな」っていうふうに思うときがよくあるんですね。そのときに僕は何も言わないんです。僕もプロデューサーしてるときは、長田さんみたいな感想を言うようにして。
編集とかで「こういうのどう?」って聞いて「試してみた?」というのは言うんですよ。で「1回考えた1回試した」って言って、こうしましたって言ってこれになったんだったら僕は「分かった」って言うんですけど、試したり考えたりしてなかったら「じゃあ、ちょっと1回はやってみたほうがいいんじゃないの?」くらいは言うんですね。
【長田】そういう意味だとプロセスは踏み込んでないです。理解してないっていうこともあるかもしれないし。俳優がどういう作業でそこに近付いたかっていうのは、例えば漠然と女優とかでもないし演出家でもないから、大変な作業をしてここまで来たんだなっていうことが一般のお客さんと同じレベルで想像はするけど。でもそこのプロセスじゃなくて登場人物と出会うっていうつもりで見てるっていう感じがありますかね。
【山下】なるほどね。物語と登場人物に出会うっていうのは面白いね。
【長田】例えば逆にモブキャストとかアンサンブルキャストの人が、何かアンサンブル的に行動したりとか一言だけ台詞を言ったりとかすることがあったりするじゃないですか? でも自分にとっては、街の通りかかってるアンサンブルとかこの世界観の中で見えてるから、俳優としてただ台詞があるから台詞だけを言ってるとかだと、すごく違和感が目立つとか。でも俳優のプロセスとして見てたらそれは今現在の頑張りとして認められるんだけど、世界から見ると「あの人はこの世界にはいない人だ」って見えるっていうか。
【山下】それはちゃんと発言されるってことですか?
【長田】そうです。
【山下】そうですよね。それは私の世界とちょっと違うことになっているということなんですね。
【長田】この世界でどういう目的があってその台詞を言ってるかとかが、必ず意図があって台詞を言ったりするじゃないですか?
【山下】はい。
【長田】意図じゃなくて音声だけを出してるなっていうのとかは、そういう人間はリアルにはいないから。
【山下】それは違うよと。
【長田】違うなっていうのは分かったりします。
【山下】さっきの繰り上がりの話になるね。
【長田】なんですか?
【山下】なぜなら、これはどういうふうにして繰り上がっているのかっていうのが分かってやってればたぶん大丈夫だけど。
【長田】そうです。舞台上にいる……。
【山下】そうじゃなくて、公式を覚えてるだけだと……。
【長田】そういうふうに見えます。例えば人を呼びたいのか注目を集めたいのか、そこの生きてる人がどういう目的で生きてるのかが見えないと何のために存在してるのかが分からないっていう違和感になっちゃうっていう。
【山下】それも大事ですよね。
【長田】うん、そうですね。でもそういうのを言ったときに、たぶん俳優さんはそれだけを言われたら。
【山下】きょとんとするかもしれないね。
【長田】困ると思うんですよ。でもそれを現実的にどういうふうな落とし込みを……きっとやってくださってるって思う。
【山下】それは演出家の小山さんがそこを上手く持って行くっていう。面白いね。
小山さんは現実的に舞台で演出するときって、距離とか尺とか着替えたりする時間ってあるじゃないですか。あれの計算で上手くつじつまが合わないときってあるじゃないですか。例えばここから着替えてこうやって出てくると時間が間に合わないとか。
【小山】はい。
【山下】そのときはどういうふうに対応していくんですか? ケースバイケースなのかな?
【小山】ケースバイケースですね。
【山下】シチュエーションとコンテクストを含めて。
【小山】そうですね。でも割とそういう仕事かなって感じですね。
【山下】そこは設計士っていうか建築士とかっていう、演出家がまさにそういうところがね。
【小山】なので長田さんがもちろん考えてくださってはいるけど、演出する人だとそこも含めて本を書いてくださったりするんだけど。
【山下】分かる、分かる。
【小山】それがいいときもあるんだけど。
【山下】そうじゃないときもあるよね。
【小山】その人と同じように考えられればいいんだけど、ちょっと違う場合って、どうしよっかな……みたいになっちゃうんだけど、もうちょっと自由に書いてくれてる感じがあって。
【長田】ただシーンだけを書いてる……。
【小山】そう。これどうするんだ? みたいな。どうすりゃ次につながるんだ? とかっていうのを考えるのが楽しかったりするので。
【山下】それは面白いかもしれないね。演出家冥利に尽きるかもしれないね。
【長田】それかなり初期の段階で、てがみ座で扇田さんと初めてやったときに話し合いをやって。「一場ものでやるのと何も考えないでシーンを沢山書くのとどっちがいいですか」って聞いたら「シーンを沢山」って言われて。
【山下】いろんなシーンを。
【長田】じゃあ考えないでいいや、書こうって。
【山下】そうなんですね。扇田さんはそれに応えてくれたんですね。
【長田】なんかやってました。だから私はもうどういうふうに演出をされるかとかは、私が想像したところで私の想像より全然違う角度から新しい何かの見方でなされることだから、私はとにかく作品というか、物語世界をどうやって舞台にするかっていうことだけを考えようっていう。もう本当に専門職としてそこだけを特化しようっていう。
あとは演出家がなんとかしてくれると思ってます。
【山下】なるほど。小山さんの演出って僕いつも思うんだけど、すごくポップな感じがするんですね。『チック』とかもすごいポップな感じがして。それはなんでかな? ってずっと考えてるんですけど。
【長田】私はたぶん、人間のチャーミングなところを出そうとされてるんじゃないかなと思うんですよね。
【山下】それがポップな感じになってくるんですかね。
【長田】っていう、見え方になってるとも思う。
【山下】選曲も含めてね、なんとなく明るい感じなんだよな。すごくポップで。それがなぜなのかっていうのが分からない。小山さんに聞いても分からないと思うんだけど。
【小山】分かんないです。でも好みとかじゃないですかね。自分の好きな世界観とか。
【長田】でもやっぱり、目の前で生きてるこの俳優の愛着とかを必ず感じさせてくれるんですよね、たとえ初見でも。やっぱり感情移入できるかどうかじゃないですか。この人愛しいと思えるかどうか。それが必ずなされているなとは思います。
【山下】そうなのかな。また小山先生のを引き続き観て、考えがまとまったらお話したいと思いますけど。
【小山】すいません。ありがとうございます。
【山下】ぼちぼち時間なんで、最後に小山さんと長田さんでまた何か新しいプロダクションとかはやったりはまだしない感じ?
【長田】やりたいなとは思いますけど具体的にはないですね。
【小山】そうですね。でも早々やりたい。
【山下】将棋とか囲碁の話を……。それはない? 静かすぎるかな?
【小山】でも今、私、観られなかったんだけど『王将』KAATで。
【山下】そうだ『王将』谷さんがご覧になった。
【小山】すごい良かった。
【山下】長塚さんが演出ですね。
【長田】観たかったですね。
【山下】むっちゃ長いんですよ。9時間くらいあるんですよ。
【小山】全部観るとね、一部二部……。
【山下】そう。谷さん1日で全部観たんですよ。
【長田】観たかったですね。
【山下】なんか新しいのをやってもらうと。「囲碁がこんなにポップになったか」とかね。「将棋が」……みたいな感じとかちょっと楽しみですけど。
【長田】せっかく歌詞も修行の道に入ったし、またミュージカルどこかで作りたいですね。
【山下】あ、そうですよね。これからミュージカルと劇作とテレビドラマ並行して色々やられるといいと思いますけど。
今後の活動予定はどうですか? 小山さんからは。今後は『ロボット・イン・ザ・ガーデン』が12月に自由劇場へ戻ってくる。
【小山】そうですね。あとは特にはまだ? 言えないのかな?
【山下】その前に世田谷パブリックシアターの……。
【山下】秋に?
【小山】秋にあって。その前はまだ……。
【山下】発表になってないですよね。じゃあそれからパブリックシアターがあってまた『ロボット・イン・ザ・ガーデン』に戻ってくると。
【小山】はい。
【山下】長田さんは結構締め切りを抱えてらっしゃる。
【長田】そうなんですけど発表できないことも多くて。発表できることは年明けにNHKで『旅屋おかえり』というドラマはもう発表されてて、原田マハさん原作のドラマ化で安藤サクラさんが……。
【山下】美術もの?
【長田】いえ、旅ものなんですけど。安藤サクラさん主演はもう発表されてるんで、それはあります。
【山下】それはじゃあシナリオ書き終わった?
【長田】それは春の撮影をしなきゃいけなかったので、もう出来上がってます。
【山下】じゃあそこは忘れて自由で。
【長田】そう。今は次の発表できてないことに日々取り組むって感じです。
【山下】なるほど。ということでまた僕もこのお2人の次回公演も行きたいと思いますけど、本当に長い時間ありがとうございました。
【小山】ありがとうございました。
【長田】ありがとうございました。
【山下】最後にお知らせです。このBRAIN DRAINではnoteを開設しまして今日この3人でお話をしたことを書き起こししてnoteにPodcast全文書き起こしとして載せていきます。
もちろん音声コンテンツとかYouTubeでもご覧いただけますので皆さんが少しでも小劇場を好きになっていただけるきっかけになっていただければいいなと思います。
ということで長田さん小山さんどうもありがとうございました。
じゃあ皆さんさようなら。
・・・・・・・・音源ここまで・・・・・・・・
テキスト起こし@ブラインドライターズ
(http://blindwriters.co.jp/)
この度もご依頼をいただきまして誠にありがとうございました。
長田さんと小山さんの優しいお声に癒されながら、ミュージカルが出来上がっていく過程をとても興味深く拝聴いたしました。
優しいだけでなく、お2人がお仕事に真剣に向かわれているお姿が、同じ女性としてとてもカッコいいと感じ、いつかお2人の作品を観てみたいと思いました。
すでに色々なスケジュールが決まっておられるとのことでご多忙かと思いますが、どうぞお体にお気をつけいただきながら頑張ってください。
ブラインドライターズ担当 角川より子