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【PODCAST書き起こし】「講談的なる落語」とは?和田尚久さんに三浦知之が聴いてみる(全4回)(その1)
【オープニング】TFC LAB PRESENTS! 集まれ! 伝統芸能部!!
【山下】皆さんこんにちは。「集まれ! 伝統芸能部!!」開幕のお時間です。この番組は普段は総合映像制作プロダクションに勤める伝統芸能好きが大集合。伝統芸能をたくさんの人に好きになってもらうために勝手にPRを頑張る番組です。ということで、今回は「落語講談、おあとがよろしいようで」ということで、前回に引き続き放送作家の和田さんに来てもらいました。MCを務めるのは山下と、Podcasterの。
【三浦】三浦知之です。よろしくお願いいたします。
【山下】では和田さん、今日もよろしくお願いします。
【和田】よろしくお願いいたします。
【三浦】和田さん、よろしくお願いいたします。
【山下】今日は三浦さん発案でテーマを「講談的なる落語」というテーマで良いですかね? そんなような話をしてもらおうかなと。
【三浦】そうですね。ではそこから引き取りますと、落語家さん噺家さんもいわゆる「講談ネタ」というものを高座にかける人が結構いらっしゃいまして、中でもずっと和田さんと一緒にお話しさせてもらっている立川談志師匠が結構「講談ネタ」を取り上げておられるので、まず談志師匠の講談のお話から入っていこうと思うんですけれども、やっぱり談志師匠は講談が好きなんですかね?
【和田】講談はやはりすごくお好きでしたね。著書の『現代落語論』にもあるけれど、2冊目の『あなたも落語家になれる』という本があるんですけど、そこには落語より先にもし講釈を知っていたら私は講釈師になったかもしれないと言っていますね。
【三浦】そう書いているのですね。
【和田】落語のほうに先に触れたので落語にあこがれたし落語家になったんだけれども、その順序がもし逆だったら講談師になっていたかもなっていうくらいお好き。
【三浦】そうなのですね。じゃあ談志師匠は落語を知って落語界に入門してから講釈のことも知るようになった。同じ芸という意味で。
【和田】そう思いますね。寄席で多少見ていたのかもしれないんですけれども、談志さんて16歳で入られているので。
【三浦】高校生ですか?
【和田】高校中退して入られているので、客席にいた年月っていうのはそんなに長くないでしょうから。すぐ入っちゃったから。入った時期が早いので。おそらくなんですけど、寄席の客席で講談を見た経験というのはたぶんあまりなかったのだと思います。入った時点では。これは何度も談志師匠が話している5代目の神田伯龍っていう人がいるんですけど。
【三浦】5代目神田伯龍。
【和田】大変名人と言われていた人で、談志師匠がものすごくリスペクトしてこれは良いと。特に『小猿七之助』という演目に関して、談志師匠がやる『小猿七之助』という講釈ネタがあるんですけど、これは伯龍のSPレコード、両面6分の。
【三浦】レコード?
【和田】レコードです。それを完コピした高座なんです。完コピプラスちょっとデフォルメというか自分の色にされているんだけれども、テキストとしては伯龍のものを、いわゆるお稽古を受けたわけじゃなくてレコード経由でやった。ちょっと補足しておくと、5代目伯龍の弟子の6代目になった伯龍さんていう人がいるんですけれども、その人に一応習ってはいるんですけれども、当時神田伯治といった、その6代目神田伯龍さんに習ってはいるんだけど、自分のあこがれっていうかやろうとしていることは5代目のコピー。
【三浦】5代目伯龍さん、伯治さんの師匠ということですね。
【和田】そうです。5代目伯龍っていう人は昭和25年くらいまで生きていた人なんですよ。しかも結構普通に生きていた人なんですよ。当時の寄席のプログラムとかを見るとそんなに見るのが大変じゃなくてわりと普通に出ている。
【三浦】寄席に出ておられたのですね。
【和田】はい。戦後まで活動していたから、例えば映画に出たりだとか、そういう活動もしていた人なんですよ。何が言いたいかというと、談志師匠って入られたのが昭和28年かな? 戦後入門されたのがね。27か28だったと、思うんですけれども。
【三浦】それは5代目伯龍さんが亡くなられてすぐ入門したくらいですか?
【和田】すぐです。3年くらいしかあいてないです。だから談志師匠がこれ本当に運ていうか、周りで講釈聞かせてくれる人とかそういう人がいたら、5代目伯龍は普通に聞けていたと思います。2、3年の差だから。ところが5代目伯龍を聞いていないんです。
【三浦】実際の高座には接していないということですか?
【和田】接していないです。だからそれ何度もおっしゃっていて、もうちょっと早く聞ければ、あるいは連れていってくれる大人が周りにいれば5代目伯龍聞けたんだけどなっていうことはおっしゃっていました。
【三浦】それでもしかしたらそっちに入門していたかもしれない。
【和田】していたかもしれないし、生で見ているっていうのはやっぱり大きなことだと思うので、それがほんの数年の差で間に合っていないので、だけどそのあこがれはものすごく強いから。
【三浦】逆にやっぱり亡くなられているからもっと強くなるのでしょうね。
【和田】そうそう。それはあると思います。僕もね、僕らのファンていうのは『小猿七之助』っていうのは談志師匠の本当に代表演目で、僕はベスト3選べって言われたら『小猿』入るんですけど、談志ネタでね。それが5代目伯龍のレコードも本当にすごくて、そこからとったっていうことを繰り返して言っているから、だからファンもすごく神格化しちゃうんですよ。5代目ってすごい人だったのだろうなって思うわけですよ。さっきも言ったようにこの5代目伯龍っていう人は当時よくあるんですけど、映画に時代劇なんかで出ていたりするんですね。役者としてね。それを見るとわりと普通というか、普通って言ったら失礼なんだけど、そんなに神様みたいじゃないんですよ。
【三浦】どこがそんなにすごいんだろうと。
【和田】扱い的にもね。だから当時は寄席に出ている1枚の看板だったのだろうなと思うんですけれども、今何本か映画があって残っているんですけれども。
【三浦】どんな役で出演されていたのですか?
【和田】僕が見たのは『さつまいも太平記』という映画がPCLからあって、どんな役でしたかね。ちょっと役忘れちゃいましたけど、でもなんか着流しみたいな感じで。
【三浦】でも『さつまいも太平記』っていうタイトル自体がもう面白いですよね。何でも後ろに付けるのが太平記になっちゃうんですよね。
【和田】そんなに重々しい作品じゃないんですよね。『さつまいも太平記』って言っているんだから。
【三浦】そういうふうに予想できます。
【和田】予想できますよね。
【三浦】これ今でも見られるのですか?
【和田】見られますよ。
【三浦】本当ですか?
【和田】あとその他もあって、なんだっけな。ちょっと忘れましたけど何本かあります。ちなみに林家彦六。
【三浦】はい。8代目正蔵。
【和田】あの人が戦後まで蝶花楼馬楽っていう名前でやっていたけれども、それも結構映画に普通に出ていて、それも長屋の子町人みたいな役だったりとか、なんかちょい役みたいなものですよね。だから昔はタレントっていうのがあんまりいなかったから。
【三浦】そうですね。今みたいな芸人さんみたいな人はいないですよね。逆にいうと落語家さんたちや講談師がみんな今の芸人の代表っていうことですよね。
【和田】あとは浪曲の広沢虎造なんかも映画によく出ていますし。虎造は出てもあんまり正直脈絡はないんだけど、歌っていうか節をきかせるみたいな場面があって。
【三浦】なるほど。突然出てくると。
【和田】あと『エンタツ・アチャコのこれは失礼』という映画があるんですけど、それも筋とあまり関係ないんだけど、途中で漫才やられるんですよ。
【三浦】エンタツ・アチャコの二人が漫才やられる。
【和田】だからそれも長屋の住人みたいな役なんだけど、長屋の住人とこっちの記録さんと製作さんみたいなのがあって、「おまえこの頃どうしているのや」みたいな感じでネタに入るんです。
【三浦】急に漫才になる。良いですね。昔は歌手とかが主演する映画だと歌になるとかそういうことですよね。やはり得意芸を映画の中に持ち込んでくるっていう。面白いですね。
【和田】談志師匠はあとは前の神田松鯉さんだとか小金井芦州とか名前上げてらっしゃいましたけれども、松鯉さんなんかわりと好きだったんじゃないかな? 2代目のね。
【三浦】2代目松鯉。
【和田】だから今の松鯉さんの前の松鯉さんはよく物まねとかもされて。
【三浦】今の松鯉さんて3代目なのですか?
【和田】3代目だと思いますけどね。
【三浦】この間、人間国宝になられた松鯉さんですよね。私などは2代目松鯉さんというのはもう活字でしか知らなくて、当然談志師匠は2代目松鯉さんの高座は見ているのですね。
【和田】見ています。よく物まねとかもされていて、ただ面白いのは別にうまくなかったって言うことを繰り返し言うんですよ。うまくなくて独特の口調でちょっと私再現できませんけど、こういうような感じで『お富与三郎』とかでもやるっておっしゃって。でもそれを繰り返し、繰り返しおっしゃってそれを聞いていたということを語るんだから愛着があるし、好きだったのだろうなと。
【三浦】うまくないとか言いながらも。
【和田】名人タイプではなかったらしいです。
【三浦】味があったのですね。
【和田】そういうことですよね。
【三浦】さっき出た『小猿七之助』の5代目伯龍のSPレコードっていうのは長さ何分ておっしゃいました?
【和田】SPレコードっていうのは当時の? 会社によって微妙には違うんですけど基本的には表3分・裏3分。
【三浦】じゃあ6分くらい。これ当然ずいぶん縮めているわけですよね。
【和田】そうですそうです。
【三浦】エッセンスみたいなものを。
【和田】だからそれプラス伯治さんていう弟子に教わって、談志師匠の『小猿』は20分くらいあったので、そういうふうにしたということです。
【三浦】5代目伯龍師匠のSPの部分は完全にコピーしてあり、かつ伯治さんに教わったものを肉付けして自分の話として。
【和田】やっていたのだと思います。これははっきり言って僕はお弟子さんの6代目伯龍さんが『小猿』を当然やってらしたし今CDになってあるんだけど、僕の個人的感想で言うとやはり談志師匠のほうが正直良い。談志師匠のほうがデフォルメしている部分も含めて緩急というかな、空気を締めたりとかそういうのが本当に素晴らしい。自分の手のうちに入れてやってらしたので。
【三浦】談志師匠ご存命になっていたころ、晩年の結構長い期間ずっと落語が好きな人たちと一緒に談志師匠の高座って通っていたんですけど、実は私談志師匠の『小猿』って聞いてないんですよ。とてもとても残念です。何回か行っていない回があってそれで聞いてないんですよね。だから聞いた人がすごくうらやましいんですけど、ちなみに『小猿七之助』ってどういうお話かというのを簡単に伺ってもいいですか?
【和田】網打ちの七蔵っていうのがおりまして。
【三浦】漁師ですか?
【和田】漁師。佃とかね、東京湾の。七蔵って言ったり七五郎って言ったり台本によって名前違うんですけれども、とにかくその網打ちの親方がいます。その人が自分のイカサマばくちをしたりだとかちょっと悪いことをしているような人なんですよ。
【三浦】任侠っぽい話ですか?
【和田】任侠っぽい。人のことだましたりとかばくちで金巻き上げちゃったりとかそういうようなことをしている人なんです。で、その網打ち七蔵って言う人がいます。七蔵だったり七五郎だったりするんだけど、その人の子供が七之助という人なんです。
【三浦】なるほど。
【和田】これって『三人吉三』ていう歌舞伎の。
【三浦】『三人吉三』て、有名ですよね。
【和田】あれにちょっと似ているんですよ。『三人吉三』ていうのは結局和尚吉三ていう人がいて、その父親の土左衛門伝吉。
【三浦】土左衛門伝吉。
【和田】土左衛門伝吉が過去にいろんな悪事を働いて刀を盗んだりだとか、なんだとかっていうのが、その罪が自分にかかってきちゃうっていう話なんです。大づかみにいうと。この『小猿七之助』もたぶんその影響下にあるのかなっていう気もするんですけど、その網打ちの七蔵がいろいろ悪いことをしました。
【三浦】お父さんが。
【和田】お父さんがしました。それがこのファミリーに降りかかってきちゃう。
【三浦】なるほど。十字架のようにずっとついて回る。
【和田】ついて回って七之助っていうのは船頭をしているんです。お父さんが漁師だから子供も船頭になったのかもしれないんだけど、漁師じゃなくていわゆるお客さんを乗せる船頭ですね。乗合船の船頭をしている。柳橋からこの浅草の山谷堀に行ったり来たりだとかそういうことをやっているんだけど。あるときに身投げをした若者がいるんですよ。隅田川にね、どぼーんと。そこに通りかかって助けてやるんですよ。助けてやるんだけど話を聞いてみると。
【三浦】飛び込んで溺れそうになっているところを助けるのですか?
【和田】そう。溺れているところを助けるんです。溺れているまさにその瞬間を助けてやって、「おまえなんで命を捨てたんだ」とかなんとかってあって、話を聞いてみるとイカサマばくちで金を巻き上げられてそれが店の金ですと。とても生きていられませんと。そこらへん『文七元結』とかに似ていますよね。
【三浦】そうですね。『文七元結』に似ていますね。
【和田】七之助がそうかって話を聞いて、ひどいやつがいるもんだみたいなことを言っているんだけど。
【三浦】それお父さん、巻き上げられたっていう話ですね。
【和田】それでそれに気づいて七之助はそいつを手代の幸吉っていうのがいるんですけど、それをまた隅田川に突き落として殺しちゃうんですよ。
【三浦】つまりお父さんを大事にしたということですよね。
【和田】そうですよね。お父さん優先で、でもおやじとはずっと会ってないんだけどまだイカサマばくちやっていたのかってそれも瞬時にわかって。
【三浦】すぐに俺のおやじだっていうのがわかるわけですね。
【和田】話でわかって。そういうようなすじがあり、それからその屋根船に一緒に乗っている芸者がいるんですけど、それがお滝っていうんだけど、御守殿のお滝という芸者を乗せているんだけど、それとちょっと色模様になったりだとかそういう話があって、それからまた全然別の筋で七之助の妹っていうのがいるんだけど、そこがやはり父親の因果で非常に不幸な目にあったりとか、そんな話です。大づかみに言うと。
【三浦】なるほど。立川談春で1度聞いたことがあってちょっと思い出してきました。談春もやりますよね。
【和田】やります。たまにやります。この間紀伊國屋ホールでお正月に、あれの初日に出していましたね。だからやっぱり初日の初日だから。
【三浦】やっぱり自分としては大事にしてやりますよね。
【和田】逆に言うと公演の頻度は低いですから。
【三浦】そうですね。だから談春の高座も落語を聞く仲間で行っているんですけど、そのときにやっぱり何回か行けなかった回で『小猿』をやっていたときがあって、皆さんすごい「三浦さん来れなかったんだ。良かったよ。談春の『小猿七之助』」ってみんな言いますものね。
【和田】そうでしょうね。談春さんのは、また談志師匠のコピーなんです。ほめ言葉として。やはり大事にされているので、僕も何度か聞いたのはとても良かったです。ちなみにやる場面ていうのは、今言った父親の犯罪とか悪事の場面ていうのは、談志師匠とかもやらないで、そこの船のところだけなんですよ。船に乗って芸者と一緒にお滝っていうのを乗せて七之助の船漕いでいると。そうすると永代のところから若い人が飛び込んだ。
【三浦】幸吉ですよね。
【和田】幸吉。田島屋の幸吉が飛び込んで助けてやる、話を聞く、また突き落とすみたいな1場面があるんですけど、1話。もう発端に近いところなんですけどね。
【三浦】抜き読みみたいなものですか?
【和田】完全に抜き読みです。そこだけをやる。
【三浦】なるほど。講談師は一応全部やったりするのですか?
【和田】人によると思いますけど、その亡くなった6代目伯龍っていう人がいたんですけれども、その人は全談やっていました。
【三浦】全談やってますか。
【和田】音も残っていますね。
【三浦】じゃあ例えば講談の会をいろいろ足しげく通えば『小猿七之助』に出会える可能性もあるということですか?
【和田】あります、あります。
【三浦】私も講談そんなに聞いてきてないんですけど、昨今大人気の伯山、松之丞を数年前に初めて聞いてから結構講談の会行くようになったんですけど、実は松之丞でも『小猿七之助』って聞いたことがなくて。むしろ、談志師匠がやっていたとか、談春がかけていたっていう頻度に比べると講談師今やらないのかななんて思いますね。
【和田】そうかもしれません。講談の業界内のことってよく知らないんですけれど、5代目伯龍っていう人は代表演目だったので、そこからちゃんと継承してきている人じゃないとやりにくいのかもしれません。
【三浦】なるほど。そうですね。
【和田】全然無関係な人が音で覚えてやっちゃいましたっていうのはあんまりよろしくないのかもしれません。
【三浦】談志師匠はSPレコードも聞いていたし、かつ、お弟子さんからも稽古はやっているから。
【和田】だからそこはちゃんと手続きしていますよね。ちゃんと習っているわけだから。ちなみに、談志師匠の『小猿』は小学館から出ている『昭和の名人』というCDと冊子が一緒になったシリーズがあるんですけど、あれの最後に出した巻があって、それが東宝演芸場というところでやった『小猿』『源平』『勘定板』だったかな。その3席が入っているのでこれは非常にお勧めです。千円くらいですから。
【三浦】『小猿』『源平』『勘定板』。『勘定板』ってちょっと汚い話ですよね。
【和田】だからそれはオチなんです。
【三浦】面白いですね。
【和田】すごくスペシャルないい席をやって、3席目は無理だと。いきなり落とすという。
【三浦】そうか。ご存命当時もそういうことしていましたよね。最後にね。
【和田】していました。最後にとか、談志師匠ってすごくスペシャルな講座だぞっていうときにしょうもないネタかけるんですよ。
【三浦】良いですね。そういうところが。かくっとくる。
【和田】なんでこれなのっていう。
【三浦】ひざの後ろをこくっと押されたみたいな感じで。面白いですね。そのSPというのは音源は復刻されていたりするのですか? それはさすがにないですか?
【和田】それがですね、SPレコードっていうのは残っているものもあれば残っていないものもあったりいろいろなんですけれども、アンサーとして言いますと、SPレコードはあります。それで実は僕もCDや何かの製作者でもあるので、復刻して出したいんですよ。理屈を言ってしまうと5代目伯龍の録音ていうのはパブリックドメインになっているので、出しやすいんです。それをちゃんとしたかたちで残っているものがあるので出したいなと思っているんですけど。これちょっと話それちゃうんですけどね、結局昔の古い録音て特に著作権が切れているもの、パブリックドメインのものは誰でもある意味出せますでしょ。録音があれば。手続き上は。
【三浦】そうですね。
【和田】それで、5代目伯龍なんかの音が、何席か入れた『暗闇の丑松』とか入れたのがCDで出ていて、しかもそれが300円とか500円で、駅前で売ってるのわかります? ワゴンで売っている。
【三浦】ありますね。ものすごく安く。
【和田】ああいうので出ちゃっているんですよ。
【三浦】投げ売りみたいな感じで売ってる。
【和田】あれは僕は非常に良くないと思うので、結局値打ち下げることにしかならないので。とはいうもののああいうかたちで出ちゃったら、今度、それを3千円で出すっていうのは難しくなってしまうんですよ。
【三浦】昔500円とかでさんざん売っていたものを。
【和田】そう。駅前で300円で売っていましたよねっていう話になっちゃうので。
【三浦】でももうそれ知っている人少なくなってないですか?
【和田】まあそうなんですけどね。だからそれちゃんとしっかりリマスターして作ればいいんですけど。だから著作権切れで世の中に出るっていうことのすごく良い面と、それがなんか安売りみたいになっちゃってもういじり放題になっちゃうという面とね。
【三浦】難しいところがあるのですね。
【和田】落語でいうと初代春団治という人がいて。
【三浦】初代春団治。上方。
【和田】上方の昭和の頭くらいまでいた人ですけれども、大正時代からね。
【三浦】歌になっているのは初代ですか?
【和田】それです。「芸のためなら 女房も泣かす」のね。その人はやはり初代春団治ってものすごく人気があったので、SPレコードから結構CDになって、ていうかその時代の録音しかないんですよね。それで結構出てはいますね。今まんま聞いて面白いかっていうと難しいかもしれない。でもそのすごさはわかります。
【三浦】当時の臨場感とかそういうのが当然感じられますよね。
【和田】そうですそうです。
【三浦】ライブですか?
【和田】いや、初代はスタジオ録音です。
【三浦】スタジオ録音ですか。
【和田】スタジオ録音で、さっき言ったように本来20分30分あるネタも。
【三浦】そうか。それを6分くらいにするのですね。
【和田】6分。ちなみに当初のSPレコードというのは本当に人気者の場合、例えば3枚組とかっていうのがあるんです。そうすると1巻目、2巻目、3巻目ってそれをセットで売るわけです。そうすると18分入る。それで1席つながる。
【三浦】なるほど。
【和田】だから昔の戦前のクラシックのレコードと一緒です。
【三浦】そうですよね。
【和田】だからワーグナーの曲とかいったら10巻くらいで1曲とかね。
【三浦】膨大ですね。ベートーヴェンでも30分とか40分とかある曲が普通だったりするので。5枚組とかになるわけですね。
【和田】だからあれですよ。フルトヴェングラーとかああいう人たちもそういうSPのものしか時代的にないわけだから、それをつなげて今。
【三浦】フルトヴェングラーも1954年くらいにたしか亡くなっていますものね。
【和田】そう。まあ欧米は長尺録音ていうのが、日本よりも早く始まったので、そこの端境期なんだけれども基本的に古いものっていうのはSPでいっぱい残っているので。話それますけどSPレコードで内容の良いものっていろいろありますからね。そういうもの探したらとても面白いと思いますけどね。
【三浦】SPレコードって今普通のターンテーブルとかで聞けるんですかね?
【和田】ターンテーブルは基本的に。
【三浦】あれ78回転かなにかでしたっけ?
【和田】そうです。だからそれがかかるのであればかかります。
【三浦】78回転がかかればなのですね。
【和田】かかるのもあるんですね。だから今あまりなくなりましたけれども、78回転かかる、それからそれ用の針であれば原理は後のLPとかと一緒ですから。
【三浦】戻ると、音源はあるんだけれどもちょっと今復刻しづらい状況にあるということですよね。
【和田】そうですね。だからあれだな。まあ僕が三浦さんに聞かせるのは簡単なんですよ。僕の家にあるから。
【三浦】なるほど。
【和田】それ差し上げるのはものすごく簡単なんだけど、そういうのを著作権が切れていると解釈すればそれこそYouTubeとかにあげてみんなで聞きましょうよ無料で、というのもなくはないですよね。
【三浦】そうですね。やはり談志師匠はこれを聞いて完コピしたっていうのは聞いてみたいですよね。だからさっきの『小猿七之助』の内容を和田さんから聞いてもやはりすごく面白い話ですものね。
【和田】そうです。談志師匠がおっしゃっていたのは、そこの発端の船に乗って七之助が船頭やってるところをやるんだけど、そこからあとっていうのはいろいろ因果ものになって妹が病になったりとかいろいろあって、後ろあまり好きじゃないんだよねっておっしゃっていて、だから自分がほれたのはあくまで5代目伯龍のレコードで聞いた要するにとても風情がある隅田川とか、山谷堀とか、佃島の辺りとかそういうのの風景が描かれているし、芸者と船頭が二人きりで船に乗って色模様みたくなるっていうのが場面として良いわけですよ。
【三浦】それ、時代設定っていつ頃の話になってます? 江戸ですか?
【和田】もちろん江戸です。雰囲気は幕末ですね。
【三浦】要は江戸の風、幕末の風みたいな風情ということですよね。
【和田】だからいわゆる談志師匠がおっしゃった彼の言葉でいうところの美学ということですね。内容じゃなくてそういう風景とか。
【三浦】醸し出す風情ですよね。雰囲気。
【和田】それをものすごく優先している演目ということですね。
【三浦】5代目伯龍にはそれが存分にあったということですね。
【和田】そこがパラドックスで面白いのは、でもそのリアルな空気は残念ながら体験してない。3年くらいの差で。だから夢見ている部分もある。そこは面白いなと思います。
【三浦】そうですね。つかもうとしてもつかみきれないようなもどかしさもありながら、そこを再現しようとする。それは素晴らしいですね。あとは『慶安太平記』を談志師匠の講談ネタだと忘れることはできないんですけど、これも結構あっちこっちでやっていますよね。
【和田】慶安はやってらっしゃいましたね。これも全談のうちの一部ですけどね。
【三浦】そうですね。
【和田】4席あったのかな。やってらしたのは。
【三浦】そうですね。実は『慶安太平記』も残念ながら談春師匠でしか聞いてないので、談志師匠の『慶安』てたしか聞いたかどうかもう記憶にないくらい。ないかもしれないですね。
【和田】晩年はあまりやってらっしゃらなかったと思いますね。
【三浦】幸い結構音源がありますものね。談志師匠の。善達が芝、増上寺を出発するところから。
【和田】あそこ、めちゃくちゃ面白いですよね。
【三浦】面白いですね。
【和田】あそこが談志版及び談春版の1話目なんです。その御用金を囲むときに善達というのに目をつけられてお金を奪い取るとかいう話になって、吉田の焼き討ちに入って。
【三浦】吉田の焼き討ちもスリリングですよね。
【和田】そうですそうです。で、あそこまでだったと思います。あそこから先はやってらっしゃらなかったと思うんですけれども。
【三浦】あとはそこの手前の宇津ノ谷峠ももちろんやってますよね。
【和田】そうです。だからあそこはつながっているんですね。
【三浦】そうですね。つながっていますね。
【和田】はい。善達というのが結局、徳川家に対しての革命を起こしたいと思っているわけなんですね。
【三浦】善達の出立のときに追いかけてくる飛脚がいるじゃないですか。あれもなかなか良いキャラクターですよね。それで御用金狙っているわけですよね。当時滅ぼされた大名っていうのの恨み、徳川家に対する恨みをいろんな家があって、それが全部結集してくる感じが面白いですよね。
【和田】あれ本当はお話としては由井正雪。
【三浦】由井正雪ですよね。慶安の変。
【和田】幕府倒しちゃうぞっていう話なんですけれども、あそこに関していうと結局由井正雪がほとんど出てこないです。
【三浦】出てこないですよね。ほとんど最後でしか出てこない。
【和田】最後にちらっと登場するんですよ。
【三浦】自害するところですかね。
【和田】自害するところじゃなくて、あそこの由井正雪がさらに計画を立てているこの上の人なので、姿を現すっていうところがあったと思います。知恵伊豆という、逆に幕府側の伊豆守が吉田が火事になったのを見てこれは不審であるなというので、馬の上から見て。
【三浦】不審な動きをしている二人を見つけるんですよね。
【和田】そうですそうです。そこもちらっと出てきて、だからこの人たちが大活躍する談はもっと全然別のところにあって、その手前の抜き読みなんですけれども。
【三浦】あの辺の知恵伊豆のあごの上から善達ともう一人の役を探している感じってすごく臨場感がありますね。音源だけで聞いていても目に浮かんでくるような感じですよね。あと吉田の焼き討ちでいろいろ飛脚が仕掛けるじゃないですか。あの辺面白いですよね。あの老夫婦の家の床下仕掛けて「あらおじいさん」みたいな、花火がみたいな。
【和田】ああいうところがやっぱりお話があったとしても自分の談志用語でいうところの感情注入みたいな感じで人間っぽくしていくっていうのが非常にうまかったのかなと。
【三浦】そうですね。
書き起こし担当:ブラインドライターズ:越智 美月
ご依頼をいただきありがとうございます。
講談ネタのあらすじや当時の録音事情について知ることができてとても勉強になりました。
今はCDがありますし、CDを買いに行かなくてもYouTubeなどで何時間の演目であっても聞くことができますが、当時は長いものを短くまとめたり、何枚ものレコードを使って作成したりするなど、作るほうも聞くほうも大変だったのだということがわかりました。やはり生のものを聞くのが一番良いですが、聞きたいときに聞きたいものを聞きたいだけ聞けるというのはとても良いことですね。
今後ともよろしくお願いいたします。
テキスト起こし@ブラインドライターズ
(http://blindwriters.co.jp/)