iakuの劇作家・演出家:横山拓也さんに創作について聞いてみた!(全4回)その2「iaku創設からの活動」
iakuの劇作家・演出家:横山拓也さんに創作について聞いてみた!(全4回)その2「iaku創設からの活動」
【山下】それでiaku(いあく)を立ち上げたんですが、iakuというのはそもそもあれですか? 横山さんが中心となって、劇団員とかはいたんですか?
【横山】いや、もう僕個人のユニットです。
【山下】ソロですか?
【横山】ソロユニットです。はい。
【山下】なるほど。ってことは公演ごとに、例えば上田(一軒)さんに演出をお願いしたりとか、俳優さんを集めてっていうようなことをされたと。
【横山】そうです。当初はその都度制作もお願いし、っていう、本当全員スタッフからなにから全員お願いして集まってもらって、って事ですね。
【山下】なるほど。それがじゃあ2012年からのやつかな?
【横山】はい。
【谷】iakuっていう名前はどういう意味なんでしょうかね?
【横山】そう、よく聞かれていろんなところでも答えているんですけど……漢字で帷幄(いあく)って書けて、熟語なんですけど。戦国武将とかが戦に出かけて行って、夜にたいまつとか焚いて待ってるシーンとか時代劇であると思うんですけど、あの時に張り巡らしてる布を帷幄っていうんですけど。
【谷】へえ。
【山下】ああ、あれ帷幄(いあく)っていうんですね。
【横山】そうなんです。それが転じて「作戦を練る場所」とか、そういう意味があって……。
【山下】なるほど。
【谷】なるほど。
【横山】それをアルファベットで書いたっていう。
【山下】たくらみの場所なんですね。
【横山】ええ。
【谷】戦略の場所ですね。
【山下】小文字にするのもなんかあったんですか?
【横山】いや、それはちょっとアルファベットにしたら、しゃれてるなって思ったのと、あと僕、MONO(もの:劇団)にずっと憧れてたんで……。
【山下】ああ、そうか。ローマ字で。
【横山】ローマ字で。
【谷】なるほど。
【山下】ローマ字で。そこは通底してますね。なるほど。あの、横山さんの作品は、いつもなんか……あるひとつのテーマとか設定が?
【横山】はい。
【山下】例えば関西の貝を取る漁港の話とか、あとはLGBTQの人の話とか、あと自殺をする女子高生の話とか、なんかテーマみたいなものが少し、一個ずつあって。今回の『フタマツヅキ』も落語家の話とか。そのテーマを決めるのは毎回どういうふうにされているんですか?
【横山】うーんと……すごいメモを取るんですよ。スマホのメモ機能を使って、新聞記事とかもそうですし、本とかテレビとかいろんなところから、ちょっと気になるワードとか拾いあげたり、気になるニュースのひっかかる部分を拾いあげたり。単語1個の時もあれば、記事そのものを写真撮って残しておく事もあるんですけど、そういうのを積み重ねていって。僕自身は、そういった社会的に問題になっている事を取り立てて、社会に投げかけていくっていうスタンスでやっているつもりはないんですけど、その問題に関わらざるをえない人たちの挙動みたいな部分や、行き違いとか、それぞれの正当性のぶつけ合いとか、そういうところ人間味があふれて出てくるものだなあと思っていて、なんかそういう事が……そういう題材と人物と、なんかこうイメージがこう重なった時に「あ、書けそうだな」と思ったところでいきます。
【山下】なるほど。
【横山】だから必ずしも、その時に時事的なものを拾ってというよりは、積み重ねたメモの中で、パッと合致したものをアイデアと何かはまったものを……。
【谷】放り込んでくるような事ですね。
【横山】そうです、ええ。
【山下】面白いなあ。でもなんか、メッセージが強くガンと前に押し出すというよりも、関係性の中で生まれてくる? なんかそういったものをすごく繊細に紡ぎ出していって、せりふとかにされてて、その深さが、やっぱり今すごく最近、この前のiakuの作品を観た人とかが「すごい良かった」って、すごく増えてて、それが今の時代にみんな、こう刺さってるんじゃないかなっていうふうに思います。
【横山】ありがとうございます。
【山下】すごくそう思います。で、最初横山さんが、僕最初観た時に、大阪弁の舞台やったんですよ。で、なんかその大阪弁、っていうか関西弁を使うのとそうじゃないのってなんか書き分けていらっしゃるんですか?
【横山】そうですね、当初は大阪の劇団っていうことをもっと推していこうと思って、関西の言葉で演劇作っていくっていうスタンスでずっとやってきていて。最近は自分自身が東京に住んでる事もあって、東京の俳優集めて稽古する事も増えて、そうなるとわざわざ大阪弁をしゃべらすのは良くないと。
【山下】いやですよね。
【横山】そうなんです。関西の人、特に厳しいじゃないですか。
【山下】いややわあ、って思うもんね。
【横山】そうですよね。なので、集まってくれる俳優さんに合わせた言葉で……そうとはいえ、いわゆる標準語と関西弁とかどっちかなんですけど……で書くっていうふうにしてます。
【山下】そうすると昔書かれた、その関西の貝塚の方でしたっけ、あの、貝……漁港の……。
【横山】『流れんな』ですね。
【山下】あ、『流れんな』。
【横山】『流れんな』はそうですね、なんかこう、関西の……。
【山下】あれを例えば、千葉に置き換えたりするっていうのはありなんですか?
【横山】ありだと思います。
【山下】あり。ああ、なるほどね。
【横山】もしかしたら、関西のリズムで書いてるのでちょっと違和感が出てくる可能性もありますし、実際そういうふうに関西弁で書いたものを標準語に変えた作品もいくつかあるんですけど。
【山下】あ、なるほどね。
【横山】やはり関西のリズムですね、みたいな事も言われますし。
【山下】それもあるんだ。
【横山】ちょっともしかすると違和感が発生するかもしれないんですけど、でもそこは……なんか僕はどちらでも書いて、発表できればうれしいと思ってますけどね。
【山下】ですよね。横山さんの作品って割と何回も再演が行われていて、あるひとつの、いくつかの作品を丁寧にもう一回掘り起こして、掘り起こして、で、その作品自体を深くしていく……みたいなのをすごく感じるんですけど、本人は意識してやってらっしゃるとかあります?
【横山】そうなんです。iakuを立ち上げた時の方針として、作品の使い捨てにならないように1本1本……自分で言うのもあれですけど、名作になるように目指して。
【山下】やっぱり、そうなんですね。
【横山】やっぱりブラッシュアップ、再演の度にブラッシュアップできるような、そのぐらい骨太な作品を作って、10年経っても古くならない戯曲っていう事を意識してはずっと書いてますね。
【谷】ああ、なるほどね。それで、あれだ。『The last night recipe』だけはちょっと違うテイストになった、って、書かれてましたよね?
【横山】はい、そうなんです。
【谷】あの時代だけの、ある意味ね。
【横山】2020年で本当にコロナの真っただ中で、新作作るって事にここ最近で一番苦しんだ作品です、はい。
【山下】コロナの真っ最中ですね、これ書いたの。一番ひどい時。
【谷】マスク、してましたもんね。
【横山】はい、芝居の中でも。
【谷】壇上でもね。
【山下】そうですよね。だからそういう意味で言うと、この前三鷹でやった「あいにくのあめだけど」(生憎の雨だけど、のアクセントで発言)……『逢いにいくの、雨だけど』を僕、初演と今年の再演観たんですけど、その再演になった時の進化の仕方がすごいと……ブロガーで「てっくぱぱ」さんっていう人がいるんですけど、この前オンラインで話してて、その人と僕はそこはすごく共通したんですよ。
【横山】はいはい。
【山下】で、初演より再演のほうがより深く、良くなってる。で、こういうのってあんまりなかなかない。
【横山】はい。
【山下】で、演劇賞とかって再演をなんか少し……再演だからっていうみたいなところがなんかあるような気がしてて、いや、僕はそうじゃないんじゃないかな、っていうのを今年は感じました。
【谷】なるほどね。
【山下】今回の『逢いにいくの、雨だけど』を観てすごく思ったんです。
【横山】ありがとうございます。
【山下】それを俳優さんたちの進化とかも含めてなのかもしれないんだけど、それはなんか、ちょっと本当に驚きました。
【横山】やっぱり初演は、台本に追われるんですよね、本当に。もちろん稽古始めまでにある程度書きあげてますし、だけどぎりぎりまで構成を粘って、もう切り貼りして、シーン入れ替えたりとかもで、何が一番最良の形なのかやっぱ分からないので。
【山下】なるほどなあ。
【横山】最後まで粘って。で、舞台美術も実は初演の時のほうがすごく急な階段で……。
【山下】そうでしたよね。
【横山】手摺りももちろんない中で、一番高い所で7メートルぐらいあるような。
【山下】ただ、インパクトありましたよ。
【横山】そうなんです。もちろん、あの美術はめちゃめちゃ僕も良かったんですけど、やっぱ俳優が全然自由になれなかったんですね。
【山下】身体の動きが、規制がされちゃいますよね。
【横山】で、あの階段で1カ月稽古できたわけでもないですし、そこは本当に反省点で。
【山下】ああ、なるほど。
【横山】で、その上で再演の時に、舞台美術をもっと俳優の体が生きる関係性にして。で、戯曲は正直ほとんどいじってないんです。ただ演出でやれる事は格段に増えて。
【山下】変わってますよね。全然変わりましたね、印象が。
【横山】やっぱり読み込みと、俳優の理解と、その時間が十分に取れたっていうのは大きかったと思います。
【山下】いや、でも、本当に再演のほうが面白いっていう事があるんだな、という。
【横山】はい。
【山下】「今後、小劇場も新作主義じゃなくてええんちゃうか」っていうふうに、だんだん思ってくれるといいなっていう。
【横山】そうなんです。僕はもうずっとiaku立ち上げの時からそうなんです。新作至上主義へのアンチテーゼとして再演を……。
【山下】そこはメッセージがあるんですね。
【谷】なるほど。
【山下】なるほど。あの、横山さんが上田一軒さんに演出をお願いしているやつもありましたけど、これを観ると2018年以降は割と自分、ほぼ自分で演出される事が増えているんですか?
【横山】はい、そうですね。それがさっき言った、東京で稽古する事が多くなってきた時期ですね。
【山下】あ、そっか。それは、上田さんは大阪にいらっしゃる……。
【横山】大阪で。僕も誘ったんですよ。東京一緒に来ませんか、って言ったんですけど、なかなか家庭の事情もあり。
【山下】そりゃそうですよね。
【横山】はい。
【山下】ではそういう物理的な事情もあってのあれなんですか。でも横山さんは、劇作家としての横山さんと、演出家としての横山さんがいるとしたら、やる事全然違うじゃないですか。
【横山】はい。
【山下】その時は、なんか、どうですか? 実際演出をされる時のあれとっていうのは。
【横山】自分自身は劇作をしている時のほうが自分の仕事をしている感じがしていて、で、演出は常に勉強させてもらっているって感じなんですけど。
【山下】なるほど。
【横山】ただ、ようやくこの1、2年で「あれ、演出なかなか楽しいな」と思えるようになってきたんです。ただ、まだ自分の作品を立ち上げるところしかやれないといいますか、例えば古典とか、他の方の作品を演出しろって言われた時に、楽しんでやれるかまでは、ちょっとまだ分からないんですけど。
【山下】なるほど。
【横山】ええ。
【山下】でも、作家だけだとは作演でも、自分のやつだったらできるかな、面白いかな、って思ってこられたって事ですね?
【横山】そうですね。最初に言った学生劇団からやってた頃は作・演出やってたのに、もう、演出の仕事はこんなに難しいんだって事を知ってしまってから離れてたんですけど、今はちょっと楽しめそうですね。
【山下】なるほどね。
【横山】はい。
【山下】僕らCMのお仕事が多いんですけど、CMを……ディレクターとプランナーってのがあって。で、最初プランナーでみんなやるんですけど、企画を出したり。で、演出をするんだけど、演出っていうのは、ある経験がどんどん積み重なっていくと、どんどんうまくなるんですよね。
【横山】ああ、そうですよね。
【山下】そう。で……ただ企画は3年目ぐらいで、ものすごい、爆発的なおもろいやつを出す人がいるんですよ。
【横山】はいはい。
【山下】だから、書く事と演出をする事が、そういう違いがあるんだなと。
【横山】ああ、確かにそうかもしれないですね。ほとばしるような才能で物は書けますもんね。
【山下】そう。そうです。それがたまたま「ぽこっ」と出る時があるんですよ。でもね、それ続かない、だいたい。
【横山】はいはい。
【山下】で、逆に言うと横山さんは、今、すごく筆がのってらっしゃいますけど、演出も面白かったらそれをずっと積み重ねていくと、それはそれで楽しいのが増える、人生もっと楽しくなると思う。分からないですよ。揉めるかもしれないけど、いろんな俳優さんとね。
【横山】そうですね。
【山下】やっていくと、今回もモロ(師岡)さんとかね。
【横山】そうですね。
【山下】やったりするといろいろと面白い事が起きると思うんで。
【横山】はい。
テキスト起こし@ブラインドライターズ
(http://blindwriters.co.jp/)
担当:木村 晴美
いつもご依頼いただきありがとうございます。
初めて耳にした劇団、舞台のタイトルでした。YouTubeより、横山さんの作品に対して解説している方のお話を聞きました。『フタマツヅキ』『逢いにいくの、雨だから』『The last night recipe』、どれも「しみじみとしたあたたかさ」があるとお話されていました。何かしら問題を抱えた家族であったり、葛藤があったり、でも観終わったあとは家族への思いが強くなるような作品だということでした。時代を行ったり来たりの演出も、観客に背景が伝わると。社会的な問題を考えさせられながらも、最後には心にあたたかさが残る作品だということで、私もその世界に触れてみたいと思えた解説の方のお話と、今回のみなさんのお話を聞いて感じました。今はなかなか東京、大阪に足を運びにくいので、私の住んでいる街でも公演していただけたらうれしいです。
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