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【PODCAST書き起こし】上方の木積秀公さんと和田尚久さんが「上方落語」と「東西落語」について語ってみた。(全5回)その3

【PODCAST書き起こし】上方の木積秀公さんと和田尚久さんが「上方落語」と「東西落語」について語ってみた。(全5回)その3

【和田】上方落語って、A地点からB地点に行くプロセスのような感じがするんですよ。
それが上方落語の本質かなと思って。

【木積】AからBまでのプロセスが大事。

【和田】プロセスが大事で、プロセスを聞かせるから、そこは迂回とかすんなりいかないところに面白さがるような気がするの。
だからよく言われるのが『まんじゅうこわい』。

【木積】あああー、怪談とか入りますもんね。

【和田】そう、『まんじゅうこわい』は、「お前は何が怖いんだ」、「まんじゅうです」って言って、「じゃあ、まんじゅうちょっと入れちゃおうぜ」って噺じゃない。でもそこにいかないじゃん。

【木積】確かに。

【和田】そこの関係ない噺、むちゃくちゃ多いじゃないですか。
逆に言うと、ここだけ取ったら短いじゃないですか。だから東京の『まんじゅうこわい』は短いんですけど。大阪落語はやっぱり『池田の猪買い』も、おっしゃる通りで、前半って別に動いてないから。動いてないでどうやって行くんだって会話をしてるだけじゃないですか。道中出る前の会話じゃない。
だけど、それ込みで移動っていうか、その世界のような、池田に行く世界みたいな感じがするんだよね。

【木積】今思ったんが、そういう行くまでのプロセス関係ないところって、なんか吉本新喜劇もそうなんちゃうかなと思ったんですけど、どう思います?
吉本新喜劇だって、何か策略とか計略とかやるまでにギャグとか、結構横道にそれるやつがあるじゃないですか。それと構造が似てるのかなあと。

【和田】そういうことなのかもしれないね。
『小倉船』とか『兵庫船』でも、船中のなぞかけとかやるじゃない。
あとクイズみたいなやつやるじゃないですか。

【木積】『矢橋船』だと、色問答とかも入りますね。

【和田】あれも筋の本質と関係ないですよね。
でも、あそこ省いたら面白くないんですよ。

【木積】確かに。

【和田】あそこ省いたら、いきなり進展しなきゃならない。

【木積】もうフカ出さなきゃいけない。

【和田】出さなきゃなんないでしょ。でも東京落語ってそうなるわけですよ。

【木積】『鮫講釈』でしたっけ。

【和田】『鮫講釈』でやって、何々とかけて何とかっていうのあるんだけど、『二人旅』とかにもあるんですけど、やっぱり借り物のような感じを僕はするのね。
あのどうでもいい迂回みたいなのを。
僕が自分で生で見たうちで『小倉船』で一番良かったのって(桂)文我さんなんですよ。

【木積】今の?

【和田】今の。雀司から文我になるとき、襲名披露のときに、東京の国立演芸場で会やって、昼の部に行ったのね。それが『小倉船』だったの。めちゃくちゃいいできだったんですよ。
それは後半の芝居がかったところとか、海に入っていったあとが素晴らしかったんだけど。前半の問答とかクイズのやつあるじゃん、化け物とかそういうの。あれがものすごいきっちりしてて、長いっちゃ長いんですよ。そこが、こせつかないの。
あれも理屈じゃん、「こういうふうにって言うのは何だ」って言って、「牛」とか言って取られて、次に第2問出されるじゃないですか。
「それは何とかだ」と取られて。でもABCとなって、最後に逆転するわけじゃない、全部の掛け金取っちゃうよってことじゃないですか。
あれも1、2、3、4って段階を踏むから、僕に言わせると関西っぽいんですよ。

【木積】まあ、理屈を好む関西のやり方。

【和田】そう。つながってる感じがするわけ。あれ抜けないじゃないですか、途中。

【木積】確かに。

【和田】あの段階があるから、最後にお前の売上高全部かっさらって、「そんなあこぎなことすな!」というふうになるわけじゃないですか。そこがものすごいきっちりしてて良かったという感じがしますよね。

【木積】確かに『小倉船』あそこ抜いちゃうと寂しいですよね。

【和田】寂しいっていうか、違う世界観になるよね。それこそ(古今亭)寿輔師匠とかやるけど。

【木積】『竜宮』ですか。

【和田】『竜宮』。あれなんかは全然違う価値観だよね。東京落語式っていうか、寿輔式になってる。

【木積】いやCDで聴きましたけど、別もんじゃあ。
でもそこがいいよなーって。あそこまでいったら『地獄巡り』とほぼ同じ世界なんだけど、いいよな、これもって。

【和田】寿輔師匠に『竜宮』やって欲しいって頼んだのは私です。

【木積】へええー!

【和田】知らなかった?

【木積】お手柄じゃないですか。

【和田】お手柄ですよ。絶対合うからって。
新橋演舞場の歌舞伎見に行ったら、寿輔師匠もおいでになってて。何だっけな『助六』、海老蔵かなんか見に行ったんだけど。たまたま休憩のロビーで会ったわけ、2階の。で、立ち話してて「師匠は関西の『小倉船』って噺ご存じですか?」 って言ったら、「知りません」って。「なんか題だけは聞いたことあるような気もしますけど」、「僕は絶対師匠に合うと思うんで。『地獄巡り』やってらっしゃるんだったら『小倉船』もできると思います」って、その場は別れて。
後日、いろんな録音とか資料を送ったわけ。
そうしたら寿輔師匠から連絡があって。
「これをやりたいと思います。ただし、自分流でやります」って。

【木積】何で合うと思ったんですか。

【和田】『地獄巡り』が、あれだけ面白くできてる人なんで、ああゆうちょっと反写実の世界に旅をするっていうのが、その延長線上でできるだろうなと思って。

【木積】僕、寿輔師匠の和田さんがプロデュースした……。

【和田】『トロピカル・ドリーム』。

【木積】『トロピカル・ドリーム』、あのCDってよくできてるなと思うのは、シンメトリーというか、合わせ鏡になってるなと思うんですよ。
『地獄巡り』と『竜宮』。
『英会話』と『代書屋』、これは残った新作っていう。
『死神』と『文七元結』円朝もの。
だからA面B面となって、よくできてんなあって。

【和田】なるほど。
いやあ、めっちゃいい話ですね、それね。全く意識してなかったけど。結果的にね。

【木積】あのチョイスって、そういう趣向を凝らすのって、和田さんって上手いなって。

【和田】あああー。あれは寿輔師匠とも相談したんだけど、寿輔作のやつとかは、あえて入ってないんですよ、『トロピカル・ドリーム』。

近過去のやつじゃなくって、『英会話』は
(柳家)金語楼ネタだから、もうちょっと遠いじゃない、世代が。
だからあの辺のやつを持ってきてるので、『英会話』を入れられたのは僕はすごく良かったなと。

【木積】あれ、Goodjobですよ。

【和田】あれはいいよね。あれ面白いよね。

【木積】僕、あれ大好き。寿輔師匠ので好きになりました。
だって考えたら、あんなアナクロな、今どきはないやろってネタやのに、めっちゃ笑わされました。

【和田】面白いよね。

【木積】『英会話』って、すごい落語として原始的ですよね。それこそ桂三枝時代に『アメリカ人が家にやってきた』っていうやつも、同じような趣向なんですよ。日本語を英語に変えた。でもストーリー性があるんですよ。アメリカ人がやってくる。
だから、それこそ和田さんが言う理屈……。

【和田】展開があるんだ。

【木積】上方は理屈を好む流れなのかなと。
だって『英会話』は、いきなりでしょ。

【和田】いきなりっていうか、現実の英会話はないわけじゃん。英会話を勉強しようぜっていうシチュエーションなわけじゃないですか。

【木積】自己流のね。

【和田】自己流で勉強しようぜって言って、英語身に付けようぜ、金棒だからゴールデンステッキです、っていうことを言うわけじゃないですか。落語っぽいですよね。
だから普通のドラマとして考えたら、なんないけど、あれをテレビドラマにしましょう、ラジオドラマにしましょうってなったら、少なくともアメリカ人とか出てこなきゃおかしいよね。

【木積】そうですね、何かハーフとかでもいいから。

【和田】そこで会話をしなきゃおかしいですよ、噺にするんならね。

【木積】それはやっぱり、江戸落語だからできる流れなのか、何だろう。
和田さんがチョイスするやつ、いいよなと思ったのが、グロテスクな表装してるじゃないですか。シャレコウベダンスとか。

【和田】そうそうそう。あれが昔の『黄金バット』とか分かる?

【木積】紙芝居とかああゆう。

【和田】ああゆう感じが僕はするんですよ。

【木積】ゴールデンステッキとか言いますよね。

【和田】そうそうそう。あの何かちょっと変な絵で書いちゃった、気持ち悪い魅力みたいなのが僕はあると思いますね。

【木積】昔のマンガの世界ですよね。

【和田】なのかな。

【木積】戦前ぐらいの。

【和田】関西の落語は、学生ちゅうか、2000年ぐらいがスタートですか? もうちょっとあと?

【木積】落語聴くようになったのですか。

【和田】三枝とかからスタートして高校生ぐらい、中高? NHKのライブラリーで。

【木積】そうですね、そのぐらい。でもそのときは仁鶴師匠の『不動坊』とかは見てたけど、ほんまにたまで。仁鶴師匠のCDとかも聴きましたけど、上方落語にはまるってほどではなかったんですよ。でもさっき言った、五代目文枝師匠の追悼放送で、『りんきの独楽』でめちゃくちゃはまったんですわ。

【和田】あああー、あれもお得意ネタですねえ。

【木積】口調が独特でしょ。女が得意って言うけど、よく聴いたらあんな口調の人っているのかなって。「母さーん」みたいな。
でもなんか不思議な魅力を。メロディーですよね、あそこまでいったら。写実的な表現というよりも。そこで『りんきの独楽』聴いて、『天王寺詣り』聴いて、『たちぎれ』聴いて、『菊江仏壇』とか。

【和田】ああ、なるほどね。

【木積】『菊江仏壇』、『菊江ぶったん(仏壇)』かな、こっちやと、言い方が。
あれなんかものすごい嫌な噺って言う人がおるんですけど、僕そんなに嫌とは思わないんですよ。そっちだと『白ざつま』でしたっけ。

【和田】『白ざつま』、まあ『菊江の仏壇』でいいんですけど、あれは馬生師匠が、ご本人の知恵かどうか分からないですけど、『白ざつま』ってタイトルでやってますけどね。
ちょっと気取りすぎのような気もするね。『菊江の仏壇』でいいと思いますけどね。

【木積】あの中に出てくる若旦那が、五代目文枝師匠がやると、ものすごいひょうひょうとしてる、無邪気なんですよ。

【和田】はいはいはいはい。

【木積】米朝師匠のも『菊江ぶったん(仏壇)』聴いてるんですけど、もうこら悲しいわって、救いようがないわと思うんですけど。文枝師匠の『菊江ぶったん(仏壇)』ってそこまで悲しくならないし、無邪気でええなあと思うのは、あの若旦那ってイメージですけど、文枝師匠の子どもなんですよ。若旦那になるぐらいの年齢なんやけど、中身は子どもなんですよ。

【和田】なるほどね。

【木積】自分で独り占めをしようとするような感じではないんですよ。
だから、あとで俺らだけで好きなことをすんのは、そんなんいややみたいな、「みんなで楽しもうや」って言うて、店早や閉めにして「お前ら好きなもの頼みや」というのが、親がいない間にぜいたくをするっていうのは、僕かてあったと思うんですよ。親がいない間に、好きなビデオ見たりとか、勉強もしないでテレビゲームやったりとか、何かその感覚に僕は近かったんですね。
和田さんは『菊江仏壇』聴いてどう思います?

【和田】僕はね、もちろん上方のも文枝さんとか聞いてますけど、東京の柳家さん喬師匠のベストワンのネタが『白ざつま』なの。さん喬師匠の最高傑作だと思ってる。
あれは素晴らしいんだけど、それは解釈としては、もうちょっと大人のさん喬師匠がやってらっしゃるんで、噺に僕はとっていて。
要するに自分の本当の奥さんがいます。どっちだっけ、菊江が芸者のほうだっけ。

【木積】芸者です。

【和田】芸者が菊江だよね。菊江というのがあれだけいいおかみさんがいるのに、何であの芸者にあなたはうつつを抜かすんですか、おかみさんが病気だって言ってるのにって噺になるじゃない。そのときに「それは言われなくても百も承知だ」と。分かってる。
そういうセリフじゃないんだけど、「菊江といたほうが楽なんだ」と言うわけよ。うちの女房は本当に良くできてる、だけど菊江というのは本当に子どもみたいに笑ったりとか、心が裸になってくれる人。だからあいつといると楽なんだって言って。こっちの満たされない部分をこっちのBの人で解消されているんだなというのが本当に分かるんです。

【木積】補っているって。

【和田】補っている、うん。だからそこがすごく面白くて。
ちょっと話がそれるんですけど、近松(門左衛門)の『心中天網島』っていう浄瑠璃があるのね、文楽や歌舞伎でもやりますけど。
それは小春、治兵衛といって、紙屋の治兵衛っていうのが、紀伊国屋の小春っていう遊女に、ものすごくはまって通っちゃう。で、自分のとこの奥さんがいるわけ。同じような話なのよ。それが何であんないい奥さんがいるのに、こっちの小春のほうにうつつを抜かして、最終的に小春と治兵衛が心中しちゃう、という筋のシチュエーションなわけ。
それを近松門左衛門が、元禄のころだから1700年ごろに書いたものすごい古い浄瑠璃があって。それは昔に書かれたから、理由が分からない部分があるわけなんですよ。

それを昭和になって、北条秀司という劇作家が『紙屋治兵衛』っていう戯曲にしたの。
つまり近松の原作を基に、原作にない場面を作って、なぜこの男は紀伊国屋小春にはまったかっていう話になってるわけ。だから裏版なわけだな。浄瑠璃の裏版として『紙屋治兵衛』というのを作った。
その北条さんの芝居を前に見てたら、動物的な、あいつの前では俺は動物みたいに戻れるんだって。あいつの前だと着物を脱げるんだ、精神的にと言うんですよ。というふうにして、うちの女房、良くできてるのは分かってるんだけれども、小春のことがどうしても忘れらんないっていうような場面があるの。それで最後に心中するんだけれども、それに似た主題だなって感じがする。

【木積】心理描写を書かれてるってことちゃう?

【和田】そうですね、その芝居に関しては。『白ざつま』に関して言うと、『菊江の仏壇』に関して言うと、そういうような非常に珍しい主題を持ってきた落語だなという感じがして。
何かすごいブラックじゃない。奥さんのほうは死んじゃうわけだから。
でもそこを最後、ああゆう感じに滑稽というかドタバタみたいに持っていくっていうのも、すごい面白いなと思って。

【木積】さん喬師匠の、聴きましたけど、あっこまでいくとドキュメンタリーやなあと。

【和田】あああー。それCDで?

【木積】CDです。

【和田】ポニーキャニオンのね、あれCDになってますからね。

【木積】あそこに出てくる若旦那は大人ですね。

【和田】そうですね。だからあれは落語の面白いところで、さん喬師匠のはそういうふうに解釈したから、そういうふうになったってことだよね。
ある別の人ので聴いたら、さっき木積さんが言ったみたいに『味噌蔵』って噺あるじゃないですか。

【木積】『味噌蔵』はいはい、ケチの。

【和田】そう。ケチの旦那がいない間に、みんなでぜいたくしてワイワイって言ってる間に旦那が帰ってきちゃうっていう。ほとんどあれに近いノリでやってた人がいたの。

【木積】ああ、それをね。

【和田】『菊江の仏壇』を。ばれないうちに親旦さんがいないうちに「みんなで遊ぼうぜー」と言って、親旦さんが帰ってきて「なんだこの騒ぎは」みたいになるっていうふうに。
なるほどなと。これは取りようによれば『味噌蔵』みたいになるんだなと思いました。軽いなとは思ったけど。

【木積】やり方っていうか、心持ちですよね。

【和田】うん。
今、関西で興味持っている演者っていますか。

【木積】関西で、ですか?
僕は笑福亭鶴二さん、松鶴の一番最後の弟子ですね。それと露の新治師匠ですね。

【和田】ああ、新治師匠いいよね。

【木積】五郎兵衛師匠のお弟子さん。この二人ですね、僕は。

【和田】露の新治師匠、僕も素晴らしいと思います。
新治師匠は、それこそさん喬師匠が、僕がらくだ亭っていう会のスタッフをやっているときに、大阪で露の新治さんっていう素晴らしい人がいると。東京に来て寄席に出たりするときもあるんで、タイミングがうまく合ったら、どうですかと推奨されて。
そのとき僕、新治師匠聴いたことがなかったんです。そうですかって聴いてみたら、すごく良くて。それでらくだ亭でも出てもらって。それもやっぱり良くて、お客さんからも評判が良くて、それはさん喬師匠のお眼鏡ですよ。

【木積】ちなみに何をされたんですか、そのときは。

【和田】何回か出ていただいたんですけど、五郎(兵衛)師匠がやってた『戸田の渡し』。

【木積】あっ、『雪の戸田川』。

【和田】『雪の戸田川』。

【木積】そのとき見に行ってます、私。

【和田】あれ、良かったよね。

【木積】あれ、良かったですわあ。

【和田】それから『(中村)仲蔵』もやってもらったし。

【木積】ああ『中村仲蔵』。

【和田】『中村仲蔵』あれも良かったと思います。あれも名演でした。
それと別の会で、文化放送でやった会とかだと『狼講釈』とか。

【木積】おおおお!

【和田】『紙入れ』もやってもらったかな。

【木積】ああ、お得意ネタですね。

【和田】そうですね。

【木積】『狼講釈』は、確か新治師匠が復活させたネタや言うてました。

【和田】そうなんですか。

【木積】なんか速記(本)か何かで読んで、確か五郎兵衛師匠と相談して、一緒に作ったって聞いたことあります。

【和田】いやあ、新治師匠素晴らしいよね。ある意味で五郎兵衛師匠の……。
あっ、あと『大丸屋(騒動)』もやっていただいたわ。

【木積】ああ、いいですねえ『大丸屋(騒動)』。

【和田】『大丸屋(騒動)』いいでしょう。

【木積】きれいだ、また。

【和田】そうそうそう。あれは五郎兵衛師匠もやってらして。
「いきなり何をゆうねん、お前ら。刀には切る刀と守る刀がございます」っていうやつね。

【木積】踊りの風味がまた違うんですよね、五郎兵衛師匠と新治師匠と。

【和田】あっ、そうですか。

【木積】京の舞妓の盆踊りがあるじゃないですか、途中で。その振りを、確か新治師匠が変えてるんですよ。

【和田】へえええ。途中でっていうか最後のとこでしょ。

【木積】まあ、ほぼ終盤です。

【和田】終盤のね。ほおお。『堀江の盆踊り』ってやつじゃないの。

【木積】『堀江の盆踊り』やったかなあ。

【和田】あっ、違うか。『堀江の盆踊り』はあれか。

【木積】『算段の平兵衛』!

【和田】算段か、そうかそうか。
鶴二師匠というのは芸術賞か何かの賞を取られた?

【木積】そうですね、確か取ってたと思います。
えーと、『替り目』と『野ざらし』とやったかな。
僕、この師匠好きなんは、五代目文枝師匠になんか近い雰囲気なんですよね。なんかカラッとして「アアー」みたいなアホ声というのか。誉め言葉ですよ!

【和田】はははは(笑い)、それ大事だよね。

【木積】何かすごい無邪気な感じで、ちょっと上手く言えないんですけど、『野ざらし』とかで。オールマイティー、いろんなものこなせるんですよ。酒ネタもやるし、芝居ネタも。踊りも、日本舞踊やってらっしゃるんで、芝居ネタもやるし、『算段の平兵衛』なんかもやるし、結構いろんなネタを。

【和田】東京ではされてないのかなあ。

【木積】柳家さん生師匠と二人会やってますよ。僕、近々見に行くんですけど。
そこでは新治師匠から教えてもらったっていう『中村仲蔵』を。

【和田】ああ、そうですか。
落語って、歌舞伎とか以上に東と西の、何て言ったらいいの。設定とか、この人が逆のことやるとおかしいってのを気にするよね。

【木積】逆のことやると?

【和田】例えば、歌舞伎って片岡仁左衛門が『助六』とか平気でやるんですよ。

【木積】『助六』って大阪のネタってことですか。

【和田】いや、江戸ネタ。江戸っ子のネタなわけ。だけどそれは演劇だから別にいいじゃん、役をやるんだからいいじゃんって考え方なんですよ。
例えば、僕が大好きだった亡くなった中村勘三郎は、代表作の一つは団七ですよ『夏祭』の。あれだって完全に大阪の話だからね。

【木積】ああ大阪の話ですね。

【和田】魚売りの団七の話だから。

【木積】長町裏とかでね。

【和田】長町裏とか高津神社の話なわけですよ。
落語的な価値観からすると、それって江戸の人が、何て言ったらいいんだろうな。
  
【木積】船場は鴻池のヨイ姫役みたいな。

【和田】そう、江戸の人が船場のなんとかの話をやっちゃってるのと一緒なんですよ。

【木積】ああ、言われてみれば。

【和田】理屈付けないで、整合性を台本改訂しないで、まんまやっちゃうわけ。
面白いと思わない? それ。
勘三郎が『夏祭』団七やって、仁左衛門さんがそれこそ『助六』やったり『切られの与三』やったりするわけ。『切られの与三』だって江戸っ子っていうか、江戸の人だから。
そこは平気なんですよ、歌舞伎は。落語ってそれあんまりないじゃない。あんまりないっていうか、ないじゃない。

【木積】もう移植するんやったら、ちゃんと地名とか変えなきゃいけない。

【和田】移植する場合は、その理屈に合わせるでしょ。それをしないんだよね。
けれども新治師匠の仲蔵っていうのは、『中村仲蔵』は動かせないから、半分ぐらい改定してるんだよね、設定を。

【木積】ああ、上方から江戸に下りましたって言ってますしね。

【和田】そう、上方から江戸に下った役者。だから大阪弁が入ってもおかしくないですよって。実際の『中村仲蔵』の史実の仲蔵とちょっと違うんだけど、そういうふうにしてますよね。

 テキスト起こし@ブラインドライターズ
 (http://blindwriters.co.jp/)

担当:伊藤ゆみ子

この度はご依頼いただきまして、誠にありがとうございました。
落語に詳しくありませんので、何気に聞き過ごしてきましたが、確かに上方落語と江戸落語と言いますね。今回のお話を聞かせていただいて、ちょっと検索してみました。
なるほど、成り立ちが違うので、それぞれ特徴があるのですね。演目が違うものもあると知り、驚きました。
関西と関東では呼び名が違う食べ物もありますし、文化にも違いがあると改めて感じました。
これから落語を聴く機会があったときに、上方落語か江戸落語かが気になります。
またのご依頼を、心よりお待ちしております。

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