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【PODCAST書き起し】「吉田大八さん山口貴義さん和田尚久さん三浦知之の落語放談」全9回(その6)黒沢明監督のキャスティングから
【PODCAST書き起し】「吉田大八さん山口貴義さん和田尚久さん三浦知之の落語放談」全9回(その6)黒沢明監督のキャスティングから
【山口】でも、そういう映画のキャスティングに関しては、やっぱあれじゃないですか? 黒澤明の影響あるんじゃないですか?
【和田】ああ、なるほどね。
【山口】黒澤明がそういうコメディ系の人、喜劇役者さんをちょっと違う色味で配役っていうの、もう必ずっていうか毎回やってたから。ワンポイントみたいな感じでね。
【吉田】え、例えば?
【山口】例えばなんだろう?
【和田】例えばエノケンとかそうですよね。
【山口】エノケンもそうですよね。
【三浦】あ、エノケンも呼んでるんですか。
【和田】あと、三波伸介。
【三浦】あ、三波伸介。
【山口】三波伸介。『どですかでん』。
【和田】『どですかでん』。
【山口】いや、なんか脇役で、顔で選んでワンポイント、しかもそういうコメディ的な役じゃなくて、そういう恐い役とかわびしい役とかで配役するっていうのは、もう黒澤明はもうパターン化してたね。
【三浦】それは、顔つきとかその存在感だけで出すっていう。
【山口】存在感で。うん。それの影響はもう、山田洋次はめちゃめちゃあると思いますよね。だからそれも、さっき言った近年のそういう俳優としてチャレンジしますっていうのとはちょっと違う。使い方の工夫みたいなのがね。脚本段階で、顔で合うってことだと思うんですけど。イメージキャストですよね。そういうのあると思いますね。やっぱりさっきも出たけど、俳優としてがっつりやった人では、もう桂小金治ってのはもう金字塔ですよね。
【和田】ああ、そうですね。
【山口】あの人でも二ツ目からだからね。要するに、噺家として完成する前に川島雄三に誘われて役者に行っちゃって、抜けちゃったのをずっと自分でコンプレックス持ってる人だから。ちゃんとした噺家に、真打になってないっていうので。
【三浦】あれでも、晩年になんか一回戻ってきた……。
【和田】やってました。
【山口】やってましたね、本多劇場とかでね。80年代ぐらいからですかね。
【和田】そうそう。結構やってて落語良かったですよね。
【山口】めちゃくちゃ良かったです。あれは本当にもう素晴らしい、
【三浦】やっぱそれはその、稽古はしてたってことなんですかね? それとも覚えたものはもう忘れない、染みついてて。
【和田】そう。そっちですね。だからネタ数は、その二ツ目の時に仕込んだネタなんですよ。『長短』とか、お餅食べる……なんだっけ?
【山口】『蛇含草』。
【和田】『蛇含草』とかね。あの辺のやつで、なんていうのかな……。覚えてるものでやるんですけど。それめちゃくちゃ良かったですよ。
【山口】めちゃくちゃ良かった。
【和田】『饅頭怖い』とかね。
【山口】『饅頭怖い』も良かった。あれはだから、そういう(桂)三木助とかその昭和20年代の、もう綺羅星のごとく名人がいた時に教わったまんまをやってたよね。
【和田】まんまですね。
【山口】本当冷凍保存されてた感じがすごかったよね。
【三浦】ある種、化石みたいなものが発掘されたんですね。
【山口】そう。本当にそれをライブでやってくれるので。
【三浦】それ貴重ですね。
【山口】だから、そのあとのなんていうの? 雑味がないっていう。
【和田】そうですね。
【三浦】むしろ、だからその何十年かやらなくて良かったっていうこと……。
【山口】むしろありがたい。こっちにはもう。
【和田】そうそう、世の中に合わせた部分が無かったから。
【三浦】自分のこう、スタイルが変わっていったりしてないってことですよね?
【山口】そうそう。ある種ご本人的には自分の落語を作ってないとも言えるんだけども、もうこっちにしてはもう、本当に記録、完璧な記録。
【三浦】かつて教わった通りに。
【和田】『幕末太陽傳』って映画のお二人から見たらどう見えますか? あの作品って。
【吉田】好きでしたよ、僕。ただ、もう全然映画を撮る前に、学生の時に最初観たのかな? いや面白いな、と思って。どれぐらい前、10年ぐらい前にもう一回観返した時に、あ、なんか思ってたのとちょっと違ったと思って。だから、落語聴きだすようになってから観たらちょっと違った、と思ったのを覚えてるけど。何が違ったんだろうな……。どうなんですか? 落語お好きな方々。
【和田】いや、なんか評価難しいですよね。すごく楽しいって片づけても良いし、落語をうまく処理するには、こういう風にするしかないのかなとも取れるし。でも落語の世界の居残り佐平次っていう、要するに落語の中でしか生きられないようなキャラクターを映像にして、それをフランキー堺ができているんで、それはすごいことだと思います。
【吉田】あ、でも、フランキー堺は好きかも、やっぱり。
【三浦】そうか、要は語り芸の中の登場人物を実像として描き出したっていうこと……。
【和田】描き出して、その……。
【三浦】きちっと存在感も出して……。
【和田】ある。多分、植木等にやってくださいっても、あれほどはまんないと思うんですよ。植木等と佐平次はキャラ似てるって言われるんだけど。
【山口】いや、全然違います。
【和田】違いますよね。仮にキャスティングしても合わないと思うの。
【山口】植木等は現代人だからね、無理よ。時代劇の人にはなんない。あれはやっぱ川島雄三がフランキー堺を見て「佐平次だ」っていう。
【和田】ですよね。
【山口】うん、あれはその通り。だから時代劇の人であり、演技自体がもう軽い。あんな羽織投げてスパッと切る仕草ができる人。
【和田】そうですよね。
【山口】スタスタスタって歩いて階段上がっていける人っていうのがやっぱりね。もうあの足取りの軽さが、やっぱ本当に素晴らしいですよね。
【和田】ああ、そうですね。そう、だから『幕末太陽傳』ってやっぱり、筋が進んでいくと映画がちょっとトーンダウンしちゃうんですよ。だから筋が余計なんです。言ってしまえば。最初の仲間でみんな登楼して、なんとかだぜってみんな飲めや歌えだとか言ってんのもめっちゃ面白いんですよ。でもなんらかの筋がないと進んでかないでしょ、映画って。
【三浦】映画はそうですね。
【和田】うん。そうすると、そのなんか足抜けをしようとした女郎がなんとかとか、多少そういうのも入ってくるわけ。そうするとちょっと停滞しちゃうんですよ。本来落語が語ってない、語る必要がないものなんで。
【山口】だからそこは落語話芸のところで、もう時空を自在に飛ばしちゃうんで。
【三浦】そっか、聴いてる方もそれで別に構わないわけですもんね。
【山口】そうそう、だからよく「落語は映像を想像してください」とか言うけど、あんなの嘘で。
【三浦】ああ、そうかそうか。
【山口】全部飛ばすのが落語家なんですよ、言葉だけで飛ばしちゃうから、映像じゃないのが落語。その部分が落語の本質なんで、そこがやっぱ決定的に。
【三浦】確かに「映像を想像してください」とか言う人いますよね。
【山口】あれは間違ってる、あれはもう。だから映画はもう映像見せざるを得ないので。
【三浦】映像無いと映画になんないですもんね。
【山口】だから、そこでどうしても間ができちゃうというか。難しいですよ。
【吉田】だから、落語を知らないで観たんですよ。最初ね。
【三浦】最初は。
【吉田】だから落語を知らないで観てる自分にとってはなんか、あ、なんかすごく面白い時代劇を観たっていうのは……。
【山口】そりゃそうですよね。
【吉田】左幸子、南田洋子、すごいきれい……みたいな。なんかもうそんな感じでしたね。
【山口】エピソード的にも、落語何本も入ってるから面白いわけですよね、普通に話としてね。
【吉田】そうそう。
【山口】それはまあ、そうですよね。で、『品川心中』とかね。
【和田】そうそう。
【山口】実際にやる馬鹿馬鹿しさったらないよね。『品川心中』で本当に水入って行くよ、みたいな。小沢昭一はまっちゃうよ、みたいなね。おっかしいよね、あれ。
【和田】そうですよね。あれ、でも不思議なのは、小金治出てないんですよ。つまり、川島雄三は、落語家の小金治をわざわざ連れて来たわけじゃないですか。なのに『幕末太陽傳』には出てない。それは会社の関係もあるのかもしれないんだけど。小金治、松竹に呼んだから。そのなんかね、契約のなんかあれがあんのかもしれないんだけど。なんか不思議なんですよあれ、配役が。
【山口】でもあれ、小金治がもし誘われ、オファーあっても断ったと思うよ。
【和田】ああ、なるほど。
【山口】逆に義理立てして。
【和田】逆に、なるほどね。
【山口】落語界に義理立てた人だと思うよ、性格的に。
【和田】そうかそうか。
【山口】ぐらいの、なんか几帳面な人じゃないですか。
【三浦】ここで俺がやっちゃったらっていう。
【和田】そうかもね。
【山口】ここで、ちょっと……。
【和田】だって川島映画のものすごい常連ですもんね。
【山口】いや、もうレギュラー。
【和田】レギュラーですよね。
【山口】川島組のトレードマークですからね。
【和田】そこが、あれだけ出てないんですよ。
【三浦】ああ、じゃあ断ったかもしんないですね。
【和田】そうですね。
【三浦】それか、川島監督もその辺を分かってて……。
【和田】あ、そうかもしれない。
【三浦】起用しなかったかも。
【山口】だって川島雄三すごいですよね、芦川いずみだって引き抜いたわけでしょ。
【和田】ああ、そうなんですか。
【山口】SKDから持ってきたわけでしょ。
【和田】ああ、そうなんだ。
【山口】女優になった方がいいとか言って。あの慧眼たるや、もう大変なもんですよね。あれも30代とかですかね、川島雄三が。やっぱりすごいですよね。
【和田】あと、林家しん平さんが自分で監督した『落語物語』っていうのがあるんですよ。それは、なんかすごい大名作っていうんじゃないけど、普通に観られる。
【三浦】林家しん平?
【和田】うん、それで映画館とかでもやって、柳家わさびっていうのが若手落語家……。
【山口】柳家わさびって、今いる、あのわさびですか?
【和田】うん。それで、師匠夫婦っていうのがピエール瀧と田畑智子。
【吉田】あ、最近の映画だ。
【三浦】ああ、最近
【和田】最近最近。
【吉田】林家しん平さんってあれですか? キャッツアイのサングラスしてた人?
【和田】そうです。そういうネタをやったりとかする人なんですけど。
【吉田】分かったかも。
【和田】で、自分で作って。で、しん平さんが撮ってるから、やっぱりなんかあんまり不自然じゃないんですよ。で、そのピエール瀧と田畑智子の夫婦がいて、そこに若い弟子が……わさびなんだけど、いて。で、まあまあそう、細々した話ですよ。
【三浦】本当の落語家の日常ですか。
【和田】そうそう。
【吉田】あ、あれあったじゃないですか。『の・ようなもの』が。
【和田】ああ、そうですね。『の・ようなもの』は、あれはそれこそ終わり方が良い。あれは終わり方が良いんです。つまり『の・ようなもの』がなぜ良いかっていうと、最後にビアガーデンみたいなとこ行って、ビール飲んで終わるんですよ。ビール飲んでるだけで終わるんですよ。それが結局、時間がループしてる感じがするの。時間が過去、現在、未来って風に進むんじゃなくって、この人たちって同じとこにいるんだねって感じがするんですよ。来年もこんな感じなんだろうねっていう雰囲気が……。
【三浦】ずっと変わらず。
【和田】変わらずで、変わらず駄目だし、変わらず面白いかもしれないし、そこにいるんだっていうのを言わず語らずでなんか見せてる。だからあの終わり方僕すごい好きです。
【吉田】なんか、さっきの感情移入の話でいえば、やっぱ伊藤さんはあの時、多分映画出演、演技もしたことない人ですよ。だからすごく、だから本物のへたくそな落語家に見えましたよ。
【和田】あ、そうですね。
【吉田】すごく個性があるへたくそな……。
【山口】栃木訛りなね。
【吉田】落語家に見えた気がする。ああ、なるほどね。じゃあ、落語っぽいっていえばそうだな……。『の・ようなもの』もまさに落語の話ですけど。
【和田】終わり方がって意味ですけどね。
【吉田】ループね、確かに。
【和田】なんか、その変わんないとこにいるよね、っていう感じで終わるっていうね。だからそうじゃないですか、落語の世界って。
【三浦】落語、そうですもんね。
【山口】いや、それはちゃんと……。
【三浦】時間経過しないですもんね。
【和田】経過しないでしょ?
【三浦】空間も別に特定しないし。
【和田】成長もないしね。
【三浦】あ、まさに落語的かもしれないですね。
【山口】ちゃんと映画的に処理してるのはすごいですね。それはね、時間をね。
【三浦】独特なのを……なるほど。そういう視点で。
【山口】それこそ落語の時間のことについては、和田さんはご本で書かれてる。『幕末太陽傳』がいかにいいかっていう……。
【和田】『幕末太陽傳』というか、だから落語と、落語以外の講談とか浪曲っていうのは時間の流れ方が違うんです。
【三浦】ああ、そうですね。
【和田】うん。ちゃんと過去、現在、未来って流れていくのが、いわゆる物語の時間なんですね。
【三浦】講談って物語ですもんね。
【和田】そうです。だから、みんな講談師っていうのは出てきて、「大岡様が3人さばいたうちで本当に憎んでも余り余ると言った、『畔倉重四郎』の物語を申し上げます」とか言って。もうなんか先に結末を言っちゃうんですよ。
【三浦】そうですね。あ、そうかそうか。
【和田】それから、「由比正雪が転覆をたくらんで、その顛末だ……『慶安太平記』でございます」とかって浪曲師とかも言うし。だからそれはもう、過去に完了してる話をする。
【三浦】もうみんなが知ってるもんだ、っていうことが前提になってる。
【和田】そうですね。で、落語ってのはそうじゃないんで。そこで語るんですね。
【山口】だから映画にすると、前に時間を進めなきゃいけないんで難しいんですよね。
【和田】そうですよね。
【山口】それが矛盾しちゃうんですよね。
【和田】だから、映画とかでいうと『トムとジェリー』とかが一番近いんですよ。ずっと同じとこでぐるぐるやってて。毎回話は違うんだけど、大体こう追っかけっこしてなんか盗んで、なんとか怒られたとか言ってそれで終わるんですよ。
【三浦】まあ、コントが挟まれ、コント……。
【和田】で、別に昨日、今日、明日って無いわけ。
【三浦】無いですね。
【和田】常にもうなんかネズミと猫が走ってるとかさ、そんな感じなわけで。
【三浦】追っかけっこしてると。穴に入り……。
【山口】いやアニメ、昔のカートゥーンっていうのは本当に落語っぽいですよね。
【三浦】ああ、なるほど。
【和田】そうですね。
【山口】本当に森卓也先生じゃないけど、そういうドライなとこも含めてね。
【三浦】それはやっぱり、別に民族とか国家とかこう、考えずにそういう素養があるってことですよね。
【山口】なんかセンスがあるんでしょうね。笑いの……。
【三浦】日本人にも、あるしアメリカ人にもあるし。
【山口】そうそう。
【三浦】ああいうの不思議ですね、そういうのはね。
【和田】なんかジャンルって嫌でも進化しちゃうじゃないですか。そこが残念なとこですよね。だからこれは小林信彦さんが書いてるけど……スラップスティック・コメディって素晴らしいと。例えばキートン素晴らしいとか、初期のチャップリン素晴らしいとか。だけどそれを1970年代にやったらいやらしい。全部が進んじゃってるから。それを「大人が赤ん坊の真似したら変でしょ、っていうのと同じだ」って彼は言ってるんですけどもね。
【山口】あれはなんでそう、社会が複雑化したってことなんですか?
【和田】文明が、ってことでしょうね。
【山口】文明が。やっぱ、なんだろう……。一般的な知識量というか経験量が増えちゃったってことですよね。
【和田】そうですね。
【山口】もう、一回知っちゃったってことですよね。
【和田】そうそう。文明が進んだから戻れないっていうことでしょうね。
【山口】戻れないんだよね。
【三浦】でもじゃあ落語は、別にそんな当時のままで結構そのまま来てるわけじゃないですか。ある種幸せなことっていうことなんですかね?
【和田】そうですね。うん。だから、その分時代と離れちゃうのかもしれないけどね。
テキスト起こし@ブラインドライターズ
(http://blindwriters.co.jp/)
担当:にゃんごろ(ペンネーム)
この度はご依頼をいただきありがとうございました。
大変興味深いお話で、聴いててとても楽しかったです。
そのなかでも、『幕末太陽傳』のお話のところが特に興味深かったです。映画には筋が必要、でも落語で語られないところを描くとトーンダウンしてしまう。なかなか難しいのですね。でも、いろんな落語が作中に散りばめられていて、しかも『品川心中』を実際にやるっていうのもとても気になり、是非観てみたいなと思いました。
素敵なお話をありがとうございました。