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【PODCAST書き起こし】「講談的なる落語」とは?和田尚久さんに三浦知之が聴いてみる(全4回)(その4)

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【三浦】山下さんのほうから講談のことでは何か。

【山下】そうですね。僕が質問したいなっていうのは皆さん答えていただいたんですけど、三浦さんが最近講談をよくご覧になっているっていうので、神田伯山が出てきて講談に行く方の流れが変わったから、さっき和田さんもおっしゃっていたみたいに大衆が物語性を求めていて、大変な時代だからたぶん資本主義も終わりを迎えつつあるので、そういうの、みんな薄々と感じていると思うんですね。

【三浦】資本主義の終焉。

【山下】新自由主義の終焉と共に『井戸の茶碗』みたいなお金に頓着しない人たちが出てきた噺が人気ていうのはすごく理解できたんですね。僕の質問としては、伯山とかを見られるようになって三浦さんの興味の対象が講談にすごく移ってこられているような気がしていてこの数年。それはなぜなのか。和田さんも講談についての今の状況をどう思ってらっしゃるのかちょっと聞いてみたいんですけど。

【三浦】まず私から言うと、さっき和田さんがおっしゃった今の時代がそういうものを求めているっていうのを聞いて、伯山の人気、講談が盛り上がっているのはちょっと腑に落ちましたね。やっぱり悪人の話であれ、善い人の話であれ、『赤穂義士伝』であれ、そういう物語性を人たちが求めていて、わかっているかわかっていないかわかりませんけど、松之丞改め6代目伯山はそこをうまくとらえて、しっかりと今の聞き手にしっかりと届く読み方をしていますよね。そこはすごく思いました。どんな話を聞いてもそこらへん観客にものすごく敏感に空気を察知して話を読んでいるなっていうのは私思ったので、そこの時代が求めているものに対して松之丞は出てきたときから合致したんじゃないかと私は思います。

【山下】和田さんはいかがですか?

【和田】講談が今どう変わってきたかということですか?

【山下】そうですね。講談が今わりと聞く人が増えてきているような気がしていて、たぶん物語性を求めているというようなことが。

【三浦】実はそこでいうと、そんなに増えちゃいないんですね。伯山の高座はとにかく売り切れるし、伯山がちょっと名前入っているだけでどんな講談会も売り切れちゃうんですけど、他の講談会はそうでもないです。

【山下】そうすると、彼だけが飛びぬけているということになるのですか?

【三浦】人気的にはそうですね。別に技術じゃないですよ。それは置いておいて人気は飛びぬけていますね。まあ浅い講談歴なのでそんな多くは語れないですけど、やはり師匠の松鯉先生とか伯山が高座でよく話す愛山先生。やはりとても良いですよね。やはり昔ながらの感じは伯山とは違う講談の読み方があるので、うまく伯山さんはさっきも言いましたけど、今の聴衆にこびるのではなくフィットするように話しているし、高座のふるまいもそういうふうにしているんじゃないかとは思いますけどね。

【和田】今、講談をちゃんと聞くような状況になっているのはさっきも言ったようにかつて19世紀にみんなが浄瑠璃を聞いて涙した、そのあとに明治とか対象の頃には落語ではなくて浪花節を聞いて自分を重ね合わせたっていう状況がちょっと形を変えて今再来しているのだろうなというふうに思います。現実にお客さんが来て聞く状況ができているというのはとても良いことだと思いますね。伯山さんの話にならざるをえないですよね、講談の状況が。

【三浦】現状そうですよね。

【和田】彼は、やはり落語でいうと志の輔さんなんかがなさったことに近いと思っていて、それは彼自身が言うように談志師匠の影響下でもあると思うんだけどそれはどういうことかというと、私自身そんな講談の会とか行ったことがないんですけど、見ていてもつい数年前までの状況というのは本当に狭いところのお客さんしかいなくて、その狭いゾーンの中でこの人は良いですねとかこの人は何とかだねと言う評価があったと。だけどそこじゃない外の人にコミットしなきゃ意味がないんだよっていうのを非常に明確にしていると。だから、これの前回か前々回に言ったと思いますけれども、志の輔さんがPARCOに呼んでいるお客さんていうのはいわゆるマニアの1万人みたいな文楽さんは何とかでしたよっていうようなものをあえて言ってしまうと除外している。その人たちを相手にしているんじゃないんですよと。

【三浦】もっと一般化しているということですよね。

【和田】一般のテレビも見る、他のミュージカルも行く。

【三浦】漫才も好き。

【和田】そういう人たちの中に落語を置いてジャッジしてもらいたいというふうに舵を切っていると思うんですね。伯山さんはやはりそっちだと思う。だから彼が繰り返し言っているのは、自分の師匠とかそれ力関係もあって言っているのかもしれませんけど、師匠とか先輩とかそういう人たちを、自分を入り口にしてそれを聞いてほしいと。

【三浦】それは言っていますね。自分は広告塔であると。

【和田】だからそれは非常に良いかたちでね、ある種自分がラジオとかで悪役になっていましたけどね。

【三浦】ラジオでは悪役に徹していますものね。毒舌と。

【和田】というのが一つですね。

【三浦】志の輔さんのやろうとしていることと近いものというのはおっしゃっていることよくわかりますね。まさに今そうなっていますものね。良い悪い別としてテレビにもすごく出ているし。

【山下】あと、それと同時に、10数年前『談春七夜』とかっていうので7日間連続上演をいろんな演目をしてましたが。伯山も今年はコロナで中止になりましたけど、あれ7日間ですか? 連続で。5日間。

【三浦】今年は『宮本武蔵』で5日間ですね。だいたい5日ですね。

【山下】そうするとそれをかけることの出来る講談師ってなかなか、お客さんが集まらないと難しいじゃないですか。それも果敢に挑戦しているのが僕、格好いいなと思っていて、ちゃんとチケットも売れるみたいな。

【三浦】本来だったら講談が盛っていた頃っていうのは、寄席なり講談の会のところで連日やるわけじゃないですか。そうすると当然持ち時間があるので、これから面白くなりますがなんとなんとお時間でございますって言って連続でやっていくわけなので、皆さんやろうと思えばおできになるわけですよね。ただ、単独の講談の会として集客を考えれば、松之丞改め伯山くらいにならないと。そうは言っても池袋の会場とか、清澄白河の江戸資料館、200とか300くらいの客席ではあるんですよ。だから談春とはまたちょっと違うとは思うんですけど、力量はもちろんあるし。

【山下】芸人としての、成長していこうという気迫が、それがないとたぶんできないんじゃないかな。

【三浦】そうですね。やはり講談師として一丁前になりたいっていうのはあるんじゃないですか。70のときの私を楽しみにしていてくださいって必ず高座でも言いますから。

【和田】僕は伯山自身すごくリスペクトというか、よく名前出しているんだけど、彼の先輩で神田阿久鯉さんていう人がいるんですよ。

【三浦】そうですね。阿久鯉姉さん。

【和田】阿久鯉さんは伯山なんかが登場する以前から四谷の須賀神社っていうところで独演会をやっているんだけど、それが連続ものなんです。だから4月に例えばなんだ? 『水戸黄門』なら『水戸黄門』の第1話と第2話やります。その2カ月後に第3話第4話やります。その次の会で第5話第6話やりますってガーっとやって10何話やって最終回ですって言って、その次から次の話が始まるんです。それをずっとやってらした人で。

【三浦】今はもうやってないのですか?

【和田】やってます。

【三浦】やってますか。須賀神社。それは行きたいな。

【和田】今ちょっとコロナの状況であれなんだけど、松鯉先生が続きものを聞かせるのが講談であるというはっきりしたビジョンを打ち立てて、阿久鯉さんはそれを本当に良いかたちで継いで、それも今言ったような感じでその四谷の会っていうのは基本的に1席ものじゃなくて2年聞いて全部コンプリートするみたいな感じでやるわけなんですよ。だからそれをやってらっしゃるのは本当にすごいと思うし、阿久鯉さんは芸もすごく面白いので、僕はこの人は重要人物だと思っています。やはりあそこの一門ていうのは阿久鯉さんがいて、阿久鯉さんが今50代くらいだと思うんだけどそれがいて、後輩の、どのくらい後輩になるのかちょっとわからないけど、今伯山氏は15年くらいですよね。なっているっていうのが、15年経たないか。2017年に「まっちゃんまつり」10周年とか言ってたんだからね。経ってないですね。13年くらいか。

【三浦】普通の大学に行って、22歳で卒業して入門してるから15年くらいになるんじゃないですかね。きっとね。

【和田】そうですね。この二人が良いと思う。それから、さっき言った物語の全体像を見せるっていうのは、これは松鯉さんが打ち出した、ある意味で松鯉さんの師匠の2代目山陽さんよりも強く打ち出しています。じゃあ2代目山陽さんが通し公演とか長講の全十何話やっていたかというとそういう活動はそんなにされてなかったですね。だからある意味で2代目山陽さんより古典回帰というかテキスト回帰をしてやったのが、それが今になって花になっているなというふうに思いますね。

【三浦】そうですね。今講談の定席と言われているところがあまりないわけですよね。

【和田】あまりというかないですね。昔は本牧亭というのが。

【三浦】そうですね。本牧亭もうないですものね。だから結局自分の会をやるとして、じゃあ連続読みやろうって踏み切ればそれは力量があればできるし。阿久鯉姉さんと松之丞の「車読みの会」って2回くらい行ったことがあって、それこそ『天明白浪電』、泥棒の話と『畔倉重四郎』両方やったんですよ。これやっぱり良かったですよね。阿久鯉姉さんとても良いですよね。

【和田】僕も阿久鯉さんて『天明白浪電』ていうのが悪党っていうかさ。

【三浦】悪党だけれどもどこか憎めない。悪党の中にいいやつもいますからね。

【和田】あれはやっぱりすごく面白くて。

【三浦】面白いですね。『天明白浪電』。

【和田】宿場町の女郎屋の旅籠と称した女郎屋のやりてばばあとか出てくるんだけど、それが阿久鯉さんがやるとすごく良い。

【三浦】それ『金棒お鉄』。あれ良いですよね。

【和田】僕はあとね、本当は伯山さんが登場する前に、2000年になるかならないかの頃に神田ひまわりさんていて、今、日向ひまわりで亭号を変えて日向ひまわりになったんだけど、この人が出たときに本当に僕は講談の救世主だと思ったわけ。そのとき18、9かな彼女が。それで天才少女現るだと思って、口調は良いし、きれは良いし、素晴らしかったですね。僕は聞きにもいったし、ラジオの放送で日本橋が開通してね、橋の。それが架橋されて何百周年300周年だったかな? それでちょっとラジオでストーリーを作る番組があって、それを講談風に書いて彼女にまだ20歳くらいのひまわりさんにやってもらったんです。それが彼女の初放送仕事だったんです。だからそれすごく私にとっては思い出深いんだけどそれはともかくとして、講談の本当に素晴らしかった、かったって言っちゃうのは失礼なんだけど。今真打になってやってらっしゃるんだけど、もう1回ひまわりさんがネタを仕込んだりしてピリッとやってくれたらすごく変わるんじゃないかなと僕は思います。

【三浦】神田ひまわりさんていうのは誰の弟子?

【和田】2代目の山陽さん。だからつまり、松鯉さんと同じ一門なわけです。

【三浦】弟弟子・妹弟子。

【和田】そう。2代目の山陽さんていうのは本当に晩年まで90くらいになるまで女流の方をいっぱい取っていた人なんですよ。

【三浦】なんで亭号変わったのですか?

【和田】詳しくは知りません。だけどちょっと独立して自分で神田派から日向っていうのを打ち立てて、たぶんひまわりから作ったのかなということだと思うんですけれども。

【三浦】じゃあ今でももちろんやってらっしゃるわけですよね。

【和田】やってらっしゃいます。ただ、僕が天才少女現れると思ったときがあるんだけど、そこからすると今も普通に寄席とか出てるんだけど、もっともっと今の10倍くらい輝いてというかそこの場所にいてしかるべき人だと僕は思っているということですね。

【三浦】今、少し充電状態みたいな感じですかね。寄席にも出てますか。

【和田】芸術協会を。

【三浦】芸術協会で。

【和田】またね、ひまわりさんが出る時刻っていうのがたいてい昼12時とか早いんだよね。なんかもうちょっと見やすいポジションで出てくれないかなみたいなのはあるんだけど、てなことで。

【三浦】ちょっとひまわりさんも見てみたいと思います。

【山下】そろそろお時間になったんですけど、ちょっと今日振り返って講談の落語と世界観が全然違うとかっていう話も面白かったし、本当に物語を語っていくみたいなところもあったけど、でもやっぱり落語と講談の重なっているところもいろいろ教えていただいてすごく勉強になりました。最後にお二人にご感想か何かをいただいて締めていきたいと思うんですけどよいでしょうか?

【三浦】今日も和田さんの広範かつ深い経験から出ている知識の中からいろんな面白い話が聞けて本当に楽しかったです。まだまだ講談のこととか落語のこといろいろこれからも和田さんに聞いていきたいと思いますので、これ聞いてくださっている皆さんもさらなる期待をしていただければと思います。和田さんありがとうございました。

【山下】和田さんいかがですか?

【和田】結局講談の話をしても落語の話をしても古文書をね、ここにこういう本棚開けたらこういうのがありましたっていうんじゃなくて、今の現代の中でどういう意味があるのかっていうのが結構大事かなと思っていて。

【三浦】そうですね。それは談志師匠もおっしゃっていたことなわけですよね。

【和田】それがやっぱりこういうふうに3人で話していると自分でも発見がありますし、確認ができるので面白かったです。

【三浦】ところでSWAってあるじゃないですか。あそこに参加していた山陽さんてどうしちゃったのですか?

【和田】神田山陽さんは今北海道に住んでらして。

【三浦】あの人4代目ですか?

【和田】3代目。

【三浦】3代目か。

【和田】3代目山陽。だから前の2代目のあと。みんなよく松鯉先生とか伯山さんとか行方不明って言うんだけど。

【三浦】行方不明って言ってますね。

【和田】行方不明って言ってるんだけど、それは名簿にも北海道の住所載っていますから行方不明ではないんだけど、僕は名簿送られてくるので。

【三浦】わざと言っているということですね。

【和田】わざと言っている。でも要するに行方不明っていうのは、向こうが連絡とろうとしても無視するらしいんです。だから連絡がとれない。音信不通。確かに高座やらないしね。だから伯山さんなんかは山陽さんが復帰したら面白いんじゃないかっておっしゃってますけどね。

【三浦】そうですよね。だからSWA見始めてすぐいなくなっちゃったので、どうしたのかなと思って。

【和田】あれ結構黒歴史ですよね。

【三浦】そうですよね。

【和田】SWAっていうのは本当は5人なわけですよ。ところがいろいろ抜け方が良くなかったらしくて、突然いなくなったらしいんですよ。山陽さんがね。突然ていうか一方的にね。だからSWAのコメントを見ると彦いちさんとか最初から4人だったということになってます。わかります? SMAPの抜けたのが正式みたいな。

【三浦】森君はいなかったと。

【和田】いなかったみたいな感じで、SWAも5人ってもう言わないんだなって。でもいますよね、初期まで。

【三浦】いますよね。

【和田】普通にいるんですけど。

【三浦】急にあれ? いなくなったなと思って。一時Eテレとかもたくさん出てましたものね。『にほんごであそぼ』とかも。

【和田】そうですそうです。それで鼠小僧がサンタクロースに二重写しになって、みんなにお金をプレゼントをあげちゃうっていう彼の新作があるんですけど、それが偶然だと思うんだけど、『野田版 鼠小僧』っていうのとすじがかなり似てる。すじというかアイディアがね。

【三浦】良い話ですよね。鼠小僧がサンタクロースになってお金配る。良いですね。現代にぴったりじゃないですか。

【和田】北海道にいるらしいです。

【山下】じゃあ北海道で山陽さんに会えるかもしれませんね。

ということで、
最後にお知らせです。BRAIN DRAINではノートを開設しております。本日のトーク内容の詳細や補足を載せていますので、ぜひチェックしてくださいね。それでは引き続きBRAIN DRAINのcontentsを応援してください。ということでまた次回よろしくお願いします。ありがとうございました。

【全員】ありがとうございました。

文字起し
担当:越智 美月
ご依頼ありがとうございます。
たくさんの演目や様々な講談師さんのことを知ることができていつもとても勉強になっています。また、私も『にほんごであそぼ』は昔見ていたので、神田山陽さんがすごく懐かしかったです。子供の頃に毎日見ていた山陽さんの講談を是非聞いてみたいと思いました。
ありがとうございました。


テキスト起こし@ブラインドライターズ
(http://blindwriters.co.jp/)


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